南都編 その12 厄介事は馬車でやってくる

そんなこんなで王都の旧ダリア地区での作業、箱物の建設など出来るところまで――ショッピングモール周辺は八割がたが完成、歓楽街の方は区画割りくらいしか出来てない――は完了したのであとは人任せで従業員の教育待ちということでとくに急いですることはなくなった俺。

デパートの従業員だけじゃなく、フードコートのメニューやその料理人の育成、さらに賭場のディーラーみたいな人材の育成までヤマナシ姉が回してるんだけど・・・本当に奴は元女子高生なのだろうか?


本人曰く「こう見えて私、腐女子でしたので!」ってことらしいのだが。

いや、彼女がご腐人なことに関してはその外見や挙動からほぼ見たまんまなので何の違和感もないんだけどね?

もちろん王国スラムの再開発だけじゃなく本命である南都開発の方向性も見えてきたし?今年はいたって順調な新年!・・・と気を抜いてたら転がり込んでくる厄介事。

時間も出来たのでドーリス用のエッチな下着を縫っていた俺のところにお城から義兄の、そう、義兄の!コーネリウス様がやってきた。


「ふぅ・・・久しぶりにハリスにもらった魔導車じゃなく普通の馬車に乗ったら寒いわ尻は痛いわ腰は痛いわで大惨事だよ。というか・・・君は何をしてるんだい?」

「出会い頭に年寄りくさい話はやめてもらえますかね?これですか?もちろん奥さん用のレースの穴あきパンツを作ってますけど何か?」

「ハリスは相変わらずだなぁ・・・。帰りにいくつかもらえないかな?」

「履くんですか?」

「妻にプレゼントするんだよ!」


いや、小ネタにそんなオーバーリアクションなツッコミはいらないです。

あとコーネリウス様の奥さんはこれを贈られて果たして喜ぶのだろうか?

うちの奥さんですら半々・・・七三・・・たぶん全員喜ぶな、うん。


「ダリア地区の開発の進捗などは随時報告が行ってるはずですし、今日は何の御用です?ホストクラブなら最初からオーナーはコーネリウス様になってますけど」

「私にあんな店の経営とか出来ないからね!?いや、面倒な来客があったからさ。ハリスにもちゃんと伝えるという体でお昼ごはんを食べに来たんだよ」

「別に食事くらいなら特に用がなくとも気軽にいつでも来ていただいて大丈夫ですが」


どちらかというと他の話を持ってこられる方が迷惑だからね?

面倒な来客と言われて思いつくのは北の方(皇国)と西の方(教国)のふたつ。

俺が関わりたくないと思ってるのと同程度にはこの国の上層部も接触したいとは思っていない国々である。

いや、北の方はすでに国として認めて無いんだけどさ。


「面倒なことに北と西の両方から続けて使者が来てね」

「西はともかく北の方の使者は相手をするだけ無駄なので全員そのまま追い返す手筈になっていたのでは?」

「ああ、そうだったんだけど内乱が起こって国主が変わったらしくてね。担当した人間がどうすればいいか迷ったらしくこっちまでまわしてきたんだよ」


「内乱、ですか?まぁ戦後は王国からも帝国からも何も輸入することが出来なくなりましたし、かなりの食糧不足に陥っているはずですからね。無理な戦争を起こしたことを考えれば今になっての内乱はむしろ遅いくらいじゃないですか?」

「反乱を起こしたのが民ならそうだったんだけどねぇ。新しく帝王になったのは元王の弟らしいんだよね。それも得意げに『我々優秀な皇国人は死者を出さないで皇国の革命を成功させた!』とか使者が偉そうに吹聴してたらしいよ」

「それもう内乱でも革命でもなくただただ腹を空かせた勢いだけの兄弟喧嘩じゃないんですかね?何にしてもそれくらいであの国の何かが変わったとは思えないんですけど?」


「もちろん何も変わってないよ?『新しい国になったんだからお前らは先の戦争の事は忘れろ。むしろ我が国の人民に多大な被害が出たのだからその賠償をしろ。お前の国のせいで困窮している我が国に無償で食料その他を速やかに支援しろ』って感じだね」

「相変わらず斜め下な国だなぁ・・・。慣れてきたのか腹が立つよりも先に笑っちゃいそうなんですけど」

「そんな連中の相手をされされる方は笑い事じゃないんだけどね?まぁこっちは無視して馬鹿の首を落として使節団に持ち帰らせればいいだけだから問題ないんだけどさ」


あいかわらず『盗っ人猛々しい』を国単位で発動させる皇国であった。

ちなみに皇国の国主がどうして『帝王』なのかと言うと数代前の王が「王国が国王で帝国が皇帝ならそれより偉い自分は帝王だ!」とわかるようなわからないようなことを言い出したかららしい。うん、関わり合ったら負けだな。

てかすでに皇国の対応は終わってるんだ?


「で、本題なんだけどね?」

「さっきのが本題ってことで昼飯食ってのんびりしていってほしいなぁ」

「私もそうしたいのはやまやまなんだけどさ・・・」


てことでもう一つの面倒な国、教国の言うことには

「数百年ぶりの国家同士の戦争で勝ったんだ?で、その報告が来てないんだけどどうしてなのかな?えっ?教国が戦争の裏で暗躍していた?ハハッ、そんなことするはずがないだろう?状況証拠がある?そのようなものいくらでも捏造出来るだろうが!ちゃんとした証拠と実行犯を出せ!で、話は変わるがそちらの国で竜退治をした人間がいるらしいな?よし!そいつを聖人認定して王国に居るような偽物ではなく本物の聖女の婿として迎え入れてやるから大至急こちらに向かわせろ。なに、礼など必要ない。そいつは金持ちなんだろう?そいつの全財産をもってこさせればそれで問題はない!」

・・・頭に虫湧いてんのか?


「えっと、皇国と教国のトップは同一人物なんですかね?あとそいつ完全にうちの奥さんをディスってますよね?何なんです?自殺志望者なんです?ちょっと鈍器のようなものを、むしろド◯キの看板のようなものを教国のお空の上からまんべんなくふりかけてきてもいいですかね?のり◯まみたいに」

「まったくの別人だと思うよ?もちろん両方会ったこともないし会いたいとも思わないけど。あとの◯たまって何さ・・・」

「じゃあそいつらふたりともハッピーになるお薬でも常用してるんですかね?何にしても売られた喧嘩は買いましょう」


「そんなものは使ってないと否定しきれないところがなんとも。いや、嫁大好きなハリスからしたら喧嘩を売られてると受け取ってしまうかもしれないけどね?『聖人認定する』というのも『聖女の婿として教国に迎える』というのもあの国からしたら最大の賛辞なんだよ」

「賛辞を送ってきたのなら惨事をもって返しても問題なくないですか?」

「普通に大問題なんだよなぁ・・・」


なんでや!読みも意味合いもだいたいおんなじやろ!


「そもそもそんな見たことも話したこともない相手と結婚とか絶対に無理に決まってるじゃないですか」

「貴族の婚姻なんてそれが普通なんだけどなぁ。ちなみにお相手の聖女様、歳は二十半ばで黒髪黒目の落ち着いた巨にゅ・・・包容力のありそうな美しい女性だよ?」

「とりあえず話を聞くくらいはしてやってもいいかもしれませんね?」

「なんとなくハリスならそう言うんじゃないかと思ってたよ・・・」


いや、冗談はさておきその女性とはまったく会いたくはないんだけどね?

だって『黒髪黒目』だよ?最大級に厄介そうな人物じゃん?

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