南都編 その15 アライグマ(お腹の黒さって意味で)マリアン

とっとと処分してしまう方が安全だと思われる相手なんだけど・・・今後のためにも情報収集が最重要であるため、生かしたまま王城の貴賓室まで連行される魔女。

どうして牢屋、独房じゃないのかって?ちょっとムチを与えすぎたので少しくらいは(話を聞くまでは)アメも与えておかないとほら。世を儚んで、潔く腹を切られても困るしさ。

もちろんそれに並行して異世界勇者ことジャガイモ・・・ではなく、姉のマリアン嬢を呼び出す。うん、今さらながら『嬢』を付けるのにもの凄い違和感を覚えるな。


「呼ばれて飛び出てあなたのお側に!ヤマナシマリアンです!」

「無駄にテンションたけぇなこいつ・・・とりあえず殴るぞ?」

「いきなりのDV宣言!?なんとなくで殴られるのはさすがに勘弁していただいきたい・・・でも案外嫌じゃないこの気持ち・・・えと、王城にお呼ばれた理由を何も聞かされていないのですが、閣下の夜伽のお相手で間違いないんですよね?」

「夜どころかまだ夕方にもなってねぇよ!逆にどうして俺が性行為のためにわざわざお前を城に呼び出すと思ったのか・・・。あれこれと色々手伝ってもらってるから忙しくしてるのにいきなり呼び出してすまないな、どうしてもマリアン嬢にしか頼めない事柄でな」

「わかります!誇張しすぎたマニアックプレイのお相手ですね!それはアスタリスク関連のお相手でしょうか?」


何が嬉しいのかニコニコ笑顔でいつもの三倍くらいテンションの高いコケシ少女。

てかアスタリスク関連って何だよ、意味わかんねぇよ・・・いや、変換したら『*』だもんな、なんとなく想像はつくけどさ!


「ひとまず落ち着け、今日のはそこそこ真剣な話だから」

「はっ、申し訳ございません閣下。まさかのご指名での緊急のお呼び出し、あまりにも嬉しくてつい・・・」


とりあえず対面に座らせて飲み物を用意、今日のこれまでの流れ、そして教国の聖女の話を手短に伝える。


「なるほど・・・『魅了の眼』の異能(ギフト)の持ち主ですか。日本人らしき異世界人、それも女性の相手ならば確かに自分が最適かと。しかしそのような危険人物、情報を抜くよりもとっとと殺してしまうほうがよろしいのでは?」

「ほう・・・まさかの同意見とはな。しかし、同じ祖国であると思われる人間相手になかなか辛辣な物言いだな?」

「なんとつれないお言葉・・・閣下にお救いいただいたあの時から私の祖国は閣下のお家だと思っておりますので!・・・しかし、ふむふむ・・・かなりネガティブな状態の目の見えない女性、それも日本人・・・状況によりますが弟、ヤマナシツルギを使ってもよろしいでしょうか?」

「うん?ああ、それはもちろん構わないが。ジャガ・・・勇者殿はマリアン嬢ほどにどす黒い内面・・・ではなく、腐った性根・・・でもなく、謀略や諜報には向いていないのではないか?」

「閣下は私をいったい何だと思ってるのでしょうね!?いえ、お話では日本人でかなりネガティブな精神状態にある眼が見えない女性であるとのことですので、馬鹿・・・正直で、何も考えていない・・・素直な、年下男の色恋営業の方が案外コロっと引っかかるのではないかなと思いまして」


びっくりするほどえげつないこと言ってないかこいつ!?

発言が完全にどクズのそれなんだけど?もしもこいつの弟とあの女が恋愛関係になってそのあと魔女を殺すことになったらさすがの俺でも少しくらいは心が痛むんだけど?

・・・いや、もしかしたらそれが狙いか?

同郷として命くらいは助けてやりたいと・・・表情を見る限りでは思ってなさそうなところがなんとも。

ヤマナシ姉、イマイチ表情で考えてることが読めないんだよな。


「まぁこの件に関しては、いや、この件に関しても・・・だな、多忙なところすまないがすべてマリアン嬢に任せるので好きにしてくれ。というか商国よりこちらに連れてきてから、姉弟揃って便利使いしすぎてるよな。そろそろ何かしら褒美でも用意しないと、俺が他所から『なんと薄情で吝嗇な人間だ』と思われかねないくらいには」

「ご褒美ですか!?それは性的な行為も可能でしょうか!?それなら是非ともアスタリスクに」

「いや、どうして初体験すっとばしてそっちのプレイなんだよ!それなら普通でいいだろうがよ!あと弟への褒美は無視か!」

「閣下、弟とは姉には絶対服従する生き物なのです!では、初回はノーマルな感じでお願いいたしますね?」

「お、おう?おう・・・まぁ、考えておく」

「はい!」


今日一でいい返事をするヤマナシ姉だった。


~・~・~・~・~


こちらはハリスが部屋から退出後に一人残された月見里真利杏。


「ビックリした・・・最近はアリシア殿下にもヘルミーナお嬢様にも多少は認められて少しは安心出来てたんだけど、いきなりお城に呼び出されるとか・・・処刑されるのかと緊張と不安で尿意が半端なくて変な挨拶しちゃったんだけどとくに何も言われなくて一安心・・・いや、それはそれでどうなんだろう?普段からオカシナやつだと思われてるんじゃないよね?」


身内に対しては合成甘味料(サッカリン)レベルで激甘ではあるが、一度でも敵対した相手には容赦をしないハリスのこと、自分のどのような行動がどのような怒りに触れたのかとビクビクしていたヤマナシ姉である。

もっとも、ハリスにとって彼女は『ちょっとおバカな弟がいる、日本人』だったのが最近では『内政面で色々と役に立っているし手放すのは惜しい人材』という家族以外ではエオリア、オッサン男爵、バケツ幼女に次ぐ高評価になっているので、それこそ致命的な裏切りでもない限りは処罰などされるはずもないのだが、本人の扱いが昔のまま、雑なままなのでまったく伝わっていないというちょっと可哀相な状況なのである。


「しかし・・・日本人かぁ・・・たぶんあの時のお姉さんよね?異世界転移に巻き込まれたのか私達が巻き込んだのかはわからないけど、転移先が宗教国家とか運が悪すぎよねぇ・・・いえ、運がどうこうじゃなく本人が思いっきりやらかしちゃってるんだから自業自得でもあるみたいだけれど」


最初にたどり着いた先に対する彼女(魔女)の運の悪さと、拾われた国がハリスと敵対しかけたが自分たち姉弟は彼に拾い上げられたことの運の良さを比べ、少しだけ同情をしかけるが、『魅了の力』で取り返しがつかないほどのやらかしをしていることを思うと呆れからかため息をつく真利杏。

まぁハリスが聞けば『いや、他人事みたいにしてるけどお前も鉄砲でやらかし掛けてる、むしろしっかりとやらかしてるんだからな?』と突っ込まれるであろうと思われるが。


「うん、同じ日本人だからって下手に同情して、危険を犯してまで私が何かしてあげることなんてないよね?そもそも求められてるのは情報収集だけだし?・・・ていうか今日のハリスさま、いつもよりもちょっとフレンドリーな雰囲気だったなぁ・・・はっ!?もしかして、やっと黒髪クールな私の魅力に気づいてくれたのかも!?」


絶対にそんなことは無いのだが本人がどう思うかは本人の自由である。


「まぁ?ご褒美に私の側室入りも決まったことだし?めんどうなことはとっとと終わらせて早くハリスさまといちゃいちゃタイム突入!だよね!!」


もちろんそんな約束もしていないのだが・・・思い込みの激しい真利杏であった。


~・~・~・~・~


場所は変わって――まぁ王城内には変わらないんだけどね?

ヤマナシ姉と話をした部屋から国王陛下やその他の重鎮、魔女に魅了されていた貴族様たちが集まる部屋に移動する。

何やら魅了系の精神魔法を使われたと言うことは分かってはいるがイマイチ実感がなさそうなおじさんたちに、コーネリウス様が俺をお迎えに来たところから教国の偽聖女の危険性に気づき、王城に乗り込んで彼女を排除したところまで・・・つまりヤマナシ姉にした話を繰り返したわけだな。人、それを二度手間という。


「なるほど・・・順序だって説明されるととんでもなく危険な状況であったのだな・・・此度のこと、心の底から感謝する。ハリスがいなければ我々だけではなくこの国がこの先どうなっていたことか・・・」


完全に状況を理解した王様だけではなくガイウス様やマルケス様、そして名前くらいしか知らない内政官や外交官が顔を青くする。


「まぁまだ詳しいことは本人・・・魔女の口から直接聞かないとなんともいえないんですけどね?その辺は同じ異世界人でもあるマリアン嬢に任せてありますので」

「もちろんハリスを疑うわけではないが・・・本当にあのような年端も行かぬ娘で大丈夫なのか?」

「ははっ、年端も行かぬと言うならば彼女より私のほうが年下なのですがね?」


いや、どうしてそこで(義父も揃って)怪訝そうな顔をする?ハリスくん、まだ十五歳やぞ!!


「数日中には詳しいお話も出来るかと思いますので・・・ああ、そうそう、今回のようなことが起こらぬように『精神魔法に耐性を得られる魔導具』というか首飾りを用意してきましたので必要な方はお声がけを」


もちろん室内の全員が挙手したので全員に配ることになったんだけどね?

原価はそんなにかからないし、今度デパートででも売り出すかな、この首飾り。

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