二巻発売記念SS 『もしも……』シリーズその1
発売日からひと月近く過ぎてかーらーのー記念SS(笑)
いや、笑い事じゃないんだよなぁ……。
―・―・―・―・―
✩もしも『フィオーラ嬢が教会を訪れた日』に、ハリスくんがシーナちゃんと買い食いに出かけていて出会わなければ。
いよいよシーナちゃんがこの孤児院を巣立ってゆく(追い出される)期限まで残り僅か。
波風立てずに、彼女の火傷痕を癒やす計画を結局何も思い付けて居ない俺。
もう、ここは覚悟を決めて『幼女と二人でランデブー』しか残されていないのかもしれないな……。
夕食後、いつも通り俺の部屋――と言う名のただの物置のベッドに腰掛けてその日の出来事などを話しかけてくる彼女。
うん?倉庫内は真っ暗じゃないのか?
いや、最近ちゃんと働いてるからね?俺。
部屋で安いオイルランプを灯すくらいの金はあるのだ!!
話が途切れたタイミングで彼女の隣に腰掛け、これから先の事を説明しようとその顔をじっと見つめる俺。
「シーナちゃん……」
「どうしたのハリス?」
いつもとは違う俺の態度にキョトンとした顔をしたシーナちゃん。
その後、何かに気づいたようにハッとした表情になり、
「……そう、だよね、ハリスだって男の子だもんね?」
「はい?」
「大丈夫、わかってるよ?私が居なくなっちゃうから寂しいんだよね?」
「うん?ああ、まぁそういう一面もあるかもしれないけど……いや、そうじゃなくてね?」
「だから……思い出が欲しい……あっ!そっか……私の勤め先が『宿』だって聞いたから……心配なんだよね?」
「確かにそれも聞いたけど……じゃなくて、少し話聞いて?」
「でもハリスの考えてるようなことはないと思うよ?一応は教会の紹介だし、そもそもこんな顔の女に手を出してくる物好きなんて……」
「そんなことないよ?シーナちゃんは今のままでも十分可愛いし……いや、だから話を」
「ふふっ、そんなこと言ってくれるのハリスだけだよ?しょうがないなぁ……じゃあ、そんなハリスが安心できるように……」
「どうしていきなり服をまくり上げたのかな?どうして俺の服を脱がそうとしてるのかな?ちょっと、パンツから手を離して?てか力つえぇなこの幼女!?」
……天井のシミを数えてる間に美味しく頂かれた。
そしてこのあと、彼女と俺の火傷痕を治療して王国から帝国に二人で逃亡。
いや、とくに逃げたわけでもないから普通に旅立っただけなんだけどさ。
帝国の迷宮都市で探索者となった俺とシーナちゃん、世界を股にかけるような冒険を繰り返して後世に名を残すのはまた別のお話……。
―・―・―・―・―
✩もしも教会で出会ったのがフィオーラ嬢ではなくヘルミーナ嬢だったら。
いつも通り教会の片隅で女神像――この街のご領主であるキーファー公爵家のお姫様の像をモクモクと彫り続けている俺。
そんな、代わり映えのない毎日だと思っていた俺に、
「へぇ……ほりものがじょうずなのですね?というかそれはフィーねぇさまなのです?」
知らない女の子から声がかかる。
どうせ金目当ての孤児院の娘さんたちかと、そのまま無視してしまおうと思ったんだけど……なんかこう、むっちゃ甘くてミルキーな良い匂いがする。
てか、この子今『ねぇさま』とか言ったよね?ここにそんなお上品な言葉遣いの子供なんて居るはずが無い……いや、女神様……じゃなくてお姫様の像を見て『ねぇさま』とか呼ぶ女の子って、それもう完全にお姫様のお身内じゃん!?
さすがにお貴族様を無視するとか後が怖すぎるので慌てて顔をあげる俺。
目の前に立つのは、教会の奥で見た聖女様に勝らずとも劣らない愛らしさを称えた……『幼女様』。
「残念、15年後にもう一度チャレンジしてね?」
「なんだかわかりませんがすごくしつれいなことを言われた気がするのです!?」
チッ、俺に話しかけてくるのはシーナちゃんを筆頭に幼女ばっかりかYO!
……じゃなくてだな!幼女!ぷにぷに!貴族様!
慌ててその場で片膝をつき、
「申し訳ございません、ちょっとした孤児ジョークでございます姫様」
「いきなりたいどがかわったのです!?……おもしろい子なのです。名前はなんて言うのですか?」
「これは失礼いたしました。私の名はハリス、元は貧乏貴族の三男でしたが……色々とありまして、今はこうして教会でお世話になるだけの隠居の身」
「いんきょするようなねんれいではないと思うのです……ミーナはミーナなのです。……ハリスのそのお顔、やけどのあとは火事にでもあったのですか?」
膝をつく俺の前でかがみ込み、膝の上に肘をついて心配げにこちらを見つめる『ミーナ』嬢。
クッ、何なんだこの幼女!?のんびりとした会話のテンポと舌っ足らずな、それでいて少し甘えたようなその声音。
ロリコンではない俺が見てもむっちゃ可愛いぞ!?
「いえ、これは若気の至りで……」
「今でもじゅうぶんに若いと思うのです……火遊びでもしてたのです?」
「王子殿下に焼かれました」
「一体どうゆう状況になればそんなことになるのですか!?」
どうって言われても……ただの自業自得だとしか説明できねぇんだよなぁ。
てか今、この子の話し方……急に『素』の状態にならなかったか?
ミーナ嬢に疑惑の眼差しを向けてみるも……『どうしたのです?』って感じのキョトンとした顔がすごく可愛い。
「まぁ、長く生きていると……色々あるのですよ」
「ふつうの人は長生きしても王子ともめごとは起こさないと思うのです!」
小さな声で『……いえ、殿下と言うのがあの第三王子なのだとすれば、そういうことも有るかも知れませんね……』と呟く幼女。
「まぁいいのです!ハリス、これからミーナのお家にくるのです!」
「えっ?どうしていきなりそんな話に……私のような身分の者がおひぃ様のお屋敷にお邪魔など……」
「大丈夫なのです!ミーナがフィーねぇさまにお願いしてハリスのやけどあとを直してあげるのです!」
「いえ、そのようなことをして頂く謂れが私にはございませんので」
「ハリスはちょっとめんどくさいタイプの人なのです?気にしなくていいのです、かねもちのふところはさぐるためにあるのです!」
「いや、貴族様の懐に手を突っ込んだりしたら普通に処刑待ったなしですからね?」
「むぅ、もしもそれで恩義を感じたのなら、ミーナの側仕えになってくれればいいのです!ハリスといればきっとおもしろいことになると思うのです!」
「そんなことはないと思うんだけどなぁ……」
それからも何度か教会に訪れたミーナ――ヘルミーナ嬢。
諸葛孔明ではないが、三度目の来訪時に俺が折れて彼女のお家であるキーファー公爵様のお屋敷に向かうことに。
何だかんだあって、その後は彼女の側で執事の真似事をすることになったんだけどね?
それから『15年後』。
彼女が22才の時に俺の方からプロポーズ……したのかどうかは秘密である。
―・―・―・―・―
てことで、
『平民のままのハリスくんと負けなかった幼馴染シーナちゃん』のもしかしてあったかもしれない冒険者としての未来のお話と、
『教会に訪れたのがフィオーラ嬢ではなくヘルミーナ嬢』で、彼女に調教……彼女一途に育て上げられたハリスくんのお話でした♪
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