北へ南へ編 閑話 商人の孫娘と他国の貴族様 その2
「ふむ、何というか白い砂の上に浮かんだ敷石の灰色が海の中に浮かぶ小島のよう・・・いや待て、白い砂の向こうの景色、もしかしてあれは商国の海岸線の地図ではないのか!?そしてそこに立つオブジェ、三角形の置物は街の位置、さらにオブジェの大きさで街の規模まで表している・・・。ということは白い砂の上に点在する石はやはり島なのか!?これは、この様な地図を一体どうやって・・・」
あら、どうやらお祖父様も私と同じ感想のようですね。
お庭に世界を造ってしまわれるとは・・・やはり本物の貴族様は私達のような商家の人間とは発想が違われますわね!侯爵様、一体どんな方なのでしょうか?今までどんな殿方にお会いしても感じることのなかったワクワクした気持ちが浮かんでまいります。
そしてお庭、砂の海に気を取られていましたが視線を逸らせて外壁に目を向けると陽があたっているにも関わらずその光にも負けないだけの明るさの、それでいて眩しくて目を閉じたりしなくても平気な不思議な光が等間隔に並んでおります。
「お祖父様、あの壁の上部に等間隔に埋め込まれて覆いを付けられてそれでもお庭を照らす光を放っているのは魔道具なのでしょうか?私の知っている魔道具とはあきらかに光の強さが違うのですが」
「今はそんな物のことな・・・ど・・・なんだと!?あれ、あれは・・・光の魔水晶ではないのか!?」
先に注意されていたのに壁に向かい駆け出そうとするお祖父様、しかしその足は敷石から外に出た途端、白い砂にズブズブと飲み込まれて・・・慌ててお祖父様を引っ張りその体を敷石の上に呼び戻しましたがその反動で座り込み、お尻を思い切りぶつけてしましました・・・。
何なのでしょう?どうみても普通の砂ですのに、下はお池にでもなっているのでしょうか?気になって確認したお祖父様の足は特に濡れてはいないようなのですが。
先程の少女は特に何事もなく砂の上を歩いておりましたし、これが『警護魔法』というものなのでしょうか?
「商国の地図、白い砂で表した海、そしてそこに浮かぶ敷石。そうか、なるほど、これは入国すぐに海上の『迎賓室』に案内しようとした我らに対する意趣返しだったのか・・・。一言も口に出すことも無く、そして何一つ礼を失してはおらぬのに『お前らの思惑など全て見通しているぞ』と言わんばかりのこの出迎え。本物の大貴族と言うのはここまでのものなのか?勝てぬ、為政者のフリをしたところで悪巧みしか出来ぬ、ただの商人上がりの我らではとても勝てぬ・・・」
青ざめた顔でお祖父様がなにやらブツブツとつぶやかれていますがどうなさったのでしょう?
・・・とりあえずお祖父様が先に粗相をしてくださったおかげで私が走り出して砂に沈まずに済んだことにほっとします。
「そしてあの壁に埋め込まれた光。もしや魔水晶、それも光の魔水晶なのではないのか?あれが本当に魔水晶なのだとしたらいったいどれほどの金額になるのか想像もつかん。つまり軍事力は言うに及ばず政治力、そして経済力まで何一つ勝てるものが無いということだ。そして商国はそんな相手を怒らせたかもしれぬと。早急に戻って議会を開いて報告せねば・・・しかしここで顔も見せずに帰るのはあまりにも失礼にあたる」
お祖父様、そうやってぶつぶつと独り言をつぶやいているとそのへんのお年寄りにしか見えませんわよ?あと後ろがつまってきておりますのでそろそろ前に進まないと他の方にご迷惑です。
外周、お庭、そして目の前のお屋敷とすでにお腹いっぱい、出来れば一日中細部まで観察したいところではありますがお屋敷の前に立つ先ほどとは違う女の子、こちらもとても愛らしい少女に促されお屋敷の内庭へ。
・・・いえ、これは本当に内庭と言って良いのでしょうか?
だってお庭なのに屋根があるのですもの。そう、それも透き通った、曇り一つ無い透明なガラスが天井を覆っているのですもの!
そしてその天上の真ん中には宝石を散りばめた様にキラキラと光り輝く大きな、とても大きな吊り照明!あまりのことに声も出ず、目を大きく見開いて見上げた姿そのままに立ち尽くしてしまいましたが先程の少女に声をかけられなんとか意識をこちらに戻せました。
「いらっしゃいませ!お飲み物はいかがでしょうか?あちらのテーブルには果物もご用意しておりますのでご自由におとりくださいませ」
差し出された、真っ赤なしきものが敷かれた磨き抜かれた銀色のお盆の上に載った、一つ一つが王様に贈る献上品の様なガラス製のグラス、そしてそこに入った透明な液体・・・お水、では無いわよね?プチプチと細かな泡が弾けていますし。そして浮かんでいるのは氷なのかしら?
お礼を言いながらそのグラスを手に取り口を付けます。
「まぁ・・・何なのでしょうこれは・・・冷たくて甘くて体を駆け抜けるような爽快な香りまで・・・」
やはり成り上がり者の商人などとは立っている場所が違うのでしょうね。配られる飲み物だけでこの驚き、こうなってくるとあちらの果物、どちらかと言えば見慣れたそれほど高級なものでもない果実の方も気になって仕方がありません!
そう、とても!気になってしまうのですが!それよりもさり気なく飾られた彫像、いえ、女神像です!同じものは一つもなく、すべて違う方のようなのですが全ての像から漂う跪きたくなる様な神聖な気品、そして美しさ・・・。
ああ・・・果物が先か、それとも女神像を見せて頂くのが先か・・・我慢できそうにありませんので先に果物を頂きましょう。
お祖父様もそちらに向かうようですしね?そう、決して私の食い意地が張っているとかではないのですよ?
「なんだこれは・・・珍しくもない、庶民でも買える様な果実であるはずなのに体験したことのないこの味は・・・いや、待て、何かが、何かがおかしくは無いだろうか?・・・そうか!季節、そう、季節だ!ここに並んでいる果実、それぞれ実がなる季節が違うはず!なのにどうして完璧な食べ頃の状況で並んでいるのだ!?」
むぐむぐむぐむぐむぐむぐ・・・何でしょう?やたらと案内してくれた女の子の視線を感じる気がしますが・・・それにしても本当に凄いですねこの果物!どれ一つ取っても甘さ、酸味、香りのバランスが最高の状態なのですから!
ああ!その瓜は後で食べようと狙っておりましたのにっ!まだ残っていますのにお皿を下げるのはお待ちにっ・・・あら、お皿を下げるのではなく新しいお皿と交換するだけなのですね?いえ、何でもございませんのでお気になさらず。
先ほどとは違う意味での無言状態、皆が黙々と果物を口に入れるという不思議な状況の中、しばらくして現れたのは先程の黒い騎士様、それもお二人も!その後ろにはこちらも黒い衣装を身につけられた・・・あの方が侯爵様なのでしょうか?
その方の登場にその場に居た全員がさも当然というふうに膝を付き頭をたれます。
拝見したそのお顔・・・思っていた年配の方ではなくお若い、どう見ても私よりもお若い方。
少し中性的な凛々しい、お美しい、お可愛いお顔のお方。
何度か役者の方で美形だと噂された方を見たこともありますがその様な人たちとは比べ物にならないような、そう、まるで光の精霊様が顕現なされたような光り輝く美しさ、そして愛らしさ。
ああ、今、今私の方を見て微笑んでくださいましたよね!
何でしょう、何なのでしょうかこの胸の高鳴りは!
「お祖父様、今までありがとうございました。私、あの方のお側に侍るために今まで生きてきたのですね」
「わけのわからないことを口走ってないでお前も膝をついて頭を下げなさい!!」
・・・あら、私・・・どうやらあまりのことに体が固まってそのまま立ち尽くしてしまってたみたいです・・・。
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女の子はいくつになっても恋する乙女なんだからねっ!の巻でした(笑)
そして光の精霊様、ご本人(?)を見たことのない人からは小熊ちゃんではなく美少年だと思われているという。これにはハリスも苦笑い・・・。
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