甘えベタな君だから

「うわっ舞衣大丈夫ー?」

その声に振り返ると、山のような資料を抱えて教室に入ってきた君が目に入った。

「あははー。大丈夫大丈夫!」

そう言いながら君はヘラヘラと笑う。

君はよたよたと歩きながら、自分の席まで行き、その資料の山を机の上にドンと置いた。

「えっ…それどうしたの?」

最初に声をかけた彼女が駆け寄り、君に問いかけた。

俺は、隣で喋る友人の言葉を聞き流しながらその様子を伺う。

「職員室行ったらさー、丁度いいからって資料作り頼まれちゃったー。」

またヘラヘラ笑いながらそう答える。

「えー!舞衣、学級委員でもなんでもないじゃん!」

「いやあ、そうなんだけどさー。ほら、うちの学級委員2人とも部活動生じゃん?この資料使うまでに自習時間とか無いらしくて、クラスみんなでやるとかできないみたいなんだよねー。」

あはは、なんて笑いながら、君は仕方ないよねと言うような顔をする。

「えー…でも舞衣がしなくてもいいじゃん?」

まるで代わりに拗ねるように、彼女がぶすっとした顔をする。

「いいのいいの!私帰宅部だし、バイトもしてないから暇だもん!」

にこりと笑んでそうは言うが、とても一人でできる量ではない。

「うーん……手伝おうかって言いたいとこだけど、私これからバイトなんだよなぁ…」

「バイトいってきなよ!こんなのちゃちゃっと終わるし!」

そう言われても彼女は納得いかない様子だ。

「うーん…」

「ほーら、行った行った!バイト遅れちゃうよー?今日は手伝えなくてもいいから、代わりに今度学食の菓子パンおごって?」

彼女をなだめて送り出そうと、君は彼女が納得いきそうな提案をする。

それでも彼女は後ろ髪を引かれるような思いを見せながら承諾し、走って教室を出て行った。

ふーっと息をつき、席について資料づくりを始めた。

それを見て思わず俺もふーっと息をつく。

「あ!やべ!そろそろ部活行こうぜ!」

一人隣で喋り続けていた友人が、時計を見て慌てたようにそう言った。

「あー………ごめん、俺今日部活休むわ。親に早く帰って来いって言われてんだわ。」

「えー…まじかよ。まあ、とりあえず部長に伝えとくわ。」

「おう、よろしく。」

後で先輩達から色々言われるかもしれないが、とっさに浮かんだ休む理由を友人に託した。

「じゃあ、また明日な!」

「おう、じゃーなー。」

友人はバタバタと荷物をまとめると、走って教室を出て行った。

それを見送ってから、ちらりと君を見る。

熱心に資料づくりをして、こちらに見向きもしない。

「…舞ー衣ーちゃん。」

そーっと近づいて、君の後ろに立ち、名前を呼んだ。

「っ!?!?!!?」

びくりと肩がはね、振り向いて俺を見ると、安堵の表情を浮かべる。

「はあー、びっくりしたぁ…。なんだ、蓮かぁ。びっくりさせないでよぉ…。」

「わりぃわりぃ。てかそれ、一人で終わんの?」

資料を指さし、俺は本題を問う。

「あー……まあ、終わんなかったら明日もするよー。」

またヘラヘラと笑って君は…。

「バカかよ、お前は。せっかくいんだから手伝ってとか言えよ。」

そう言って、資料が乗っている机に向かい合わせになるように席につく。

「えっでも、部活は?」

当たり前のように手伝おうとする俺にうろたえて君は言った。

「一日ぐらい休んでも平気だろ。たまには休養も必要ー。」

そう言いながら、山のようにある資料に手をつけた。

「えっと………なんか、ごめんね?」

戸惑いを隠しきれないまま、君は俺を見る。

「こういう時は、言うことが違うんじゃねーの?」

作業をしながらそう言うと、少し申し訳なさそうな顔をしながら照れくさそうに君は言う。

「あっ……ありがとう…。」

「ん。」

ったく、素直に甘えればいいのに…そう心の中で思いながら、作業を続けた。


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