第一章 新米女中と嘘つき皇后④
◆
王宮の外はバンサ国の
「どこの職場にも、めんどくさい上司っているんだなあ」
「ちょっとトギ、
コチュンが
トギは、コチュンと同郷の
コチュンは王宮を出るなりトギを食事に
「確かに、今日のコチュンは少しやつれてるな。新しく任された役目っていうのが、相当きついんだろ。いったい何の仕事なんだ?」
トギはコチュンの顔を見て、不安そうに尋ねた。こういう
「実はわたし、皇后様付きの女中に任命されたの」
「こっ、皇后様って、あの皇后様?」
トギは驚いて
「マジかよコチュン、あの絶世の美女のお傍についてるのかっ? すげえ仕事だな!」
「今話してためんどくさい上司が、そのニジェナ皇后様なんだけど?」
「婚礼の式典を見に行ったんだけどさ、ニジェナ様の美しさはこの世のものとは思えなかったぜ。おれ、あの人になら、どんな仕打ちを受けてもいい」
トギの夢見るような顔に、コチュンは白い目を向けた。
「悪いけど、この仕事ってそんな甘くないからね」
「でも、皇后付き女中っていえば、すげえ
トギはにこにこと
「よしっ、コチュンの出世祝いだ、今日はおれがおごってやる」
出世というわけではないのだが。コチュンは返答に困りつつも、
「はあ、もう帰らなきゃいけないのかと思うと、しんどい」
コチュンががっくりと
「コチュン、あのな。さっきは店の中だったから言えなかったけど、新しい皇后様、一部の民衆にはあんまりウケがよくないんだ」
「え、どうして?」
予想外の話に、コチュンは驚いてトギを振り返った。
「おれの職場にはさ、昔の戦争でユープー人に家族を殺されたり、兵士として戦ったりした人がいるんだよ。何十年も
「トゥルム陛下とニジェナ様のご
「そりゃ、あんなお祭り騒ぎをされちゃ、ユープーに文句を言いたい人でも黙るしかなかったんだろうよ。だけど、新しい皇后様を嫌う連中は、本当にいっぱいいるんだ」
トギはさらに声を潜めると、コチュンの耳元でぼそぼそと打ち明けた。
「実はさ、知り合いの
「そ、それ本当なの?」
にわかには信じがたい話にコチュンがおののくと、トギは|トギは
「ここ何年かは落ち着いてきたとはいえ、ずっと戦争をしてきたユープー国との同盟なんて、難しい話だったんだ。今でも、ユープー国に
トギは王宮までコチュンを送ると、にこやかに帰っていった。しかし、彼を見送ったコチュンは、深いため息をついた。
トギの話を聞くまで、バンサ国とユープー国の同盟に反対している人がいるなんて、コチュンは思いもしていなかった。でも、言われてみれば心当たりがある。ニジェナとトゥルムの
かつての敵国に、たった一人で乗り込むということは、多数の敵意に
それなのにコチュンは、ニジェナを噓つきの偽者とやじり、女中の仕事を投げ出してきてしまった。あの人は、命がけで平和のために嫁いできたのに、傍で支える人間すらいないなんて、むごいくらいに
気づくと、コチュンは小走りで蓮華の宮に向かっていた。ニジェナに謝ろう。そして、女中を務めている間くらいは、彼を傍で支えてあげよう。そう考えたのだ。
ところが、蓮華の宮に戻ったコチュンを
「みんな
彼女たちのただならぬ様子に、コチュンは首を
「上皇様ご夫妻とエルス殿下が、急にお見えになられたんです」
「えっ、上皇様ご夫妻が!?」
思いがけない展開に、コチュンは目を丸くした。上皇夫妻は、皇帝トゥルムの実の両親、エルス殿下はトゥルムの
「それで、ニジェナ様とトゥルム様は、どうされたの?」
「それが、上皇様ご夫妻がお二人にご
「わたしたちが準備を手伝うと申し出てみたんだけど、ニジェナ様はあなた以外を部屋に入れないって、
女中たちは、すっかりくたびれた様子で経緯を話した。上皇夫妻を待たせているし、ニジェナ皇后は部屋に引きこもっているしで、てんやわんやだったのだろう。
「わかりました。わたしがニジェナ様の準備を手伝います」
コチュンは一目散にニジェナの部屋に向かった。正体を隠すために人を遠ざけているとはいえ、上皇夫妻がやってきたのに皇后のニジェナが部屋から出てこないなんて、さすがにおかしい。コチュンは
「ニジェナ様、コチュンです。部屋に入りますよ!」
コチュンが取っ手を
「
ニジェナはコチュンを中に引っ張り込むと、すぐに扉を閉めて
「ニジェナ様、なにかあったんですか」
「……まずいことになった……」
ニジェナは、
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