第10話 拠点移動

 ルーカスさんと付き合うこと半年。

 干し肉事業のおかげで俺の手持ちの塩や調味料も大幅に増え、最近は料理をするのも楽しくなってきた。


 ルーカスさんほど長時間かけてやるなんてことはないが、要は味覚の変化が楽しめればそれで良いのだ。


 ルーカスさんは薬草学にも詳しく、興味があると言ったら摘んでもってきてくれた。

 毒に耐性のある俺が食せばどうなるか?

 もしかして猛毒の付与が消えちゃうのかと思ったが、全く違う効果が現れた。



 <能力が覚醒しました>


 <魔糸精製に状態異常回復付与が追加されました>


 条件

 一定回数の薬草類の捕食

 一定回数の上位薬草類の捕食

 系使用回数2000回以上


 効果

 糸の先端から状態異常回復効果のある液体を出す事ができる。

 これによって治る効果は猛毒、麻痺、暗闇、疲労、石化、疫病など。死亡、呪いには効果がない。



「うーん、もうこれだけで良い気がしてきた」

『何か増えたの、にーちゃん?』

「取り敢えず俺の仕込んだ味付き肉をポチが食っても治す見込みが増えたな」

『本当!? じゃあ早速!』



 思いついたら即行動か、食いしん坊め。



「お前さっき飯食ったばっかじゃんよ」

『じゃあ、干し肉でいいから。お願い!』



 どれだけ必死なんだ。

 まぁポチなりに俺に気を使ってるんだろうな。

 これぐらいのわがままどうってことないぜ。


 俺は早速猛毒で味付けしたワイバーンの干し肉を差し出した。

 もぐもぐしたポチは、美味しそうに頬張る。



『美味しい! 美味しいけど……』



 お腹の方がゴロゴロし始めたのを合図に、俺の手から伸びた糸がポチのお腹に刺さった。

 先端から回復効果のある薬液を注入すると。



『あれ! お腹痛いの治った。じゃあ続きいただきまーす。にいちゃんはそこで頑張ってて! オレが食い終わるまで回復よろしくね!』



 再度食べ始める。

 うん、知ってたよ。まぁこれである程度ポチが具合悪くなっても大丈夫だろ。

 っていうか、ダブルで混ぜたらどうなるんだ?


 気になったのでやってみた。



 結果は干し肉が目の前で溶けた。

 こわっ。俺のスキル怖すぎない?



『あー、何やってんだよにーちゃん勿体無い』

「いや、毒と回復を同時に注入したら毒を気にせず食えるかなって思ったんだ」

『天才』

「結果がこれ」

『ダメじゃん』

「お前の手のひら返しの鮮やかさに呆れるばかりだよ」



 それはともかく、あともう一つくらいスキルが生えてこないもんかな。俺のスキルはサポート向きだから、もっとバフ効果のある奴の方が嬉しい。

 糸は伸ばしたり刺したり振り回すぐらいしかできないからな、現状。



 そんなわけでルーカスさんに俺の猛毒の毒消し薬を代価に力が上がる薬や、スピードがアップする薬を求めた。

 それをじゃぶじゃぶ飲んで寝て2週間後。





 <能力が覚醒しました>


 <魔糸精製に筋力増強付与が追加されました>


 条件

 筋力増強効果のある薬品の一定以上摂取

 糸の使用回数2000回以上


 効果

 糸の先端から筋力増強効果のある薬液を出すことが出来る。

 又、糸で縛った時や持ち上げた時の重量の上限も上がる。




 <条件を達成しました>


 <レベルが2から3に上がりました>


 <糸巻きのスキルを獲得しました>

 

 効果

 一度分断した糸を望んだ形で手元に呼び戻す。

 MP10消費

 

 <最大MPが100アップ!>


 <スキルポイントを20ポイント獲得しました>





 <能力が覚醒しました>


 <魔糸精製に速度増強付与が追加されました>


 条件

 50回以上の速度上昇効果のある薬品の摂取

 累計糸使用回数2500回以上


 効果

 速度増強効果のある薬品を出せるようになる。

 又、糸の射出速度も上昇する。




 一気に来た!!

 レベルも上がったのでMPは296!

 地味に追加された糸巻きスキルも嬉しい。


 飛翔が付いて飛ばすのが楽しくなった反面、いちいち取りに行くの面倒だったんだよな!

 問題はMP消費タイプって事だ。


 戦闘終了後は飯食って寝るだけだし、そこまで気にすることはないけど、睡眠中の襲撃者には気を配んなきゃいけない。

 かー、人気者はつれぇわ。



 それはともかくとして、そろそろこの山岳地帯ともおさらばしようかなと考える。


 ルーカスさんと別れるのは辛いよ。

 あの人普通に良い人だもん。

 確かに裏が読めないところもあるけど、俺の猛毒付与にビビってた当時に比べて、毒消し効果のある回復薬を提供してから商人の顔になったからな。


 もう俺のおかげでだいぶ稼いだんじゃないかな?

 いい加減、ずっと世話になりっぱなしもアレだし、出ることを決めた。


 ポチのサイズはここに来た時とあまり変わらないが、纏うオーラがちょっとすごいことになってきてるし。


 もう化け物と呼んで差し支えない。

 なんせおやつ感覚でワイバーン食ってるしな。

 俺もそうだ。

 けどレベル3じゃあまだまだ冒険者としてもコケにされかねない。もっともっと強くなる必要があるな!


 そして俺は以前から決めていたスキルポイントの使いどころを考えた。


 まさかの20ポイントだったからな。

 ワイバーン戦で痛いほど身に染みた遠距離での戦い。

 飛翔付与で得られた能力は大きいが、自ら武器を持って戦うのは違う気がした。

 だから俺はこっちを選ぶ。



 ◯────────────────────◯

 マコト・タイラ

 LV:3

 職業:糸巻きの勇者

 称号:遅れてきた勇者、ジャイアントキリング

 HP:10

 MP:296/296

 物攻:0

 魔攻:10

 物防:10

 魔防:10

 ◆固有スキル

 『魔糸精製』『睡眠』『意思疎通×4』『猛毒付与』

 『強酸付与』『飛翔付与』『状態異常回復付与』

 『筋力増強付与』『糸巻き』『速度増強付与』


 ◇特殊スキル(スキルポイント:10)

 『+範囲 Ⅰ』

 ◯────────────────────◯



 うし。

 念願の範囲攻撃を手に入れたぜ。

 これでポチの腹に回復薬を打ち込みながら一緒に飯が食えるな!


 操作系も糸使いとしては非常にロマンがあるものの、やはりそこら辺は糸が余って仕方なくなってからだろう。

 それまでは暗殺スタイルで行くことにしよう。




「もう行ってしまうのかい? 寂しくなるな」



 山岳地帯にきて半年くらい経つからな。

 ルーカスさんは俺との別れを惜しんでいる。

 ぶっちゃけこの人にとっちゃ俺は金のなる木以外の何者でもない。ただポチの餌がなくなってきた事を促せば出ていく事をこれ以上引き止めることはしなかった。



「ポチの飼い主としてはさ、もっと伸び伸びと生活させてやりたいんだよ」

「国からしてみれば勘弁してほしい事だけどね」

「やっぱりポチってヤバいのか?」

「うん、人間に懐くことの方が珍しいんじゃない? この種族は遊びで多種族を殺す狡猾で残忍な種族だよ」

『冗談はやめてよね』

「冗談ではないんだけどね」

『まぁ、そんな気はしてたけど。オレは別に人間には興味ないよ』

「だと良いが」



 ポチとルーカスさんは結構話が弾むタイプだ。

 念のため、ルーカスさんにも1センチほど頭に糸を差し込んでいる。最初はやるか迷ったが、向こうから検証も兼ねて頭を下げてきたのでやってやることにした。


 それでわかったのは、大体オレの範囲3km四方くらいなら念話での会話が可能である事だ。

 モンスターと会話ができると知ってから、ポチと意見交換をしたり、意外と子供なところがあるのでギャップで面食らったりとか色々面白エピソードがあったりする。


 今じゃすっかり気を許せる人間の一人になった。

 俺の持ってないこの世界の知識は、大体ルーカスさんによるものだ。なんだかんだこうやって人間の考え方を知る事でポチが心変わりしてくれたら良いなと考えつつ、次の場所を探す。



「半年間、お世話になりました」

「いやいや、世話になったのはこちらの方だよ。アッシュレイの近くに寄った時はいつでも声をかけてくれ。領一同で歓迎するよ」



 その言葉に今まで以上に引っかかっていた疑問が浮かび上がる。だってルーカスさんのセリフは、偉い人の立場から発する言葉そのもので。



「そういえばルーカスさん、フルネームは?」

「ルーカス・アッシュレイだが?」

「ああ、やっぱり」


 

 おもいっきり町の名前じゃん。そりゃ俺がここで生活してても何も言われないわけだよ。この人が町の人に箝口令を敷いたんだな?



「なんだい、私の領地内で好き勝手生活できているのは誰の尽力あってのことだと思ってたんだい?」

「そういう意味でも世話になったっす」

「うん、まぁ確実に稼がせてもらったのはこちらなのだ。あまり頭は下げなくて良いよ」

「じゃ、おあいこって事で」

「君は切り替えが早いね。将来大物になれるよ?」

「ルーカスさんにお墨付きもらえたんなら将来安泰っすね」

「君は本当に面白いなぁ。君の旅の目的が終わったら、ウチの領で永久就職していかないかい?」

「そっすね、全てが終わったらそれもいいかも知んないです」

「よっし、言質は取ったよ?」

「はい。生きてたらまた」



 俺はポチに乗っかって、ルーカスさんにそれだけ言って山岳地帯を出た。

 最初の森より随分と長く居たもんなぁ。

 あんな場所でも愛着は湧くのかも知れないな。



『にーちゃん、あの場所に残りたかった?』

「んー、たまにはガッツリとした肉も食いたいし、潮時かもなって思ってる。だからさ、ポチは俺の心配しなくて良いぞ?」

『そっか。なんだよ、心配して損した。にーちゃんてオレのこと食い意地張ってるとか言っておいて、自分だって食い意地張ってるよね?』

「そりゃお前、食欲は三代欲求の一つだぞ? それに俺は新しい仲間を得た」

『調味料ね。あの人間には感謝してもし足りないよ』

「お、ポチ君も料理に目覚めたかね?」

『そんなんじゃないやい』



 やいのやいの言いながら、俺たちは次の場所へと進む。

 まだ見ぬモンスターの脅威のある場所へと。

 そして新しい糸の可能性を求めて。

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