第二章 女中と異国の元王子②
◆
ほかの女中たちからその様子を聞いたコチュンは、ニジェナの
「牛相撲の会場は満員だと聞いています。予想以上の混雑ですが、
「まぁ……護衛の兵士もいるし、問題ないだろう」
ニジェナは鏡の前から立ちあがると、
「どうだ、
「はい、今日もお美しいですよ」
「
ニジェナは身に着けている衣装を
「コチュンが仕立てる衣装はいつも見事だな。どこでこんな技術を身につけたんだ?」
「育った家が貧しくて、着るものを自分で作らないといけなかったので、自然と
コチュンは、衣装を着こなすニジェナを見て、満足そうに頷いた。
「こんな裁縫でも、ニジェナ様のお役に立ててよかったです。今日もとても綺麗ですよ」
コチュンが自信をもって答えると、ニジェナは
ところが牛相撲の会場に着いてみると、コチュンもニジェナも、人の多さに驚いてしまった。牛相撲の土俵を囲むように、客席が階段状に広がっているが、入りきらない観衆が公道にまであふれていたのだ。皇帝夫妻の席は、土俵を見下ろせる特製のやぐらに用意されていて、この混雑からは
「まさか、ここまで注目を集めるとはな。お前もバンサの国民に手を振ってやれ」
トゥルムに耳打ちされ、ニジェナも民衆に手を振った。すると、割れんばかりの
「こんなに大勢の人が、ユープーとの友好を
「ああ。多くのバンサ国民が、ユープーとの和解を望んでいた。おれが皇帝に
トゥルムはニジェナに教えると、再び民衆に手を振った。トゥルムの言葉と民衆の歓声に背中を押され、ニジェナも力強く民衆に手を振り出した。それでも、時折歓声に交じってニジェナに対する
「ここにいる間は
トゥルムが忠告したとき、大きな歓声があがった。主役の牛たちが、土俵に現れたのだ。
「いつか、
ニジェナは、
その頃、コチュンは会場の外に並ぶ食べ物の出店を急いで回っていた。バンサ国の
「おーい、コチュン!」
そのとき、誰かに呼び止められた。
「トギも牛相撲に来てたんだ。その人はどなた?」
「職場の
トギに
「コチュンさんのことは、妹みたいな子だって、トギさんから聞いてます」
「そうなんです。トギとは小さい頃からの付き合いで」
コチュンはルマに答えると、からかうようにトギを見た。
「休みの日に彼女とお出かけなんて、
「ルマとはそんなんじゃないよ。ちょうどお
トギに同意を求められ、ルマは少し不服そうに頷いた。どうやら、ただの仕事仲間と思っているのは、トギだけのようだ。コチュンは二人の
「わたしは仕事で来てるの。急いで帰らないと怒られちゃう。だからもう行かなくちゃ。二人で牛相撲を楽しんでね!」
トギに
ところが、勢い余って通りすがりの人にぶつかってしまった。相手が体格のいい男性だったため、コチュンは跳ね飛ばされて地面に転がった。
「何やってんだよコチュン! すいません、そそっかしい
トギがコチュンを
「コチュンさん、大丈夫?」
ルマがコチュンの
「あの人、どこかで見たことあるような……」
「なぁ、あの男、ちょっと
「何も買おうとしないくせに、ずっとこの辺を歩き回ってる。しかも、牛が近くに来ても目も向けない。牛相撲の会場なのにだぜ?」
トギの言わんとしていることを察して、コチュンはごくりと
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