北へ南へ編 その16 勇者は仲間になりたそうにこっちを見ている

朝、と言うか早朝。時間で言うと六時くらい?庭の掃除に出ていたCさんが門扉をコツコツと叩く音に気付きどうすればよいかと聞きに来たのでメルティスに確認に行ってもらったところ、泥まみれのじゃがいも・・・ではなく小汚い勇者を発見する。

なんなのこいつ?まったく嬉しくない即落ち二コマなの?

どうやら昨日の夜中から外堀の中で寝ていたらしい。任務中の忍者か。


「とりあえず捨ててきなさい」

「お待ちを!侯爵様、昨日はこの馬鹿が大変失礼をいたしました!これこのように本人にも十分に反省をさせておりますれば・・・私だけで結構ですので保護していただけませんでしょうか?」

「ねぇちゃん!?」


何だろうこの見覚えのある小芝居。どこか近しいところで何度も・・・ああ、あれだ!妹が弟になってるけどこれ、ダーク姉妹の感じのやつだ!

てかこの二人って姉弟だったんだ?いや、仮に恋人同士だったとしてもなんの興味も無いからどうでもいい話なんだけどさ。

昨日とは違いシュンとなった、というよりも俺の隣に立つサーラに萎縮して小さくなっている新ジャガに目を向ける。


なんて言うかこう・・・昔の自分、異世界に呼び出された、いや、力づくで拉致されたあのころの俺を見ている・・・なんてことはないな。

俺、『あの世界の常識』に則ってちゃんと動いてたもん。

それが偏った常識、間違った常識だと気付くまではさ。

もしかしてこの二人も無理やりこの世界に連れてこられて、そして良いように使われてたなんて一面もあったのかもしれないな・・・。


「はぁ・・・話くらいは聞いてやるからとりあえずその小汚い格好をどうにかしろ。Cさ・・・クロエ、私は用があるから中庭左手の空き部屋で何か軽いものでも食べさせてやれ」

「畏まりました旦那様」

「ねぇちゃん!すげぇ・・・本物、本物のメイドさんだよ!タノヴァさん家にいたなんちゃってメイドじゃなく本物の貴族様に仕える綺麗なメイドさんだよ!ツーショットで写真とか撮ってもらおうと思ったらいくらくらい掛かるんだろ?」

「そもそも金銭を支払って一緒に写真を撮ってくれるのは本物のメイドさんじゃないのよ!あんたはもう口を開くな!いいわね?これから一言でも喋ったらここん家の庭の種芋にするからね!」


おい、人の屋敷で不気味なモノを栽培しようとするんじゃない!

ちなみに俺の用と言うのは二人を通した空き部屋の隣に風呂を用意してやることである。この屋敷、空き部屋ばっかだからね?

今日は武器は腰に挿してないけど二人とも『マジックボックス』なんてスキルを持ってるから家族スペースには通したくないしね?

朝食にはヘンなモノ(日本で食べられている様なモノ)を出して余計な事を勘ぐられると面倒なのでタマゴサンドと紅茶を出したんだけど・・・アレってマヨネーズ使ってたんだよね。

配膳したCさんには特に何の質問もなかったみたいだから商国でも似たモノがあるのか、それともちょっとは成長して『三猿』状態なのか。姉の方は頭が良さそうって言うかちょっとスレた感じだしね?

何にしても口は災いの元なのだ。


「ねぇちゃん、このタマゴサンド泣きそうになるほど旨いんだけど!?おかわりとか出来ないかな?あとメイドさんにケチャップでハートマークとか描いてもらえないかな?ねぇちゃんの一つ貰ってもいい?」

「わたしのタマゴサンドに手を出したら殺すわよ?あとホントに侯爵様の前では一切喋らないで。失礼どうこうじゃなく、とんでもない逆鱗に触れちゃうかもしれないから。いい?冗談とかじゃないんだからね?何かあったら遠慮なく切り捨てるからね?」

「むしろ何もなくとも切り捨てようとしてるじゃん・・・あ、食べ終わったら隣の部屋で風呂に入れって言ってたよね?昔みたいに、久しぶりに二人で入ろうよ!」

「あんたと二人で入浴した過去なんて一度もないわよ!そもそもお義母さんと父さんが再婚したのは日本で生活してた頃でたった半年前なんだから昔って言うほどの付き合いすらないわよ!むしろこっちで一緒に生活してる期間のほうがずいぶん長くなったわよ!」



二人の入浴後、自分たちも朝食を済ませた後二人を昨日も通した応接室に通す。

もちろん泥まみれの服は着替えさせて。


「侯爵様、保護していただいた上にお食事、それにお風呂までご用意いただきまして誠にありがとうございます。この様なお洋服まで頂けるなんて・・・」

「ああ、勇者とか名乗っていたからな、その衣装にも何か意味があるのかと思い手持ちの衣装で似たような物を用意させてもらったがどうだ?」

「はい!今まで着ていた物より数倍、数十倍も着心地が良く。このような物をいただいたお礼、私に差し出せるものなど私自身しか無くて」

「はは、頭のオカシイ少年に絡まれることがあろうと、これでも王国の貴族だからな。その程度のモノで礼を取ろうとは思ってはおらんよ。それに話を聞いてやるとは口にしたが保護してやると言った覚えはないのだがな?」


姉の方には黒い制服に似た衣装を、弟の方には黒い外套・・・ではなく穴を開けた黒い袋を置いておいた。

なんだろう、分厚い本で見たことあるな、この袋から手足だけ突き出した感じの奴。

『保護してやると言った覚えはない』の一言に姉の表情が一段と引き締まる。

・・・帝国から皇女に付いてきた地味子、屋敷でちゃんと行儀見習いしてるかな?


「これは失礼致しました。もちろん私、私達もただでお世話になろうなんて図々しい事など思ってはおりません。そう・・・ですね、もしもお時間ございましたら私たちの出自、この国にきた経緯からご説明させてはいただけませんでしょうか?」


そこから始まるのは転移の話。想像通りこの二人も元日本人らしい。てか転移方法。


道路を高速で走っていたトラックに姉が轢かれ・・・そうになったので弟が助けようとして・・・引っ張ったら後ろにひっくり返って・・・気付いたら商国の港に立っていたらしい。

ちなみにトラックは信号でちゃんと停止したみたいだから何の関係もないし、ひっくり返った時に歩道の段差などで頭を強打したなんてこともないらしく。


「そういえばひっくり返ったときに後ろに立ってた物凄い美人のお姉さんが青白く光ってた気がする・・・ます!」


うん、たぶん間違いなくそいつに巻き込まれただけだわ。

あと弟が口を開く度に姉が鬼の形相で睨みつけていた。


「ふむ・・・いや、しかし港に立っている所を発見されただけでは勇者などと呼ばれることはないだろう?」

「その時ちょうど巡回していた兵隊さんに職質されちゃいまして・・・わたしの腕を掴んで連れて行こうとするその人達相手に弟が大立ち回りを」


それ、勇者じゃなくてただの破落戸だよね?

まぁその後タノヴァ商会で保護されて自分たちは地球人、異世界人だと伝えて地球の科学を伝えたところ昔王国の建国時に現れた勇者と同じ存在ではないか?と言う話になったらしい。


「なるほど、ところでその科学?とやらで何が出来るのだ?」

「はい、私達が教えたのは『火縄銃』と『火薬』・・・高速で鉛の弾を飛ばすための筒とそれを飛ばすための破裂薬でございます」


うん、まぁ予想通り、予想通りなんだけど・・・もし量産されてたらちょっとだけ面倒くさいな。てかお前ら、異世界にきたらとりあえずリバーシと手押しポンプだろうが!鉄砲はもっとこう悩んだ末に出すやつだろうが!ちゃんと順番とか守れよ!

まぁ俺とか黒竜鎧を着込んでるメルティスやサーラにはまったく危険もない程度のモノなんだけどさ。

何にしても大至急他の奥さんや身内全員に弾丸くらいは止められる程度の防壁の魔道具を配っておかないといけないな。


「鉛の弾を飛ばす飛び道具か。似たような魔道具なら私も持っているので大体の理解は出来るが・・・まったく、余計な手間を・・・。それらはもう商国内では試作、生産に入っているのか?」

「も、申し訳ございません!・・・おおよその作り方を伝えたのが一年ほど前になりますので・・・おそらくは」

「なるほど。・・・もしかして二人は殿下、王国の第二王子とも面識が?」

「はい。と言っても顔合わせ程度ですが」


王国建国時に現れたと言う勇者との出会い。

そして見たこともない新兵器。似たような魔道具は昔からあるんだよ?量産がきかないからあんまり使われた形跡は無いけど。

第二王子と商国がそれに掛けて見ようと思うのも仕方のないことなのかなぁ。


―・―・―・―・―


新作始めました~♪異世界モノでコロニー建設系作品になります!


異世界に学校ごと集団転移させられた納入業者のおっさん、なんだかんだで元気に村作りしてます。

https://kakuyomu.jp/works/16817139558970734732

よろしければチラ見だけでもm(_ _)m

いや、現在は前半の更に前半部分で村作り要素皆無だったりしますが・・・。

てか自分の作品の主人公はどうしてみんな『草むしり』スタートなんだろう(笑)

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