1
見覚えのある場所。
子供の頃家族と住んでいた家だ。
真四角の2階建て、大工だった親父が自分で設計した家だといつも自慢していた。
俺はその家のリビングにいる。
周りには人の気配がせず、自分が今家で一人でいる事が直感でわかっていた。
夢の中では自分の姿を見る事は出来なかったが何故か自分が子供の頃の姿をしている事も直感で理解している。
状況を把握したと共に突然。
本当に突然。
自分の目の前に人か化け物か良くわからない者が唐突に現れた。
真っ白の痩せこけた顔に虚ろで巨大な何処を向いてるかわからない青い目、黄色く爛れたような大きい鼻に同じように黄色い使い古した箒のように傷んだ長髪、その化け物らしき者は髪を振り乱して低い声で哭くような叫び声を上げていた。
その口からは欠けた不揃いに生えたチョークのような歯が覗いている。
鼻と鼻がぶつかるんじゃないかという程近い距離で顔以外がどんな風になっているかもわからない。
そんな距離にも関わらず目を合わせる事も無く叫ぶ化け物に対する俺は無心である。
この時点では俺はこの化け物に恐怖を感じてはいない。
恐怖もそれ以外も何も無くただ叫ぶ様を見ている。
すると急に自分の視界が一瞬動いた。
化け物の前に立つ子供の姿をしている俺は恐怖していたのか、一歩後ろに下がったように思えた。
一歩分離れると、その化け物が如何におぞましいなりをしているかがはっきりとわかる。
化け物の胴体は子供のように小さい。
服装は、無地の青いシャツに白いズボン。
シャツのボタンは全て閉まっている。
だがそれが半袖なのか半ズボンなのか、長袖なのか長ズボンなのかはわからなかった。
何故なら
その四肢は途轍もなく強い力で引っ張られたかのように千切れていたからだ。
腕と足の付け根から先を失った体が何に支えられているのかはわからないが宙に浮いているように見える。
よく見ると血が吹き出したりはしていないし血の汚れが見えている所も無い。
まるで藁で出来た案山子の手を着せていた服ごと裂いたかのようだ。
だがハッキリと覚えている、裂けた袖の中には赤黒い“中身”が見えていた。
このグロテスクを視覚してから俺は急激に恐怖し夢を自覚しその恐怖から逃れる為に覚醒を求めた。
しかし夢という物は優しい夢ほどすんなりと起きられる物であり、そうでない夢程魘される物である。
この夢は、後者だ。
化け物の口から発せられている低く大きな叫びはその四肢の痛みから来るものなのかどうかは全くわからない。
ただ頭を振り乱しているだけで胴体は動いて無かったので痛みは感じてはいないのか、はたまたよくわからない物に拘束されているのか。
その得体の知れなさ、それこそが正に恐怖。
俺は夢の中で必死に体を動かそうとしているが全く動かない。
早く起きないと。
逃げないと。
目を覚まさないと。
夢の中で焦る恐怖がわかるか。
そこで追い打ちだ。
化け物が動いた。
起きようと躍起になる余り意識から外れていた化け物が
宙に浮くように固定されていた筈の化け物が
床に降りていた。
何故急にだとかそんな事を思う暇もない
ただ早く逃げたい夢の中で俺はいよいよ本当に身の危険を感じていた。
胴体だけをもぞもぞと動かす化け物。
その叫び声は最早悲鳴のようにも聞こえる。
裂けた服の切れ間から覗く赤黒がより一層恐怖を引き立てる。
鮮明な断面が俺の記憶にトラウマを刻んでいく。
そしてもがくように蠢く化け物の頭が徐々に自分のいる方向に向いてきている。
その頭は少しずつ変形していきまるで人形の鼻を摘まんで引っ張った時のように伸びていく。
とうとう今初めて化け物の大きく虚ろで青い瞳が俺の目と合った。
俺は頭の中でこの悪夢からの解放を嘆願する。
ここまで来て
俺の体は急にその感覚を取り戻し。
目を覚ました。
…
布団から飛び起きた時、まだ体に残る恐怖感が如何に不快な物か。
体に纏わり付く冷や汗がこの世の物に思えない。
起きた筈なのに、誰かに見られているような感覚がある。
時計を見ると
01:48
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