4
目を覚ました時、いや。
夢なんだから少しおかしい。
何て言おうか。
意識を手に入れた時?これでいいか。
夢の中で意識を手に入れた俺は何かから必死に逃げていた。
城のような立派な建物の外側、多分庭だろう。
どんより曇った空と無造作に立ち並ぶ黒ずんだ枯れ木林のある風景を覚えている。
夢の中で走っている感覚は苦手だ。
頭の中でイメージしているスピードの半分も出せていない。
足が大きさの合わない車輪のように空回りしてしまう。
前を向き必死に黒い林に向かって駆け進むが近づいているような気が全くしない。
現実で本当に走ってる時のような視界の揺れしか実感する事が出来ない。
そして何よりも嫌な事がある。
夢の中で走っている時は大概後ろに恐ろしい何かがいるという事だ。
この恐怖は目覚めた後にじわじわと肌に纏わり付いてくる。
薄暗い夢の中、走っているようで走れていない俺の視界が映画やドラマのスリルが近づいてくるシーンのように前と後ろとコロコロ切り替わる。
後ろに視界が移る度、遠くから何かが段々近づいて来ている。
人のようだ。
恐らく男で顔は、なんだか良くわからない。
目も鼻も口も有った筈なのだが上手く思い出せない。
しかし服装は大まかに記憶している。
黒い長袖に灰色のズボンだった。
走りながらこちらへ向かって来る男の両手には
長い槍が握られていた。
冗談じゃない。
悪夢という物は時間が進む度に情報がコマ送りのように更新される。
俺を追っている男は徐々にその成りを明らかにしていき、とうとうその両手に握る黒く大きい三ツ又の矛先を持つ槍を俺に認識させるに至った。
これはつまり、俺に追い付いて来たという事だ。
接近されるにつれ、相変わらず走れてない足に少しずつ力が入っていくような気がする。
もちろん早さは変わらない。
恐怖感が増していき怯えているような情けない声を出す。
この時、寝ている自分もきっと同じような呻き声を上げていた事だろうと思う。
次に視界が後ろに移ると男はその表情すら判別出来る程に近づいていた。
でも顔は本当に全く覚えていない。
どんな表情だったろう。
自分の記憶にある誰かなのか。
もしく脳内が勝手に生み出した全く知らない誰かか。
後者なら迷惑な脳だとも思うし空恐ろしくも思う。
自分の知らない誰かに自分の夢の中で襲われるのだ。
その恐怖たるや。
走り続ける俺の目線が急に切り替わった。
黒い林に向かって走っていた筈の俺は何故か別の場所へ移っていた。
周りを見回した訳ではないが何故かこの場所の詳細がわかる。
さっきまで走っていた場所と同じ、大きな城のような建物の敷地内だ。
その敷地内にある屋外プールに俺はいる。
灰色の、コンクリートで出来たような陰気なプールに水は張られていない。
さっきまでと変わらず空はどんよりと曇っている。
あの男からは逃げきれては
いない。
何故気づかなかった。
男は目の前にいる。
湿気たプールサイドの隅に追い込まれる形で俺は男と対面を果たしていた。
そして
男は音も立てる事なく俺の腹に槍を突き刺した。
ズブリと肉に槍先が入り込む。
俺は泣き喚くように叫びその槍をはたき落とすように払おうとしたがびくともせず男は更に腹に深く槍を刺し込んで来た。
俺は完全に夢の中でパニックに陥っていた。
夢の中で痛みは感じないという話を聞いた事はあるが確かに現実的な痛みはないのだ。
ただ記憶の中にある現実での“痛かった経験”が夢の中で擬似的な痛みを引き起こす。
もちろん現実で槍で刺された事何て無いのだから別の痛みの記憶に襲われる。
この時思い出していた痛みは
金玉を強打した痛みだ。
男が一旦槍を引き抜くと俺は尻餅をつき後退りする。
腹からは血は出ていなかった。
夢なのだからそれは不思議では無い。
だが刺されるあの恐怖は最早本物だ。
男は俺の感覚とはずれたタイミングで再度腹に槍を刺してくる。
これが一番怖かった。
俺の夢なのに、まるで自我を持つ別の存在が俺を侵食しているような気がして。
背を丸めながら吐き気を催すような苦しい痛みに必死に耐えて俺は男を見上げた。
ここで俺は目を覚まして、今こうして先程見た夢を書いているのだが、
何となく腹や玉を撫でてしまう。
血も出ていないし穴も開いていない。
ただそう気になってしまう程に、
あの痛みはリアルで印象的だった。
書き残さずとも忘れそうに無い夢だったが
男の顔だけが思い出せないという事も忘れそうにない。
あれは俺の中で一体どういう存在なのだろうか。
考え出すときりも無いのでそろそろ書き終えて寝るとしよう。
今回の夢は良く覚えてたから早く書く事が出来た。
そう思い時計に目をやると
02:03
1つ夢を書くのに15分。
俺はまたいつもの時間に夢から覚めていた。
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