8
今日の朝に弟と連絡がついた、不安は杞憂に終わり特に何も変わり無く、
寧ろ妙に焦った風な俺の方が心配されたぐらいだ。
とりあえずはそこで一安心してまたいつもの色の無い息苦しい1日を過ごして寝床に着く。
そして俺はまた色鮮やかな夢を見て夜中に目が覚める。
気のせいかも知れないが、
夢を記すようになってから少しずつ現実の方が色づいてきたような気がする。
ー
自分がどこにいるのかわからない。
荒れ果てた大地。
足場の悪い山岳地帯だ。
隆起した地盤から赤茶けた土が剥がれて岩肌が牙を剥いている。
水っ気の全く感じられない土地で何故か自分の背丈程の細い木がちらほらと生えていてその斜に構えた頭には緑の葉が
何となく自分が住む世界とは違う世界のような。
夢ならではの違和感が強く印象に残っていた。
しかしこんな所で、
俺は腰ミノ一丁で何をしているんだ。
俺は自分のけったいな身なりを夢特有の視点でまじまじと確認していると自分の意思とは別に腰ミノの俺が足場の悪い地面を裸足で踏み蹴り駆け出した。
急に走り出す腰ミノ。
何かを見つけたかのように真っ直ぐと、縦横斜めと道なき道を器用に飛び跳ねるように突き進んでいく。
しばらくその疾走感を楽しんでいると腰ミノは急にスッと立ち止まってしまった。
どうやら目的地に着いたようだ。
腰ミノは俺の顔をして真剣な眼差しをそれに向けた。
そしてそれはこちらにも気づいたのかその視線に応えるようにとてつもなく巨大で、それでいて何とも形容し難いような声で吼えた。
腰ミノが探していたもの、それは
ビル一棟程はあろうかという巨大な黒い龍だった。
漫画で良く見た大きなトカゲのような体躯にゲームで憧れた大きな翼。
長い尻尾をゆらゆらと揺らしながらこちらを見つめるその姿は狩りとかして遊ぶあのゲームに出てくる黒龍その物だった。
夢の中で俺は正直興奮していた。
ずっとこんな夢が見たいと思っていた。
剣と魔法とドラゴンと、大人になって忘れていたファンタジーな非日常への憧れが今俺の夢の中で叶っている。
気分も良く意気揚々とさあ黒龍よ、いざ尋常に勝負!
と意気込むと開戦の合図に呼応するかのように黒龍は長い首を振りかぶってこちらを狙って火球を打ち放ってきた。
腰ミノの倍程もある大きな火の玉が猛スピードで迫ってくる。
しかしこんな夢だからか昨日まで見てきた夢のような恐怖感は俺には無かった。
腰ミノ一丁なのに。
俺はこのまま何も出来ず焼け死ぬのか、それともどうにか出来るのかと少しワクワクしていた。
そしてやはり腰ミノは俺の意思とは関係無く動き出す。
その場で垂直に跳び軽々と火球をかわし、着地と同時に黒龍目掛けて突進する。
黒龍は腰ミノに近寄られたくないようで一発目よりも小粒な火球を連続して放ってくるが腰ミノはまるで意に介さず走り続ける。
そしてとうとう黒龍との距離は後数歩の所まで縮まった。
高速で走る腰ミノは自身の間合いを測るように小刻みなステップを踏み黒龍の正面から難なく懐に入り込む、そしてそのまま握った拳にスピードが乗るように腰を入れて小さく振りかぶる。
黒龍の脇腹にリバーブローがクリーンヒットした。
人智を越えた腰ミノのパンチ力は規格外の体格差をものともせず、黒龍の体は大きく揺れ地響きを立てながら体を横たえ苦しそうに咆哮を上げている。
黒龍相手に一撃でダウンを奪うも腰ミノは止まらない。
更に黒龍の背後に周りその長い尻尾を綱引きのように両手で掴み、柔道の一本背負いのように振り上げた。
夢は凄い。
ビル一棟程ある黒龍を殴り倒し、投げ飛ばしている。
腰ミノを中心に大きく弧を描いて投げられている黒龍がスローモーションで俺の目に映る。
これは止めの一撃になるだろう。
何故かそう確信した時、
スローモーションが解け、黒龍は高速で山岳地帯の尖り荒れた地面に叩きつけられた。
インパクトの瞬間、世界は揺れその衝撃は波紋のように広がり辺りの岩を砕きただでさえ少ない樹木を全て薙ぎ倒していく。
そしてその衝撃波が止むと共に段々と土埃が静まってくると、
クレーター化した大地の中心で型にはめたかのようにキレイに地面にめり込む黒龍の姿が見えた。
動き出す気配は全く無く、既に事切れているのが一目で理解できた。
腰ミノの、勝ちだ。
ー
ここで俺は目が覚めた。
夢の中での俺は、腰ミノ一丁で巨大な黒龍をも素手で屠り倒した。
その爽快な余韻はまだ残っている。
忘れないようにと夢の記録を続けているがこの夢については尚更書く速度が上がる。
記憶が薄れる前に内容をなるべく事細かに記録したいのだ。
これはいい夢だった。
明日もまたこんな夢が見られるとわかっていたとしたら、自分が見たい夢を好きに見られるなら、
朝起きてから寝るまでに過ごす1日も変わって見えるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます