第8話 上空からの襲撃者

 ポチに乗ったまま景色だけが変わる。

 俺たちの旅はアテのない、自由気ままな旅。


 出来るだけ身を隠せる森なら最高で、ポチがいる関係上人の住む街はご法度だった。

 そもそも俺の能力が冒険者に向いて無さすぎるんだよな~。


 金を稼ぐ術もなく、先輩冒険者から食い物にされる人生なんて惨めすぎる。

 それ以前に……


 レベルアップ条件が糸の種類を増やす前提なら……安全を売りにしてる街じゃ、いつまで経っても俺は弱いままだ。



「ポチ、次はどんな場所があるかなぁ?」

『わかんない。にーちゃんが知ってるんじゃないの?』



 このワンコロめ。俺が人間から嫌われてるのに、まるでなんでも知ってるかのような態度。



「実は何も知らないぞ。ただ、あの森でやれる事がなくなったから出てきただけで、場所はどこだって良かった」

『あっちゃ~、そう言う流れか』



 ポチは、まるで俺についてくればうまい物にありつける前提があったからついてきたと言わんばかりだ。


 君、もう少し自主性持ったらどうかな?

 かーちゃんみたいに立派なマザーファングになるんだろ?



「とりあえず水場は確保しようぜ。喉が渇いた時の水分があるとないとじゃ死活問題だ」

『わかった』



 ポチが進んでる方向には、どんどん植物が減っていき。

 あからさまに荒野に変わりつつあった。


 そこら辺をちょっと心配しつつ、水場あったよ! と嬉しそうに尻尾を振るポチの頭を撫でてやり、そして一緒に水を飲んだ。


 水場は断崖絶壁を挟んで川で、結構流れは早い。

 安全地帯らしい場所もないので、手始めに俺は寝床になる穴倉を掘ることにした。



「俺は寝床確保してるから、ポチは餌取ってきてくれよ。俺の匂いは分かるよな?」

『うん、分かる』

「手強かったら手伝うからこっち誘き寄せてこい。無理はするなよ?」

『うん!』



 ポチは来た時と同じ速度で駆けていく。

 俺はそれを見送りながらポチが四足歩行で入れるサイズの穴蔵を作った。


 なんでこんな穴を掘るのかといえば、森みたいに三百六十度全面をカバー出来るほど俺の糸は長くないこと。

 俺だけだったら俺の体だけでいいが、今はポチがいる。

 誘った手前、俺が守ってやるのが筋だ。


 ポチは人間から脅威認定されてるモンスターっぽいけど、何分生まれたばかりで経験が足りない。

 ここは長く生きてる俺が知恵を貸してやらないとな。



 大体、穴蔵を一メートルくらい掘り進めた時ぐらい、ポチから念話が飛んでくる。



『にーちゃん、どこ?』



 寝床の確保と言ったが、穴を掘ってるなんて言わなかったのか、ポチは穴を水に外で俺の姿を探していたようだ。



「ここだぞー」

『にーちゃん! これ、捕まえた! 食えるかな?』

「食ってみるまではわかんねーな。もし毒だったら俺が食うわ」

『えー、捕まえ損』



 ポチはブー垂れるが、俺だって身体中に岩を貼り付けたトカゲ(デカイ)を食ったことねーからわかんねーし。



「とりあえず解体すっから、齧り付いてみろよ。そんでダメなら次だな」

『うん』



 俺の糸は強靭かつ鋭利。

 今までどんなモンスターの体だって切り裂いてきたし、特に問題なく岩トカゲの身体から岩を切り離した。

 岩なんてくっつけてるから筋肉がしっかりしているのか、身は締まってた。

 ただ腹は若干柔らかく、ポチでも噛めそうだ。

 亀みたいに甲羅だったら面倒だなと思ったが、トカゲの特性を持ってて助かった。


 岩肌を取り除き、四肢を分断。

 いつも通りそれらは焚き火を作って焼いていく。

 どこかに岩塩とかありゃいいけど、海が近くなきゃ絶望的か。

 ポチは岩トカゲの内臓をがっつく。

 食えるには食えるらしいが、普段から何食ってるのかわからないのでそこが懸念事項か。

 内臓系は特に普段食ってるものが影響するもんな。

 ポチのように肉食系なら良いが、こんな断崖絶壁だとよくて崖や土とかもあり得るわけで。

 しかしそんな俺の心配も杞憂だったか、最後まで残さずぺろっと言ってた。



『ごちそうさまー』

「どうだった?」

『イノシシよりは味はタンパクかな? 血の巡りが良くないのか、野趣は足りなかった』

「ふーん」



 火で炙った前足の方に早速気分が向いてるのか、口の周りを臓物だらけにしたポチが尻尾を振りながら焼き上がるのを待ってるようだ。

 俺にはどっちが美味いかわからないので、取り敢えず前足と後ろ足を置く。

 サイズがサイズだから、正直俺は前足だけで腹一杯なところもあるからな。



『二つもいいの?』

「ポチは今日走ってもらった分のお礼がまだだったからな。これはその分だ」

『ありがとう、にーちゃん、好き!』



 ポチの好き、はもちろんライクの意味だ。

 生まれたてのこいつに恋愛感情なんて存在しないからな。

 ポチが人間だったら良いのに。


 なんて思ってるからいつまで経っても俺はモテないのだろうな。

 なったらなったでしどろもどろする未来が見えてるので、困るのは俺か。

 肉にかぶりつきながらそんな事を考える。


 味は鶏肉のような味わい。意外と美味い。

 当分はこれで良いかと、干し肉にしたいから数匹捕まえてきてとポチに頼み、尻尾を振って了承するワンコロが駆けて行くのを見送った。


 肉を干す場所はどうすっかな。

 森の時は気があったから、そこに糸で括って貼り付けてた。

 穴蔵暮らしをしていくなら、やっぱ穴蔵の中にそう言う場所を作るべきかな?

 そう考えながら穴を掘る事一時間。


 ポチの帰りが随分と遅い。


 大体寝床を作り終えて、入り口まで迎えにいくと、そこには巨大な翼を持つ翼竜と対峙するポチの姿があった。

 やべぇ、そういや敵わなかったらこっち誘き出せって言ったもんな。それに気づかず俺はずっと穴掘ってたのか。




「悪い、遅れた」

『にーちゃん! 遅い』

「作業に夢中でさ。それでアレは?」

『多分主食の取り合いで敵対した。オレが先に取ったのに横取りしようとしてきたんだ』

「でも相手は空の上だ。どうやって戦う?」

『油断して降りてきたところにガブって!』

「それが通じる相手ならいいな。取り敢えず岩トカゲバラすから持ってこいよ」



 キョロキョロと、周囲に岩トカゲが見当たらない事に気がついて促すが、ポチは表情を顰めた。



『全部取られちゃったよ。その上で新しい餌として見られてるっぽい』

「マジか。じゃあ始末するまで帰ってくれない系?」

『そうっぽい』

「んじゃあ誘い出して仕留めるか。誘き寄せるのは任せた。地面にたたき落とすのは任せろ」

『やっぱりにーちゃんが居ると狩りが格段と楽になるよね』

「俺に頼ってばっかじゃ困るぜ?」

『そのうち、そのうち頑張るから!』



 今は力を貸してくれとポチが頼み込む。

 どちらにせよ目をつけられた。仲間を呼ばれる前に仕留めておきたいのはこちらも同意だ。


 ポチが突撃して、俺がポチの背中から相手に糸一本で飛びつく。糸を巻き戻して体に張り付き、飛ぶのに重要な部分に小細工を仕掛ける。翼の中心を糸で縫いつけたのだ。

 畳んだまま広げられない翼竜は、風を捉えることができずに頭から地面にダイブ!

 寸前の所でポチが俺を迎えにきてくれて事なきを得た。


 暴れる翼竜の、頭、翼、尻尾に直接触れて地面へと縫い付ける。それだけで197センチあった糸は全て使い切ってしまった。



「どうだー? 仕留め切れそうか?」

『うん、こいつ柔らかいよ。このまま食べていい?』

「腕と足、尻尾だけ残してくれ」

『オッケー』



 胴体に食いついてから、おおよそ三十分。

 腹を食い破って絶命した翼竜から糸を回収し、主要部分の解体を施して干し肉に変えていく。

 ポチは柔らかいと言ったが、皮の表面がぬるぬるして気持ち悪かったのを覚えている。


 焼いた肉を食って見たが、岩トカゲより大味だった。

 猛毒付与で臭みを消すと、程よい味わいになる。

 この食べ方は俺しかできないので、自分以外ではやる予定はない。干し肉なんて非常食だからな。

 俺以外にポチだって食うから猛毒はなるべく付与しなことにした。



 そんな断崖絶壁生活をする事二週間。

 なんか新しい糸が誕生した。



 <能力が覚醒しました>


 <魔糸精製に飛翔付与が追加されました>


 条件

 飛翔系モンスターの肉を50回以上摂取

 糸使用回数800回以上


 効果:糸を分断する時、任意の方向へ飛ばすことができる。



 おっとこれはこれは。新たな武器発見か?


 いやいや、ただでさえ糸の長さが足りないのに武器で使っていい効果じゃないわ!

 確実に仕留めない限り無駄撃ちもいいところだし。

 と、そこまで考えたところで更に頭に響く。



 <条件を達成しました>


 <称号を獲得しました>


 <称号:ジャイアントキリング>


 条件

 レベル10以上離れた上位種の討伐、および捕食。


 効果

 自分より格上の存在に対し、攻撃力が1.5倍。

 及び格上の肉を食べた時の旨みが3倍美味しく感じる。



 うーん、攻撃力が0の俺が1.5倍だとなんの旨みもないんだよな。0に何掛けたって0のままなんだよ。悲しい。

 だからこれはパイセン用。多分だが既に持ってると思うんだよね。ほら、この国の人たちって無茶振りがひどいから。


 んで、俺用の効果が旨み成分の増加か。


 妥当だな。基本的に食っちゃ寝生活を余儀なくされる俺からしたらこれ以上の譲歩もないくらいの効果だ。

 ただ、パイセンより効果が倍くらい違うのが申し訳なく感じる。


 しかしこれで当分拠点を変える目処が立つ訳だな。

 それはともかくとして確認のためにむしゃり、と翼竜の干し肉を食べたらほっぺが落ちそうになるくらいに美味だった。


 ポチがうまそうに干し肉を食べる俺に当てられて干し肉を欲したが、特に味が変わることがなかった。

 おかしいなとペロリと平げ、変な目で俺を見てる。



『にいちゃんだけ、ズルい』

「これも勇者の特権ってな」

『ずーるーいー』



 ポチが恨めしそうに俺を見ていた。

 やっぱりこいつは色気より食い気だわ。



 ◯────────────────────◯

 マコト・タイラ

 LV:2

 職業:糸巻きの勇者

 称号:遅れてきた勇者、ジャイアントキリング

 HP:10

 MP:197/197

 物攻:0

 魔攻:10

 物防:10

 魔防:10

 ◆固有スキル

 『魔糸精製』『睡眠』『意思疎通×3』『猛毒付与』

 『強酸付与』『飛翔付与』


 ◇特殊スキル(スキルポイント:10)

 なし

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