北へ南へ編 その14 お船の女神様

商国の商人(一部他所の国の商人)をそれなり以上に威圧した後は歓待の宴・・・そうだね、飴と鞭だね!

もちろん残ってるのはお姉さんと爺さんだけなんだけどさ。決して俺がお姉さんとお昼ごはんをとりたかっただけじゃないんだからねっ!

そう、これも大切な外交活動と離間工作の一環なのだ!


てことで不要な来客を全員追い返した後でサーラとメルティスにもドレスを着せて全員を大食堂に集めてお昼ごはんなのである。

すでにお昼過ぎでそこまで調理時間の猶予も無かったから作り置きしてあった飲茶色々をお皿と蒸篭に盛っていくだけの簡単なお仕事。

今回はちゃんとフカヒレ餃子ともち米の揚餃子もあるからな!


「お、今日はやんちゃバイキングじゃの!」

「なんだそのわんぱくそうな海賊は。飲茶バイキングな。いや、そもそもブッフェじゃねぇ・・・おかわり自由なんだから間違ってもいないのか?」

「これはハリスが帝国に来た時も食べさせてくれた料理だな!あの時よりも品数がえらく多い気がするが」


「用意できる食材の都合もありましたからね?今回はエルドベーレで仕入れも出来ましたし」

「変わった形の・・・スライム?」

「体内に海老を取り込んだスライムに見えるかも知れないけどただの海老の水晶餃子だからな?そしてスライムはおそらく食い物では無いんじゃ・・・もしかして皇国では食ってるのか?てか丸い形のスライムとかいるんだ?」


俺が見たことがあるスライムはゲル状だったんだけど。


「ふふん、黒いのと白いのとは違い妾は館で食べ慣れておるから・・・ハリス、この揚げた丸いのはなんだ?ほの甘い外皮と甘辛い具材が素晴らしいな!」

「ふふっ、そうだろうそうだろう、ソレこそ俺が求めてやまなかった最高の飲茶、もち米の揚餃子だ!」

「閣下!熱いです!とても熱いです!」


「いや、小籠包は蛇が卵を丸呑みするみたいに一口で食べるものじゃないからね?ちゃんとすみっこを齧って先に中のスープをチュウチュウしなさい」

「チュウチュウ・・・」

「なんですかその可愛らしい擬音を発しながら両手でスプーンをささえて食べる姿は!?メルさんはたまにとてもあざといと思います!」


「うう・・・私も、私も食べたい・・・」

「あなたはメイドとしての自覚をもっと持ちなさい」


相変わらず賑やかに食卓を囲む奥さんその他と今にもよだれを垂らしそうなAさんにそれをたしなめるCさん。ちゃんと二人の分も用意してあるから今はちゃんとお仕事してね?俺は別に一緒でもかまわないんだけど今日は他所の人も居るからね?

それに対して商国の三人はとても静か・・・ではあるんだけどハフィダーザはごく自然な感じで旨さに口元を綻ばせて、サラサールじいさんはうちの奥さんが並んだところで機能停止、トゥニャサは表情の抜けた顔で何やらブツブツと呟いている。


「どうかしたかな?そちらの二人は手が止まっている様だが。心配せずとも毒など入ってはいないぞ?毒殺するメリットなど無いからね?」

「閣下・・・閣下にはその様に若くて美しい奥様がいっぱいいらっしゃったのですね・・・それなのに私ったら、この様な年増でも、もしかすれば閣下のお側に置いて頂ける事があるかもなどと図々しい勘違いを・・・このまま消えてなくなりたい・・・むしろいっそ閣下の手にかかって・・・」

「何をおっしゃっているのですか美しい人。貴女がいなくなってしまってはこの国から、いや、この世界から色が一つ消えてしまうではありませんか!」

「主の年上好きは本当にブレんのう・・・」


確かにうちの奥さんは可愛い、三人・・・じゃなく四人ともとても可愛い。もちろん一人は妹、むしろ娘的な可愛さだけど本人に言うと拗ねるので言わない。

お姉さんの声で立ち直ったのか続いてじいさんやっと口を開く。


「そ、そちらの美しい女性は声からすると先程の黒い鎧の方々でありますかな?」

「ああ、そうだぞ?そういえば紹介がまだであったな。白いドレスを纏っているお嬢様・・・お嬢様?が皇国の白雪(笑)セルティナ嬢、黒いドレスのお嬢様が帝国の黒薔薇スティアーシャ殿下、赤いドレスが私の妃でもある王国の赤い魔神アリシアである」

「ハリス、妾は『王国の紅玉』だからな!?だいたいその魔神と言うのはどこから出てきたのだ!」

「こ、これはこれは・・・知らぬこととは言え三殿下には大変なご無礼を!」


慌てて立ち上がり頭を下げるじいさん。


「こちらが招いた食事中だ、そこまで気にする必要はない」


立ってつばとか飛ばされると迷惑だからとっとと座ってて?


「そ、それではお隣のお小さい姫様は閣下の妹君でありましょうか?」

「違うのだ、我はミヅキ、まぁなんじゃ、世間一般で言う所のこやつの正妻じゃな」

「せ、正妻様!?そんなにお若いのにすでにお輿入れ済み!?」


じいさんが座ったと思ったら今度はお姉さんの方が立ち上がった。

ここの家族、落ち着き無さすぎじゃないかな?立ち上がる時のスピードが黒ひ○危機一髪で飛び出す時の速さなんだけど?


「まぁいろいろとありましてね。ああ、トゥニャサ嬢は午後から何かご予定はお有りかな?良ければ私の艦の案内などして差し上げたいのだがいかがだろうか?」

「はい、閣下のお誘いとあらばもちろん否はございませんが・・・でもよろしいのでしょうか?軍船には女性(にょしょう)を乗せてはならぬと小さき頃より聞き及んでおりますが・・・お船の女神様が機嫌を損なわれるとか」

「フフっ、我が軍の軍艦はその様な迷信ごときで沈む様なやわな艦ではありませんよ。そもそもあの艦はアリシア王女の名を冠している、つまりアリシア王女こそがあの艦の女神と言うことになりますからね?我が妻が他の女性が乗艦したくらいでやきもちを焼くような小さな女だとでも思われますか?」


隣からこちらに向かい頬を膨らましたアリシアが小さく「もちろん盛大に焼くぞ?でも妾がハリスの女神と言うのはとてもいいな!」とか言ってる声が聞こえているが気にしてはいけない。

もちろんお姉さんとクルージングもしたいんだけどね?今回の本命は


「もちろんお一人では不安でしょうしご一緒に祖父君もいかがです?」

「よ、よろしいのですかな!?王国の最新鋭船に私のような者が乗せていただいても!?あとご質問してよい話なのかはわからぬのですが閣下がこちらまで乗ってこられた赤い軍船が港でいきなり消えたなどと言う報告が・・・」

「はは、艦が消えるはずがないでしょう?ちゃんとしまってますよ」

「しまう・・・軍船をしまうとは一体どこに・・・」


そう、爺さんの方なのである。

銀河○国・・・ではなくキルシュバウム王国の戦力をその目でとくと堪能していただこう。


てことで王国でも行った試乗会――商国ではお姉さんと爺さんとハフィダーザだけであるのだが――港で何もないところから艦を出した所でお姉さんに吃驚され、転移で艦内に移動した所で爺さんに意識を失いかけられ、出港後に最大船速にしたところで船酔いしたハフィダーザが真っ青な顔になり、主砲の試射で全員が微動だにしなくなったと言う。


反応的には王国上層部とそれほどの変化はなかった感じだな!

特に主砲の試射に関しては港の高台からでも見える距離、商国の船が十数艘見学に出てきてから近距離から遠距離まで五斉射ほど行ったので十分な効果があったんじゃないかな?

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