第3話 関わるとヤベー奴

「来てます! 来てますわぁ!!」

ペンタブの上で描かれる曲線が部屋の暗闇を唯一照らす。

「miyako様の作品を....おそれ多くも私が漫画に...!!」

「はぁ〜ん! 凄い! このシーンスゴすぎます...!!」

たらぁと彼女の鼻から垂れる鮮血など気にせずにペンを動かす。

「うはぁ! 良い!! 興奮が止みませんわ!!!」

「どうかこの罪深い、底辺官能漫画家崩れの雌豚をお許しくだひゃい!!」

ドーパミンの放出が最高潮に達した時、彼女は力無く倒れる。

「絶対探し出しますわ...何処にいようと、私がぁ。」





時雨しぐれとのお弁当交換から1日が過ぎ、今日も彼女が話しかけてきた。

「おはようございます。豊宮さん。」

「お、おはよぅ...ございます。」

「昨日はぐっすり眠れましたか....?」

「あ、ハイ、う、うん」

嘘である。この女、小説のキャラ設定を夜通し行ってしまい、1睡もしていない。

弥呼は思う。ここで1発何かを咬まさなければ時雨と仲良くなれないと。

「な、なななな那智なちさんは、そ、そのご趣味とか....ありますか.....?」

(ドモりすぎ私!!)

(こんなに陰キャだったの!? いや、陰キャ以前に他人との関わり合いが苦手すぎるぅーー!!!)


時雨しぐれは頬を赤らめ思案した後、私に耳打ちする。

「誰にも仰らないでくださいまし....」

「う、うん....!」

「そ、その、か、官能小説を読むことをたしなみとしておりまして....」

「か、かかか官能小説!!」

「そうなのです....数多の官能小説の中でも特に"miyako"様の作品の大ファンでして...」

「ブッ!!」

唐突の告白にむせてしまう。

(それ私なんですけど!!)

(miyakoって私なんだけどー! 大ファンの人と初めて会った....。)

弥呼は身バレが怖くて、サイン会を開いた事がない。



さらに白い顔全体を紅潮させ時雨は続ける。

「私の初めて...ヴァージンはmiyako様に奪われたのです....!!」

(いやいや、私の作品にそんな能力ないよ!?)

「そ、そうなんだね、アハハ」

「本当なのです! きっとあの方は経験豊富な方なのですわ...。」

(安心してください。 恋人いない歴を日々更新中の真正の"処女"ですソイツ。いや私。)


突然のカミングアウトに対して、愛想笑いを浮かべ相槌を打ちながら、背中は冷や汗で濡れている。

「特にオススメは....」

時雨の言葉を遮るように、声が届く。


目の前には、関わるとデメリットしか無さそうなボブカットで金髪のギャルが立っている。

「"やこっち"だっけ? あんた。」

何時いつものように固まる。

「ハ、ハイ」

「じゃあさ、やこっちに頼みたいことがある。」

「ナ、ナンデショウカ...」

「その場でぴょこぴょこ跳ねてみ?」

言われるがままに席の横に立つ。

「ちょっと羽鶴はねつるさん? 何が目的でして?」

「まぁまぁ、いいじゃん。」

時雨は語気を強める。

「何もよろしくありませんわ。」


羽鶴と呼ばれたギャルは弥呼を指さして言う。

「跳ねてくれてるわけだしね。」

「ピョコピョコピョコピョコ....」

「金、持ってるよね?」

(あ、この口文句終わったわ。私の高校生活マジで終わったわ。)

(これからカツアゲの対象になるんだろーな。拒否したら虐められて....。鬱すぎるんだけどマジで)

(明日から学校休も)


羽鶴は頭を下げ言う。

「どーしても購買のクリームパンが食べたいんだ!」

「やこっち、お金貸してくんない? 絶対返す!」

(絶対返さない奴じゃんそれ。)


「イイヨ.....ハイ」

(いや何渡しちゃってんのーーー!!)

「やこっちマジ神!」

「豊宮さん....」

千円を羽鶴に渡した弥呼を時雨は心配そうに見つめている。


(私、カツアゲの代償に神になった。)

呆然としている弥呼を横目に時雨は怒っている。

「羽鶴さんは本当にどうしょうもないお方ですわ!」

「私がこれまで彼女にお貸しした2万円をまだお返しにならなくて!?」

「根は良い方なのですが.....」

彼女は深呼吸をした後告げる。

「嫌な時ははっきりと仰らないと伝わりませんわよ?」

「う、うん....。」

「カツアゲは嫌だったけど、人から頼られるの久しぶりで、ちょっぴり嬉しかったかも...?」

「もぅ、豊宮さんったら...」




午後の授業中、弥呼は眠気を吹き飛ばすほど覚醒していた。

羽鶴はねつる さかえ。彼女を次作小説に入れ込む事を考えた。

時雨と栄をくっつける。

現実世界では出来なくとも、筆の世界なら可能なのだ。

「来てるわ! 来てるわ!」

「絶対エロい....絶対エロい....!!」



またしても、隣の席の女子生徒が死んだ目で弥呼を見つめている事を、豊宮 弥呼は知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る