第2話 王都襲撃
「糸巻きの勇者?」
「あー、うん。遅れてきた勇者とは書いてあった」
「つまり君は1年前のあの日、女神様からの啓示を無視して今に至ると?」
「1年前? なんだか目覚めろ目覚めろ言ってたおねーちゃんの話?」
「それだ。僕はその言葉に誘われてこの世界に来たんだ。授かった能力を伸ばしてはや一年。ついに四天王の一人を打ち倒してこうやって帰国して王様に謁見してるところで君が現れた」
何やらパイセンはその当時の思い出を頭の中で思い描いて苦痛の表情を漏らしていた。
本当なら俺もその場所に呼ばれてパイセンと一緒に旅立っていたかもしれなかった。
だがしかし、寝るのが大好きな俺に目覚めろとか一番言ってはいけない禁句。
それを連呼する相手の言うことを素直に聞く心を持っていなかった俺は当たり前のように無視を決め込んだ。
その結果、一年後に実力行使で俺を送り込んだと言うわけだ。
だからって俺が今更ついてったところでなんの役に立つかわからない。
「多分、その啓示は無視した覚えがあるから間違いないと思います」
「やはりか。まさか君が僕のパートナーだったとはね。けど、能力的に僕の相棒たり得るかわからない。一応ついてきてくれないか? 僕としてもこちらの世界に来てしまった以上、追放だなんて後味が悪すぎるからね」
「ちょっとタクヤ! あたし達はこんな無能に構ってる暇なんてないのよ?」
つり目のお嬢様が俺に歯に絹着せぬ物言いで食ってかかる。
「たしかにアリシアの言い分もわかるよ。でも僕だって最初から強くはなかった。一年、地道な努力をしてようやく実った。それに付き合ってくれたアリシアやクレアのおかげでようやく僕は四天王の一角を討伐できた。その過程を無視して僕のようになれは彼の成長を阻む言動だと知りなさい」
「タクヤ……わかったわ、このアリシア様が付き合ってやるわよ」
「ええ、お姉さま。私どもで新しい勇者様を支えてあげましょう?」
パイセンかっけー。
つり目お嬢様どんまい。
いやらし系お嬢様はパイセンにますます惚れ込んだように顔を赤くしている。
そんなこんなで俺が成長しやすいようにと王様に掛け合い、俺も冒険に一緒について行くことになった。
俺の手から伸びる糸は切れ味抜群で、耐久力も抜群。
MPを消費しても寝れば回復……だなんて都合のいいことは起きないが、寝た時の体力の回復力はピカイチの効果だった。
多分30分寝ただけでも即回復する。
どんな場所でも練れるのが俺の特技だからな。
固有スキルにあるだけあって、強い。
なんだったら糸より強いかもしれない。
解せぬ。
ただし寄生してモンスター倒してもらっても、俺のレベルが一向に増えないのが辛かった。
試しにMP上昇系アイテムを装備させてもらったが、それでなら糸の最大値を伸ばすことができた。
他の魔法使いと違って、MPが0になっても気を失わないのが便利と言えば便利かな?
最大値が減るから、使い切ると元の数値が減るんだ。
最初からないのと同じ状態になるので特に問題ないらしい。
しっかし全く問題がないとは言えなくて……
「平君」
「なんすかパイセン」
「やっぱり君勇者に向いてないからこの街に置いて行くことにしたよ」
「あー、やっぱり」
そう、俺は寄生させてもらったにもかかわらず、レベルが一切上がらず、なんの役にも立ててなかった。
最初の一週間はまだ目が出てないからだとパイセンが二人のお嬢様を宥めてくれていたが、一ヶ月を超えたあたりから活動資金が厳しくなり、甘い言葉をかけるのも限界が来たらしい。
同郷のよしみで親身になってくれたのに、俺ってやつは全く成長もしなかったのである。
それと言うのもパイセンが一人で何でもかんでもやってしまうからだ。
つり目お嬢様は大陸一番の魔法使いらしいが、その長すぎる詠唱時間が最大の問題で。
その隙をパイセンが作り出してからのフィニッシュ。
いやらし系お嬢様の方は全くかすり傷を負わないパイセンに無駄に回復魔法をかけては感謝の言葉をいただくのが目的のようだ。
俺それ知ってるぜ、MPの無駄遣いっていうんだろ?
そんな中で俺が何をやっていたかと言えば、荷物持ちと解体だ。強靭かつ鋭利な魔糸は魔物を解体するのに便利だった。
荷物は糸で突き刺して持ち上げる。
魔法で作った糸だから突き刺しても傷まないのが便利。
でもって査定だって良い。
パイセンが気にしてるのはそこじゃなくて、いつまでもこんな最序盤の街で足踏みしてられないって事実だろう。
四天王を倒した勇者一行が俺のせいで時間を割いちまってる。
その上いつまで経っても芽が開く素振りも見せない。
だからこうやって戦力外通告を言い渡されるのは無理もないことだった。
特に今朝ギルド内で四天王の残り三匹が王都に攻め入ったなんて号外が届けばな。
「すんません、俺なんかに気を遣ってもらっちゃって。パイセン達は急いで王都へ向かってください。俺はパイセン達上この町で応援してますんで」
「本当にすまない、途中で投げ出してしまって。もし事が片付けばもう一度」
パイセンはそうは言ってくれるが、他二人からの圧が俺に降り注ぐ。無能はいらない、ついてくるなと御立腹だ。
「いえ、俺は俺のやり方で自分の能力の開花方法を探ります。きっとこの力は、パイセンの力と別ベクトルの開花方法なんだと思うんです。それがわかってから、もう一度会ったとき、その時はまた連れてって貰えますか?」
「約束しよう。それと先立つものがなくては不安だろう。ここでの稼ぎはほとんど君の解体で得た稼ぎだ。これは置いて行く」
「ちょっとタクヤ! 人が良すぎるわよ。これは迷惑料としてあたし達が貰っても!」
「だめだよアリシア。彼はこの世界の被害者なんだ。よくわからない力を渡されて、こんな殺伐とした世界に送り込まれた被害者。僕だってそうだよ。でも王様や君たち、町のみんなと約束したからね。だから僕は魔王を倒すよ。だからと言ってそれ以外を適当にやり過ごす気はない。これは性分なんだ。僕についてきてくれるなら、いい加減理解して欲しいな」
「しょうがないわね、今回だけよ?」
「ありがとう」
「タクヤ様、馬車の手配が済みました。お早く」
「助かる、クレア。では平君、またな!」
パイセンは魔法のかけられた馬車で風のように姿を消した。
あれが勇者のあるべき姿だ。
この過酷な世界で善性を疑わず、誰隔てなく接することができるからこそ国民から絶大な人気を誇るのだ。
それに比べて俺はどうだ?
名前ばかりの勇者で、施しでもらった金貨のぎっしり入った麻袋を懐に仕舞い込む浅ましさ。
生き残る為だとは言え、情けなすぎるだろ。
パイセンが信じてくれたように、俺もいっちょ自分の能力を信じて見るとしますかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます