第二章 女中と異国の元王子④
◆
観衆は悲鳴をあげて逃げ出した。しかし、やぐらの上にいるコチュンとニジェナに逃げ場なんてない。バキバキと
「ニジェナ様っ!」
コチュンが
「コチュンっ!」
ニジェナが腕を伸ばしたが、コチュンは激しい
「大変だ、女の子が落ちたぞ!」
客席から悲鳴が聞こえ、コチュンはふらふらと頭を持ちあげた。同時に、コチュンの心臓がドキリと跳ねた。土俵の中央に、赤毛の牛がいたのだ。やぐらが
だが、牛はコチュンに
「こっちだ!」
そのとき、ニジェナが倒壊したやぐらから飛び降り、口笛を吹いて牛を呼んだ。やぐらの
「さあ、追ってこい!」
ニジェナは衣装の
れた牛はものの見事に土俵から退場した。
残されたのは、ボロボロの女中と、
「ニジェナ様……」
コチュンは呟くと、ばたりと倒れてしまった。ニジェナはあがった息のままコチュンに駆け寄ろうとしたが、それより先に、客席から一人の男が飛び込んできた。
「しっかりしろ、コチュン!」
男はコチュンに駆け寄ると、大事そうに
「おれだよ、トギだ。わかるか?」
男の問いかけに、コチュンはぐったりと頷いた。やがて、客席がざわざわと騒ぎ始めた。
「ニジェナ皇后様が、女の子を助けたぞ」
暴れ牛を
「ニジェナ皇后様は、この国の
「ニジェナ皇后陛下、
歓声が沸き起こるなか、土俵の中に大勢の衛兵たちがなだれ込んできた。その先頭に、顔を上気させたトゥルムがいるのを見て、ニジェナは慌てて駆け寄った。
「大変だトゥルム、団子がひどい
ところが、助けを求めたニジェナに、トゥルムはいきなり口づけをした。あまりにも
「トゥルムなんのつもりだっ、こんなことしている場合じゃ……」
「ばか、周りをよく見ろ」
トゥルムはニジェナに耳打ちし、目線を客席に向けた。
「女中を助けたお前を、バンサ国民は英雄視している。わたしたち皇帝夫妻が、バンサ国民に認められる好機だ!」
トゥルムの興奮した様子に、ニジェナは半信半疑のまま客席を見た。そこには、トゥルムと
「ここで、おれたちの
ニジェナは、視界の
自分を
「トゥルム陛下、ニジェナ皇后陛下、ばんざい!」
「バンサ国とユープー国、ばんざーい!」
だが、その様子に難色を示したものがいた。コチュンを抱きかかえたトギが、抱擁する皇帝夫妻を睨みつけていたのだ。
「コチュンが大変だっていうのに、いちゃつきやがって……最悪の
トギが
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