9.
「うふふ、あはは! 死んだ死んだ、〈コロンゾン〉が死んだ! 私やったのね!」
マコが空から降りてきて、折り重なった木々の山を見て高らかに笑いました。
「ウソ……だよね……?」
ホシミにはそれが信じられませんでした。
アカネが死んだなんて。
ついさっきまで隣にいてくれた、髪をサイドポニーに結んでくれた……ずっと一緒にいてくれるはずのダチ公が死んだなんて。
……こんなのは悪い夢に違いないと思って、ホシミはほっぺたをつねってみました。アカネと一緒に遅くまで星を見ていたから、いつの間にか寝てしまったんだろうと。
大体お母さんが魔女になって魔法を使っているなんてことがもう既におかしいのです。こうして確かめるまでもなく夢のはずだと思って、でも一応つねってみて……しっかりと痛かったので、ホシミは絶望しました。
これが夢ならどんなによかったか。
「い……や……」
「さあほっちゃん。悪魔はお母さんがやっつけたから、あとはほっちゃんの洗脳を解くだけよ」
「やだっ……!」
箒を降りたマコが、歩いてホシミに近づいてきます。途中にあったお賽銭箱を脇へ蹴り飛ばし、拝殿へ土足で踏み入ってきます。
あの貼り付けたような笑顔が、もうすぐ目の前まで迫ってきました。一年前、嫌がるホシミを無理やりどこかへ連れて行こうとした時と同じような。
わざとらしく細められたまぶたから、絵の具で塗りつぶしたように真っ黒な目が覗いていました。
「お母さんと一緒に本部へ行きましょ?〈レイディ=セレマイト〉に洗脳を解いてもらうの」
「やだやだ、やだっ! ぜったい行かないっ!!」
「お注射と同じよ? すぐに終わるし痛くもないし、怖がることないわよ」
「この、このヒトゴロシっ! だれがお前みたいなヒトゴロシについてくもんか!!」
「……そういえばこのシュシュ、誰に貰ったの? お父さんやほっちゃんが選んだにしては随分センスが悪いけど」
「あっ……」
マコはホシミのサイドポニーに手をかけ、抵抗される前に解いてしまいます。奪い取られたアカネのシュシュが、ゴミのように拝殿の外へ放り捨てられました。
降ろされた髪に残るわずかな癖も、マコは手で押さえつけて均していってしまいます。
「そんなことより早く行かなきゃ。お父さんも待ってるわよ」
「なんで、なんでそんなことするの……? せっかくできたのに……はじめての友だちだったのにぃ……」
「あんな悪魔のことなんかいつまでも覚えてちゃダメよ、頭が腐っちゃうわ」
「頭がくさってるのはどっちよ!」
「うるさいわね、このっ!」
バシィン!!! と、甲高い音が拝殿に響きました。
マコがホシミの頬を引っ叩いた音でした。
張り倒されたホシミの腕をマコは乱暴に引っ掴み、嫌がるのも構わず引きずっていきます。その腕力に抗うことは、非力なホシミには到底不可能でした。
(……わたし、これからどうなるんだろ……)
マコに引っ張られながら、ホシミはぼんやりと考えます。
初めて出来た友だちを殺され、母親を狂気に染めたカルトのところへ連れて行かれて、自分は一体どうなるのだろうと。
マコが言うにはお父さんもそこにいるようです。昨晩から行方不明になっていたのはマコたちの仕業だったわけです。
となるとこれからホシミもお父さんも洗脳されて、マコと同じような狂った信者に変えられてしまうのでしょうか。きっとそうに違いありません。
(……そんなの、やだよ……わたしイヤだよ……)
拝殿から出たマコは、そこに落ちていたアカネのシュシュをわざと踏みつけました。そして力を込めて踏みにじり、ボロボロにしていきます。
……心を持たない冷血人間。アカネのような暖かさのない人でなしども。
人の友だちを〈悪魔〉呼ばわりして殺すようなクズの同類になんて、なりたいわけがありません。
でも、このままでは。
(はじめてできた友だちも、悲しむ心も、何もかもうばわれちゃうの? そんなの、わたしはぜったいイヤだよ……!!)
ホシミが心の中でそう叫んだ時。
折り重なった木々の山が、ぴくりと動きました。
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