北へ南へ編 閑話 その頃の勇者一行

「ねぇちゃん、頭、俺の頭が・・・」

「うるさいわね!スースーするくらい我慢しなさいよ!」

「いや、スースーだけじゃなくてズキズキとかチクチクもしてるんだよ!てか普通に血!血が流れてるんだからヒールしてくれよヒール!これ大丈夫なの?傷口が全部○ゲたりしない?」


サーラの手により侯爵邸から少し離れた路上で全裸磔にされていた勇者(『小さいです』看板付き)の少年であるが夕方まで近隣・・・だけではなくそれなりに遠くから来た見物人にも笑いものにされた後、ハフィダーザの「閣下がとっとと帰れとおっしゃっているのでご自分でその『丁字架』を片付けて帰ってくださいね?」の一声で無事放免となり世話になっている屋敷に帰宅・・・したのだが屋敷内がやたらと騒がしく、なにやら殺気をようなものまで感じたので慌てて身の回りの品と飾られていた装飾品貴重品家具などを『アイテムボックス』に仕舞い込んで姿を隠して逃走。街の外れにある宿屋に潜伏していた。


頭?反省のために丸刈りならぬ丸剃りにされたらしい。まぁナイフで頭を剃ればプロでもない限り傷まみれになるのは仕方のないこと・・・なのかもしれない。

あと他人の家からモノを持ち出すのはどこの世界でも犯罪だと思うのだが勇者がタンスを物色したり部屋の中の壺や箱を壊して回るのは勇者として生まれたための性であるから仕方がないこと・・・で済まない気もする。


「てかなんだよアレ!あの黒い鎧!掌とか腕とか足首とか丸太に釘で打ち付けてぶら下げるとか頭オカシイだろ!?縄でくくりつけるとかでいいだろうがよ!!俺じゃなくて普通の人間なら絶対に死んでるぞ!?てかそれよりも『小さい』って何だよ『小さい』って!普通だわ!むしろ年齢のわりには頑張ってる方だわ!」

「あんたはただの自業自得でしょうが!あんたのせいでわたしまで殺されかけたのよ!?何なのよあの何の感情もない『そこの女ともども細切れにいたしますか?』って声!あんな厳つい鎧なのに中身女の子ってどう言う事?恐怖でちょっと漏らしちゃったわよ!」

「えっ・・・ねぇちゃん漏らしたの?」

「どうしてあんたは薄ら笑いを浮かべながら興奮してるのよ。まじこいつ死ねばいいのに・・・」

「だ、だってねぇちゃんが漏らしたとか言うから・・・」


どうやら勇者、そっち方面の性癖があるらしい。

そしてそんな二人であるのだが


「はぁ、そもそもあんたね!わたしがあれだけ何度も『目上の人にはちゃんとした敬語を使いなさい』って釘を刺してたのに何なのさあの態度は!」

「だ、だってあいつ俺より年下だったじゃん!それに俺らってこの国では国会議員くらい偉い扱いだったんだろ?だったら他所の国の子供にへーこらする必要なんて全然ないじゃん!」


勇者――月見里剣(やまなしつるぎ、やまなしけんではない)――のあまりにも何も理解していない、物を考えていないいいぐさにため息をつくどころか今にも倒れそうな目眩を覚える月見里真利杏。

そう、勇者とそれに付きそう恋人の様に見えなくもなかったこの二人であるが同じ苗字、つまり姉弟だったりする。


「てか何なんだよあの黒いおっかない鎧!あれ、絶対に中身悪魔かなんかだろ!?どうして殴りかかってきただけで俺を簡単に気絶させたり出来んだよ!俺、この国最強の男じゃなかったのかよ!」

「もしもあんたがこの国最強だったとしてもあの人達は他所の国の人なのよ!それをあんた『街なかで見かけた車に似た乗り物が見たい、港で見かけた宇宙戦艦みたいな艦に乗りたい』なんて最近の小学生でも言わないような意味の分からないことを口走って侯爵様のお屋敷に突撃した挙げ句あの物言い、それだけならまだしもお貴族様の前で剣を抜くとか・・・ほんっとに頭オカシイんじゃないの!?」


「だ、だってこの国の人間ってあの赤い剣を見せれば物凄く嬉しそうにしてたじゃんかよ!てか赤い剣!どうして殴られた程度で折れちゃうんだよ!あれって国宝?的な剣だったはずなのに!やっぱあの黒い鎧の中身は悪魔だとしか考えられねぇよ!あとあいつ、俺がちょっとだけいいなって思ってたトゥニャサお姉ちゃんのこと口説いてるんだろ!?いや、もちろん俺が一番好きなのはねぇちゃんだけどさ・・・」

「とりあえず鳥肌とか蕁麻疹が出来るからそのシスコン思考どうにかしなさいよ!!言っておくけどアレよ?異世界だからとか義理の姉弟だからとかそんな理由で私があんたに心を開くとか股を開くとか思ってたら大間違いなんだからね?あんた、自分の顔鏡で見たことないの?ちょっとブサイクなじゃがいもだからね?だいたいそのコスプレ衣装も最初から気に入らなかったのよ!このクソ暑い地域で黒のロングコートとか汗かいてまで着込んでる人間なんてみたことないでしょ!?」


「一度は着てみたかったんだからいいじゃんかよ!あと俺はシスコンじゃねぇよ!た、ただ、す、好きになった人がねぇちゃんだったってだけで・・・あと丸顔だけど昔は可愛い顔って言われてたんだよ!じゃがいもじゃねぇよ!てかじゃがいも時点でぶさいくなのにさらに追加でぶさいく言う必要ないだろう!」

「あんたのその思考が気持ち悪いのよ!わたしも弟が出来るって聞いた時は喜んだわよ!お義母さん美人だしさ!なのに出てきたのは芋よ芋!なんなのよあんた!()カッコつけたら顔文字じゃない(芋よ芋)!あとあんたを可愛いなんて言うトチ狂った人間はあんたを猫可愛がりしてたおばあちゃんだけよ!」

「ねえちゃんが何をいってんだかわからないよ!あと(芋よ芋)はどう頑張った所で顔には見えないよ!あとばぁちゃんの悪口はやめろよ!死んだって受け取られそうな言い方もやめろよ!二世帯住宅で元気に暮らしてるんだから!」


訳の分からない口喧嘩をしていた。


「て言うか今はそんなどうでもいい話をしてるときじゃないのよ。あんた、今の自分の置かれてる立場わかってる?物凄いやらかしちゃった上に勇者力(笑)もまったく役に立たないってバレちゃったのよ?あのお屋敷の雰囲気からしても良くて追放、悪くて死刑よ?あんたは」

「俺だけかよ!ねぇちゃんはどうなんだよ!」

「わたし?わたしはほら・・・侯爵様がどうにかしてくれるわよ」

「あいつねぇちゃんのこと見て『うわぁ・・・』みたいな反応しかしてなかったじゃん!どうしてそんな夢見てんだよ!」


「あれよ?侯爵様、いえここはあえてハリスたんって呼ばせていただくけどあんな可愛い金髪ショタ顔なのに下半身事情は凄いらしいわよ?」

「そんな情報しらねぇよ!てかねぇちゃんは他所の国の貴族の情報なんてどっから仕入れたんだよ!あとそんな男には絶対にねぇちゃんを任せられねぇよ!」

「あんたも観たことあるでしょうが!この街で流行ってる演劇!あとわたしが恋人を選ぶのにあんたの許可なんて要らないのよ!」

「そんなのただの創作物じゃねぇかよ!そもそも俺の許可じゃなく相手の許可すら出てないんだけどな!」


「だからほら、日本でもだいたい七十五点評価だったわたしは受け入れてもらえると思うのよね」

「いきなり冷静になるなよ・・・てかどうしてその点数でそこまで自信持っちゃってるんだよ・・・で、でもあれだぞ?俺の中でねぇちゃんはブッチギリの百点満点だからな?」

「わたしの中であんたは家族サービス分の加点・・・いえ、家族分は加点じゃなく減点にしかなってないから三十五点なんだけどね。てことでわたしは今から侯爵様のお屋敷に向かうことにするからここで解散で。あんたは強く生き・・・せめて悔いなく死ぬのよ?」

「やだよ!こんなわけのわかんない異世界で一人ぼっちとか絶対になりたくないよ!あとどうしてねぇちゃん一人だけ助かろうとしてんだよ!家族なんだから俺も連れていけばいいじゃんかよ!おい、マジでドアの隙間から手を振ってんじゃねぇよ!」


夜中に宿を出た勇者一行が再度ハリスと出会うのは翌日の夜明けになるのであった。


―・―・―・―・―


勇者(老け顔)とマリアンちゃんが姉弟と言う驚愕の事実!!・・・誰か興味あるのかこれ・・・(笑)

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