北へ南へ編 その17 勇者?それなら俺の隣で

少し話は前後するが同日早朝の商国商会議議事堂。


「この様な早朝よりの呼び出し、一体何のご用ですかね?」


夜明けすぐ商会に届いた商議会の召集。

前日も夜遅くまで会議に参加していた父が体調を崩して自分がいきなり参加させられる事となり、慌てて用意して出向いたもののすでに議事堂には他の商議員全員が集まっており、遅れて登場した自分をじっと見つめていた。


「これはこれは商人タノヴァ、お早いおつきで・・・そしてお父上のルツフィ殿ではなくご子息のラフフィ殿がお越しになるとは。タノヴァ商会はいつの間に代替わりされたのですかな?」

「申し訳ありません、父は朝から体の具合が優れないらしく・・・私が代理で伺いました」

「我々も今回の騒ぎでそれほど元気では無いのですがね」


いきなり先触れもなく自分の様な若者が商国運営の為の重要な会議に参加しようというのだから少しくらいの皮肉や嫌味は覚悟していたのだが・・・議事堂内から向けられる殺気じみた圧力を感じる視線に足を竦める。


「はぁ、どうやらあなたはお父上に生贄にされたようですね」

「いっ、生贄とは穏やかではないですね。商人エトラ、それは一体どのような意味合いのお言葉なのでしょうか?」

「どのようなとは何を今更とぼけたことを!今回の議会の原因は全てタノヴァ商会の責任ではないか!」

「あれだけこれ以上に『ラポーム侯爵を刺激せぬように』と、国内の商人に言い含められていた物をまさか商議員を務める商会が理解しておらぬとはな!」


ラポーム侯爵・・・キルシュバウム王国より使者として少し前に商国にやってきた大貴族。

その目に余る振る舞いに父がよく苦虫を噛み潰す様な顔になっていたが。


「ラポームと言えば入国そうそう歓待が気に入らぬなどと我が国に難癖を付け、この商国を武力で脅そうとしている愚か者でありましょう?」

「痴れ者が!他国であろうと大貴族の方を呼び捨てるとはなんたる不遜か!!」


・・・などと大声を出しているこの連中もラポーム侯爵の入国すぐの会議では似たような扱いをしていたのだが、議会に初参加のラフフィが知る由もなく慌てて謝罪する羽目に。


「申し訳ありません、私の口が過ぎました。しかしこれは何なのです?ご連絡も無しに父の代行としてやってきたこと、皆様方より遅れましたことは誠に恐縮ではありますが、これではまるでタノヴァ商会を責めるために皆様が集まっている様ではありませんか!」

「何を言っているんだお前は?責めるように集まっているのではなく責めるために集まっているに決まっておるだろうが!」

「・・・貴方はもしかして昨日の事を何も聞いていないのですか?一応なりともタノヴァ商会の跡継ぎ・・・いえ、貴方の下には優秀な弟さんがいましたねぇ」

「昨日?一体何があったと?」


『弟』と聞いてカッと耳まで赤くしたがその事には触れず昨日の事を質問する。

どうやら私は本当に何も知らされずここにやってきてしまったらしい。

そこから始まるの全員での説明と言う名の『勇者とタノヴァ商会に向かっての』愚痴の数々。


「なっ、そ、そのようなことが・・・。いえ、しかしそれはラポーム侯爵が勝手に言っている話でありましょう!?それを御家取り潰しの上で全資産の没収などと、その様な馬鹿げた話に納得出来るとお思いですか!!」

「はぁ、あなたはどこまで愚かなのですか?あなたが、あなたの家の商会が納得するかなどどうでもいいことなのですよ。これはお願いではなく商議会からの命令なのですからね。あなたも議会憲章くらい知っているでしょう?」

「し、しかし、そのように一方的な・・・そうだ!私がラポーム侯爵と話をつけてまいります!ですのでしばしお時間をいただきたい!」

「本当に何も聞いていない男だな。ここに議員全員が揃っていてすでにタノヴァ商会に対しての命令は発布されているのだ。それすらも理解出来んのか?」


「お待ちを、しばしお待ちを!私の話を聞いてください!そもそも私はただの代理人!まずは父をここに呼び出してください!」


などと叫ぶがそれを聞き入れられる事はなく、儀仗兵に囲まれ『地下』に連行されてゆくラフフィ。

そしてそれと入れ替わるように警備隊の大隊長が議事堂内まで駆け込んできた。


「注進いたします!ご命令のあったタノヴァ家包囲及び関係者全員の捕縛でありますが――」


―・―・―・―・―


自国で飼っている『勇者(テロリスト)』による王国貴族の暗殺未遂事件と言う前代未聞の不祥事を晒してしまった商国。

まぁその暗殺未遂も成功さえしていれば王国第二王子が上手くごまかして処置できたのかもしれな・・・いや、仮に王家がそれでなっとくしたとしても王国に残ってるうちの奥さんが間違いなく実家もろとも反乱を起こしたと思うけどさ。

内乱待ったなしである。


そもそもその勇者(おバカ)自身にはそんな騒ぎを起こすような気は無かったみたいなんだけどね?

年齢的には俺(あどけない少年・15歳)と同い年(勇者じゃがいも・15歳)』らしいしさ。

あいつ、フケ顔だから見た目年齢だけなら普通に姉(目立たない17歳)より年上に見えるもん。

事の重大性と命の危険を感じて亡命して来たのはちょっと予想外だけどそれほどの問題はないだろう。


アリシアと相談して最悪帰りの船旅で白い人と一緒に適当な無人島に捨ててくればいい・・・いや、白い人はそれでいいけどこの二人は色々と他所で使われたくないスキルとか持ってるしなぁ。


「・・・後腐れなく殺っとくか」

「ど、どうか、どうかお許しを閣下!!」


俺の目の前で慌てて頭を下げて額を机に打ち付ける・・・お姉さんのところの爺さん。


「ああ、違う違う、卿に対しての言葉ではないから気にするな」

「はい、ありがとうございます!・・・いえ、それはそれでまた物凄く気がかりではあるのですが」


朝からおバカの相手をしてそこそこ疲労感と言うか徒労感を感じていたところ、早々に今回の騒ぎの張本人であるタノヴァ商会の財産没収及び一族郎党の処理があらかた完了したという報告にきたと言う。

もちろん張本人は『勇者様御一行』なんだけどね?管理責任と言うか連帯責任と言うか連帯保証人と言うか。

みんなも絶対に他人の、むしろ身内であろうとも借金の保証人とかしちゃ駄目だかね?


「合議制などと言う冗長なモノをとっているにしては素早い動きだな?」

「商国といたしましても此度の不祥事を重く受け止めておりますれば・・・それでも対応が遅れましたようでタノヴァ商会の長男までは捕らえたのですが商会長とその次男、勇者とその従者には潜伏されてしまいました。只今草の根分けて探索しております」


それって全然『処理の完了』してなくないか?


「ふむ・・・商国の治安対応とはその程度か。ああ、勇者に関してはすでにこちらで確保しているから気にするな。逃げた商会長と次男に集中すると良い」

「なんと!?さすが侯爵様、そのお見事なご手腕に感服つかまつりました。それに比べまして我々の不手際誠に不甲斐なく・・・。その件と関連いたしまして、タノヴァ商会の二名が捕縛されるまでは予定していた閣下の歓迎の宴を延期いたしたく」

「確かに追い詰められた鼠は何をしてくるか解らぬものな?しかしこうも思わないか?わざわざ探さずともあちらから出てきてくれるのなら余計な手間がはぶけると」

「し、しかし!それでもしも閣下にお怪我などございましたら!」


責任を取らないといけなくなりますので勘弁してくださいって?

『責任者って言うのはですね、責任を取る人の事を言うんですよ』って日本の元総理の息子さんが言いそうな名言(たわごと)が頭に浮かんだが馬鹿にされそうなので心の中にしまっておく。

今度貿易用の荷物を詰めるための箱を有料化してみようかな?

駄目だ、だってみんな『箱代?まぁ取られるだろうな』で納得しちゃうだけでツッコミが入りそうにない。むしろ『その手があったか!』ってみんな真似する。


てなわけで(?)『歓迎レセプション饗応ウエルカムおもてなしパーティ』はそのままその日の夜に開かれることが決定した。

てかなんだその頭の悪そうなパーティ・・・。

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