南都編 その16 マリアン『予定通りです!(キリッ)』

『ツルギ、お姉ちゃんがあんたでも出来る簡単なお仕事を閣下から貰ってあげたから大至急お城まで来なさい』


 と、業務連絡のような手紙が俺に届いたのは『昨日は和食だったから今日は洋食、オムライスとかハンバーグが良いなー』と考えていた時。つまり夕飯時だな!

 えー、いきなり呼び出しかよ……俺、居候みたいなもんだし? 晩飯時間に外に出てたら普通にそのまま飯抜きになっちゃうんだけど……。

 兄貴のお屋敷で出てくるご飯、毎回そんなに豪華絢爛! って感じじゃないけど味が日本人向きっていうかさ、素材の味が他所で食べるのと全然違うんだよな。


 まぁでも、こうして姉ちゃんが俺に頼ってきてるわけだし? 行かないって選択は無いんだけどさ。


 お屋敷のメイドさんに声を掛けても異性と話しをするのが恥ずかしいのか普通に無表情で無視されるので、ここのお屋敷のカレイ? とかいうのをやってるらしいジョシュアさんに声を掛けることに。

 てか南都にいるメイドさんたちもそうなんだけど、基本的にここのお屋敷のメイドさんって全員照れ屋さんで、兄貴が居ない時に声を掛けても小走りで去っていくんだよな。


「ジョシュアさんすいません、兄貴……ハリス様からお城まで来るようにとの言伝が届いたんですけど、どうすればいいですかね?」

「旦那様から連絡ですか? 了解いたしました、大至急乗り物のご用意をさせて頂きますのでしばしお待ちを」


 乗り物……あれかな? 車みたいな馬車かな?

 アレ、姉ちゃんはちょくちょく色んなお姉さん(兄貴の奥さん)とお出かけの時に乗ってるけど、俺はあんまり乗ることが無いんだよな。

 うん? 俺の普段の移動手段? 兄貴にタイヤのデカいキックボードみたいなのを貰った!

 でも、あれはあれで立って乗らないといけないし、登り坂だと押さないといけないから結構疲れるんだよな、当然屋根とかは無いから雨の日はずぶ濡れになるし。

 同じ濡れるにしてもバイク、ジョシュアさんとか黒い鎧の悪魔……じゃなくてサーラさんとかメルティスさんが乗ってるバイクみたいなの俺にもくれないかな?


 そんなこんなで用意に十分ほど、移動にも十分ほど。

 ジョシュアさんに送ってもらって到着したのは妙に慌ただしい雰囲気のお城。

 兄貴の呼び出しってことでとくに止められることも咎められることもなく、顔パスで長い廊下を奥へと進む。

 普段のお屋敷では考えられない、やたらと愛想の良いお城のメイドさんが案内してくれるんだけど……その胡散臭い態度が逆に気持ち悪いと思っちゃうんだよな。


「遅かったわね、私が呼び出してるんだから三分で来なさいよ!」

「無理言うなよ! だいたい三分じゃここからお屋敷まで手紙が届かないじゃん!」


 上げ膳据え膳ならぬ『手動式自動ドア』。

 メイドさんに開いてもらった扉の向こうでは仕事中だったのか何やら書類を広げ、それを見つめていた姉ちゃんが顔を上げて俺に話し掛けてきた。


「まぁいいわ、今日の私はとっても機嫌がいいから許してあげましょう。……さっそくだけど、あんた、こっちに飛ばされる時に見た女の人のこと覚えてる?」

「機嫌が良くてその憎まれ口って何なんだよ! いや、ホントにさっそくだな……えーっと……覚えてるような覚えてないような? そもそも顔も見てないし、何となくおっぱいがあったように見えたから女の人かな? くらいしかわかんねぇんだけど」

「おっぱいって何なのよ、あいかわらず気持ち悪いわねあんた……」


 いつもは『あんたは余計な事を言いそうだから日本での事は口にするんじゃないわよ!? とくにハリス様の前では絶対にっ!!』と、口を酸っぱくして繰り返す姉ちゃんがこっちに呼び出された時の事を話し出す。

 女の人……暗かったし、それでいて光ってたしで『たぶん女の人、きっと女の人……だったらいいな?』くらいの認識なんだよなぁ。


「私もちゃんと見たわけでもないから別にそれはどうでもいいんだけどね。あれなのよ、その、私たちと一緒にこっちにきたらしい女の人が見つかったのよ」

「ふーん、そうなんだ? それならまた兄貴が保護してくれるんじゃないの?」

「それがねぇ……その人、初対面のあんたがハリス様にやらかした以上のことをやっちゃってるのよねぇ……。てことであんた、その人の世話役をすることになったからヨロシク」


「いやいやいや、展開が急すぎるよ!? どういう流れでそんな話になったんだよ!? そもそも相手は女の人なんだろ? なら姉ちゃんがお世話すればいいじゃん! 俺には南都に二人も恋人……候補がいるんだからさ!」

「あんた、もしも褐色姉妹の事を言ってるならあれは恋愛対象ではなくてただのストーカー相手だからね? まぁ、嫌ならいいんだけどね? あんたのせいでその人が処刑されるだけだし」

「どうしていきなり、そんな『ビーフ(デッド)・オア・チキン(アライブ)?』みたいな展開になってんだよ!? とりあえず最初からちゃんとこれまでの流れを説明してくれよ!」


 『面倒くさいわね、そのくらい察しなさいよ……』と言いながらも今日ここであった話、これまでにその女の人がしてきたであろう事を説明してくれる姉ちゃんだった。


~・~・~・~・~


 月見里姉弟に魔女の事を任せてから三日が経過。

 トゥニャサの膝枕でダラダラとしていた俺の元に月見里姉が現れる。


「閣下、弟が魔女の籠絡に成功いたしました」

「そうか。……いや、思っていたよりも早いな? もしや、マリアン嬢の弟も魅了の力……うん、そのような力があればメイドからあれほどの苦情は出ていないだろうな」


 あいつ、日本で客引きをしてるメイドさんを見るような目で屋敷のメイドを見てるみたいだからなぁ……。

 俺も同じ日本人だからその気持はわからないでも無いんだけどね?

 この屋敷で滞在しだして結構な時間が経つんだからいい加減に慣れろと。

 あと、顔が気持ち悪いらしいけど、それはただの悪口になるから勘弁してやってくれ。


「知らぬこととは言え弟がご迷惑をおかけしているようで心苦しいです……同郷と言うのが大きかったのでしょう、今ではトイレに入る時も一緒だと聞きました」

「一緒に風呂までならわかるが、さすがに一緒にトイレは無いだろ……」


 いや、聖女――魔女の目は治療していないからそれも仕方ないのか?

 もちろん自分でも治療が出来ないよう聖霊さん(黒柴ちゃん)に魔法が使えなくする呪いをお願いしてある。


「それで、魔女――マイカと言うらしいです――がこれまでの教国の暗躍の話など詳しく閣下にお伝えしたいと。……しかしその、弟がそれらの話をお聞かせする替わりにできれば彼女の目を治して貰えないかということと、自分たちの結婚を許して貰えないかと言ってきておりまして」

「なるほど。……んー、治療に関してはそうだな、今の魔眼を持ったままの魔女を治すなどありえん。もしも、あの魔女がこの国に、私に忠誠を誓うと言うならその力を封印することも可能なのだがな」


 相手がこちらに心を開けばパーティに入れられるし?

 『みんなでやりなおし』スキルで魔眼、その他の能力を消すことも出来るからね?


「そして結婚については……そもそも俺がどうこう言うことではないだろう? ツルギの気持ち次第だろうからな。しかし、それがあいつの、勇者の力を利用しようと考えての話なら……友人ではないが、知人としてあいつの善意を踏みにじるような行為を許すつもりは無いぞ?」

「有難きお言葉、不出来な弟の姉として感謝いたします閣下」


 ちょっとおバカな所はあるけど、なんだかんだで気の良い奴ではあるからな、月見里弟。


「魔女のこと……いや、二人のことについてはマリアン嬢に任せきりで最近は様子を見にも行ってはいなかったからな。そこまで懐柔できているなら一度話を聞きに行ってみるか?」

「私も何度か接触しておりますが、目に見えて態度が変わっておりますので大丈夫かと思われます。あっ、もちろんお供させて頂きますので! なんたって私のご側室入りがかかっておりますので!」

「そんな話もあったようななかったような気もしないでもないようなそうでもないような?」

「ありましたからね!?」


 ということで月見里姉と一緒に、王城内にある『特別室(軟禁部屋)』へと向かう俺たち『四人』。

 うん? 他の二人? そんなのサーラとメルちゃんに決まってるじゃん。

 扉前に立つ見張りの近衛兵に鍵を開けてもらい中に入ると、


「何かこう、微笑ましいを通り越して気持ち悪い光景だな」

「同意いたします閣下」

「どうしてだよ! はっはーん……さては兄貴、マイカと俺の仲睦まじさに嫉妬してるんだな? ふふっ、残念だけどマイカはもう俺の彼女だからなっ!」

「あっ、はい」


 魔女の頭をその膝に乗せ、優しく髪を梳いてやるとても優しい顔をしたジャガイモが鎮座していた。

 マリアンが部屋に来た時にトゥニャサに膝枕してもらっていた俺が言えたことではないけど、他人がイチャイチャとする姿なんて見られたもんじゃねぇな……。


 俺の声が聞こえたからかガバっと起き上がり、そのままジャガイモにギュッとしがみつく魔女。


「ツルギ! 今の声って……」

「大丈夫、兄貴……ラポーム公爵様がマイカの目を治しに来てくれただけだから!」

「いや、様子を見に来ただけで治療に来たわけじゃないんだけどな?」

「ど、どうしてですか!? マイカはこんなに可愛いのに!! そもそも、こいつは転移してきたすぐに拉致されたキョウコク? とか言う国の連中に騙されてただけなんですよ! こうして同じ世界の俺が近くに居れば何も悪いことなんてしませんし、絶対にさせませんから!」


「ツルギ……仕方ないのよ。公爵様が私に罰を与えたのはこれまで私がしてきたことを考えれば当然のことだもの。それに私、目はこのままでも問題ないって言ったよね? それともツルギは……こんな浅ましい魔女の世話をするのが嫌になっちゃったのかな?」

「マイカ! そんなことあるはずがないよ! 俺はずっと、この先もずっとお前だけと一緒だから! 兄貴、いきなり大声をだしちゃってゴメン。でも、マイカのこととなるとついつい熱くなっちまうから……」


(おい、アレは本当に大丈夫なのか? 魔女がしおらしくなっているのはいいが……)

(そうですね、自分以外誰も頼れない頼ることのない彼女が出来た童貞男と、かわいいわがまままでなら何でも聞いてくれる年下彼氏を手に入れた女の完全なる共依存……ゴホン、予定通り、非常に良好な関係を築けていると思われます)

(本当に大丈夫なのかそれは!? いきなり二人で無理心中とかしないだろうな!?)

(そのへんは大丈夫だと思いますよ? 弟はどこまでも前向きですし少し考え違いをした責任感もありますので)


 うん、あんまり大丈夫だとは思えねぇな……。


―・―・―・―・―


(ここから言い訳)


ということで久しぶりのハリスくん♪……いや、本当はアレでソレなご連絡と一緒に更新する予定をしていたのですが、少々時間がかかっておりまして、そのまま更新も停止してしまい……。


そして、文章の書き方が以前とちょこっと変わってたりしますので、前話から続けて読まれている方は『いきなり雰囲気が変わったんだけど? もしかして作者の中の人変わった?』と思っちゃうかも(笑)

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