第一章 新米女中と嘘つき皇后⑦
争いの
ニジェナは、見たことのない衣装を身に着けていた。ユープー風の着つけに、バンサ国の伝統的な刺繍が大きく施されている。
二つの国の文化を混ぜたかのごとき
その様子を後ろに
バンサ国とユープー国の文化が
「……我がバンサ国の文化を、盗み取ったか?」
ふいに、ガンディクがニジェナの衣装をなじるように吐き捨てた。ニジェナの美貌に打ちのめされたと思っていたのに、まだ難癖をつける余力があったらしい。コチュンと女中たちは、ハラハラしてその様子を見守るしかなかった。
しかし、ニジェナは穏やかな
「バンサ国とユープー国の文化は、合わさるとこんなにも美しいものになるということです。それは、わたくしがトゥルム様に嫁いだことと同じ。バンサ国とユープー国は、ともに歩み寄り手を取り合うことで、さらに強固になる。この衣装は、その証明です」
コチュンは見惚れてしまった。ニジェナの言葉によって、その場しのぎの道具だった衣装が、同盟の意義を伝える芸術作品に
「ニジェナ様……かっこいい」
コチュンの口から、思わず呟きがこぼれた。
ガンディクは
「エルスの顔色が悪いわ。こんなになるまで待たせるなんて、ユープー人は非常識ね」
「それは違います、母上。わたしたちが急に訪ねたのがいけないのです」
意外にもニジェナを
「わたくしこそ、遅くなりまして申し訳ありませんでした。エルス
ニジェナが答えると、エルスは弱々しく微笑んだ。ガンディクとチヨルは、エルスの体調の変化を
ニジェナは自室に戻ると、衣装の結び目をほどいてあっという間に脱ぎ捨てた。脱ぎ
「今回は、女中たちの機転に救われたな」
「本当だよ。一時はどうなるかと思った」
「……で、お前の服を焼いたのは、やはり反対派の仕業か?」
神妙な顔で尋ねたトゥルムに、ニジェナは「おそらくな」と肩を落とした。
「上皇たちに正体がバレなかっただけでも、幸運だったかもしれない。まさかこんなあからさまにしかけられるとは……不意を突かれたよ」
ニジェナは絞り出すように
「やっと同盟を結んだってのに、平和は難しいな」
「犯人は、おれが必ず突き止める。そうやって、一つ一つ問題を解決していくしかないさ」
トゥルムは
「けど、今回の件でわかったことがある。バンサ国にも、おれの味方になってくれる人間はいるらしい」
ニジェナは、衣装を燃やされた自分の代わりに、コチュンが心の底から怒ってくれたことを
「
冗談めかして言うトゥルムに、ニジェナも笑って頷いた。
「そういえば、アイツはどこにいった?」
ニジェナは風呂場を覗いて、驚きに
「仕事中に眠るとは……やはり子どもだったな」
「今日はいろいろあったからな、大目に見てやるさ」
ニジェナは
「ほんと、ちびのくせに、
◆
コチュンがようやく目を覚ましたとき、朝日であふれる部屋の真ん中に、ひどい顔をしたニジェナが座っていた。
「ニッ、ニジェナ様、どうしたんですか、そのお顔!」
コチュンが慌てて駆け寄ると、ニジェナは
「お前が長椅子で寝るから、落ちないようにここで見張ってたんだよ。
「えっ、えええっ、ごめんなさいぃ!」
まさかニジェナにそこまで迷惑をかけただなんて。コチュンは真っ青になって
「とりあえず、おれは寝るっ!」
だが、ニジェナは
「昨日は、お前のおかげで助かった……ありがとう」
ニジェナはまた歩き出し、乱暴に寝室の扉を閉めた。残されたコチュンは、礼を言われたことに驚きつつ、散らかったままの部屋を見渡した。
そうしてまた、噓を守る一日が始まるのである。
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