第4話 寝る子は育つ
食っちゃ寝生活をすること二週間。
寝床の木のうろに溜め込んだ魔石は随分と重くなってきた。
されどレベルは上がらず能力の変化は見込めない。
自分を追い込めばもっとこう、上手い感じに能力が生えてくるかもと思ったが、ままならないもんだ。
「
寝床の下から食いしん坊が顔を覗かせる。
随分とでかくなった。
拾った時は子犬だったのに、今では座ってる状態で俺の背丈を超えてくる。将来有望なやつだ。
その獰猛な牙が並ぶ口からは血肉の匂いがして若干恐怖を覚えるが、俺が有毒な人間だと知ってるから冗談でも噛み付いてこない。
案外悪いことばかりでもないようだ。
森に入って21日。
朝昼晩と食事をとるようになったのはつい最近のことだ。
その前まではポチも小さく、おっかなびっくりの狩猟。
猛毒のジャムで食べ始めてから17日が経過する。
食って寝たら状態異常が消える特異体質。
されど俺は弱いままで、こんなんじゃパイセンに合わせる顔もない。
いつも通りの狩猟。
ポチも俺の糸がなくてもグレートボアくらい簡単に始末できるようになっている。
それだけ体格が、上背が大きくなった。
なのに毎回俺を誘うのは、やはり焼いた肉に魅了されてるからか。
俺も猛毒のジャムをつけた肉をぺろりと平らげ、そして寝床に帰って寝る。
すると変な音が耳の奥。
頭蓋骨に振動するように響いた。
<能力が覚醒しました>
<魔糸精製に猛毒付与が追加されました>
条件
・猛毒を口にした回数50回以上達成
・糸を使った回数:500回以上達成
効果:伸ばせる糸に任意に猛毒を染み込ませることができる。
「おっと、これはこれは」
またなんとも扱いの難しいものが来た。
同時に、刺すだけでは仕留めきれなかった俺の攻撃手段が生まれたわけだ。
成長、だなんて言っていいかもわからないけど、一ヶ月以上パイセンと行動を共にしてうんともすんとも言わなかった能力に確かな光明が差した。
新しい技術を覚えたら使ってみたくなるのが人間というものだろう。
パイセンもきっとそうやってあそこまで成長したのかもしれない。だったら俺も頑張んなきゃさ。
俺を信じてくれたパイセンに成長した姿を見せてやんなきゃ男が廃るってもんだ。
そして二時間後。
周囲には毒に汚染されたモンスターの屍が積み上がった。
俺はそれを解体しながら干し肉に加工して行く。
俺の体に巡る毒がそうさせるのか、不思議と野手溢れる獣くささが消えていていい感じだった。
ポチ曰く、食ったら死ぬから誰も手をつけない。
ひもじい奴が口をつけるかもしれないけど、それを食えるのは俺しかいないそうだ。
酷くない?
取られる心配がないのがいいけど俺の食料をゲテモノ扱いしないでほしいわ。
「こんなに美味しいのに」
「
「それな」
猛毒付与を覚えてから、俺の肉体が毒に耐性を持ったのか寝なくてもなんともなくなったのが大きい。
俺の生活はコアラの如く、ほとんどを木の上で過ごして腹が減ったら森の中を彷徨う。
今じゃそういう生態系を持つモンスター扱いだ。
もう人間界の生活を懐かしいとさえ思ってるあたり、俺の常識は随分と変わってしまった。
だが逆に言えば俺の成長の方向性が見えてきた。
この寝ればなんでも吸収して溜め込めるボディだ。
これに蓄積させたものを糸として出せるのなら、確かにそれは俺にしかできないことだ。
だから俺は今じゃ怪しくて絶対に食べなかったキノコや果実に手をつけた。
肉に塗りたくったり、いろんな方法で腹に収めた。
やっぱりすぐにはスキルは生えてこない。
ポチからは兄ちゃんが壊れたと憐れみの視線を送られてる。
これは作戦だよと言われても信じてくれなかった。
解せぬ。
その日から二週間、俺はキノコを食べ続け、三つ目の糸を精製することに精製した。
<能力が覚醒しました>
<魔糸精製に強酸付与が追加されました>
条件
・強酸を口にした回数50回以上達成
・糸を使った回数:800回以上達成
効果:伸ばせる糸に任意に強酸を染み込ませることができる。
それは想像以上にやばいもので。
糸の先っちょから強酸が垂れ落ちてジュウ、と大地を焼き焦がした。
俺はそんな恐ろしいものを食っていたのかと考え、流石に無謀だったかと考えた。
「
「ああ、おやつにいいんだよ、あいつら」
口に入れたらゼリーの如く。ちょっと痺れるけど良いアクセントになっておもしろいんだ。絶妙にひんやりしてるし腹を壊すってわかってても後は寝るだけだったからな。
「
「健康な体に生んでくれたカーチャンに感謝だな」
キノコじゃなくてプルプル食感ゼリーの方が強酸の原因だったらしい。
俺の胃がどれほど頑丈かにかかってたが、今や強酸すら飲み込んでしまったかと思うと恐ろしかった。
お陰で俺に近づく近隣モンスターがいなくなった程だ。
噛み付けば猛毒。その上で強酸持ち。
誰も餌にしようなんて思わないのだ。
と、その時。
<条件を達成しました>
<レベルが1から2に上がりました>
<MPが100UP!>
<スキルポイントを10獲得!>
うん。
……うん?
<魔糸精製に特性を与えることができるようになりました>
<スキルポイント消費で魔糸を強化しましょう>
まさかのレベルアップ。
もしかして糸の種類を増やしたのが当たりだったのか?
そして地味にMPが二倍になったのが嬉しい。
なんせそれ以外の能力があってないようなものだし。
俺の能力はすでに俺の血肉になってるわけだ。
それにしてもスキルで魔糸を強化できるというのが地味に嬉しい。
やはりここは射出スピードを優先すべきだろう。
それともトラップのように仕掛けられるバリエーションを増やすべきか。
色々考えつつ、ステータスを下へ下へスクロールしていくと、案の定出てくる取得できる強化要素。
だがそこに並べられていたのは俺が思っていたのとは少しばかり違う項目だった。
==========================================
【+造形】
◇消費スキルポイント40
魔糸をあらゆる形に具現化し、武器や防具として扱える。
==========================================
地味に欲しい技能だ。
しかし消費スキルポイントが高い。
あと三回くらいレベルを上げる必要がある。
どうあがいても今手を出せるものじゃない。
パス。
==========================================
【+範囲 Ⅰ 】
◇消費スキルポイント20
肉体以外の半径5メートル以内に魔糸を精製する。
==========================================
これも欲しい。
現状接近戦しか出来ないからこれがあったらすごい便利だ。
ほしい物リストがあれば入れておきたい。
でもポイントが届かないから今はパス。
それよりもⅠとなってるのが気になる。
もしかしてⅡ、Ⅲとグレードアップしていく類のものかもしれない。
なにそれ、夢が広がりまくるんですけど!
いいじゃんいいじゃん、一気にファンタジーっぽくなってきた。やっぱり自分の特性をどっちに伸ばすか悩んでる時が一番おもしろいよな。こう言うので良いんだよ、こう言うので。
他にもざっとみたが軒並みポイントが高く、どうもこれはやる気を出させるための餌なのだと一人納得する。
「
「いや、ポチ。俺は自分の能力の方向性を見つけたよ」
「
「ばっかお前。誰がゲテモノ食いだ、誰が」
「
口の減らないワンコロだ。
だが、まぁ長い付き合いだからこそこうして軽口も叩けるわけで。
「ポチ、俺はこの森をでるよ」
「
ポチは寂しそうな声で鳴く。
こいつのことだ。焼いた肉が食えなくなるのが寂しいのだろう。もう一端のハンターの癖して舌ばかり肥えやがって。
でも、まぁ寂しい気持ちもわかる。
もうお前とはダチだと思ってるんだからな。
「でさ、お前も良ければどうだ? この狭い森じゃお前も生きるのに苦しくなってこないか?」
「
ポチはどこか遠くの空を見る。
あの方角に家族でもいるのだろうか?
「別に今すぐってわけじゃないぞ? でも俺はそう決めたからさ。だからずっと一緒に過ごしてきたお前には伝えておきたかったんだよ、ポチ」
「
ポチが巨体を揺らしてさっていく。
もう一丁前にこの森の主人の風格さえ漂わせて、
でもまだ子供っぽいところを残しつつ。
「別れたくないなぁ」
俺もまた、子供であることを捨てきれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。