最終話 君は優しい、弱い、友情に熱い、そしてツミビト
暴行罪で全員逮捕された中で健人君だけ執行猶予がついた
最初は安堵したSさんは、それがこの先どんな作用を産むのかに気づいた時から、今も心休まる日が来ない
それぞれの弁護士、特にリーダーからのメッセージは辛辣だった
『絶対にお前を許さない』
グループの仲間になって間もなく逮捕されて、何を話していいのか?何を話したらまずいのか?健人君なりに考えて不利になる偽証までしてリーダーを庇ったつもりが、刑事にも検事にも追求されて拗らせた結果、全員の勾留が伸びたのは健人君のせいで、みんなの逆恨みを一身に受けてしまった
リーダーは2年の実刑だ…そろそろ出てくる
健人君は今、長距離ドライバーになって働いている
居場所が特定されず、家にもずっといない仕事を探していたら、そうなっていたが、それが解決とは思えない
ノートNo 2裏より
〝連中は俺を裏切り者という理由で制裁を考えるだろう、手口は知っている。逃げる事は出来ないだろう、でもこれがアイツの「消えてくれ」という意味では望む通りで償いに近いと思います〟
ノートNo 6表より
〝母さんが証人として来るらしい、嫌だな。囚人服姿は見られたくないから私服で行くけど逮捕された時のままだから覚えていたら泣くかもしれない。また痩せてなければいいけど心配する立場にもなれないよね俺は〟
Sさんの忘備録は、ただの気休めだろう
Sさん自身出来ることはしておきたい、と言った時からわかっている
でも、1日1回必ず来る夜、ひと月30日、1年365日
何千回心配な夜をやり過ごせても、きっと死ぬまで心休まる日は来ない
最初に言っていたことを思い出した
死ぬまでじゃなかった、死んだ後のことまで心配している
家族にそんな生き方をさせる健人君は罪深いと思う
他人事だけど知ってしまった私の胸の中にも新たな澱みが層となり、言葉にならない想いがきっとこの先積み重なるだろう、小学時代のあの子のことのように…
私はあの子を虐めていた子と仲が良かった
でもあの日、あの子のびしょ濡れの頭にハンカチを差し出すと
「いいよ、汚れるから、これ便器のタワシで擦られたんだ」
そう言って笑っていた
夏中、そのタワシで向日葵に汚水を浴びせ、種が出来ると「食べろ」と命令されて食べた、命令されたから食べたのに「汚ねえ」と言われ更に汚水を浴びせ掛けられたと言って笑って、翌日自殺した
虐めていた子になぜあんな酷いことをしたのか聞くと
「あのバカ、それくらいのことで死にやがって!」とイライラして言った
「ちょ、からかっただけで当てつけすぎるだろ?」と同意を求められて私は黙っていただけだった
黙ったままの気持ちが、考えたり思い出す時間分、
Sさんに言われた「また何かありましたらお願いしてもいい?」
「いつでも待ってます」と言いながら心で『ツイテナイ』と呟いた
罪人《ツミビト》の誕生 多情仏心 @rinne_rinrin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます