北へ南へ編 その4 プリンセス・アリシア号、発進せよ(後編)

「ハリス、この船はどの程度の速度が出ているのだ?」

「そうですね、だいたい魔導馬車でのんびりと走っている程度しょうか?人間だと全速力でがむしゃらになって走ってる速度ですね」

「・・・良くわからんが何となく早いような気もするな」

「いやいやいやいや!!このような速度で疾走する船など世界中のどこにもありませんぞ!?」


まぁ普段船に乗らない人にはまったくわからないよね、船の速さって。

車じゃないから近くに目印になる様な対象物が無い上に船自体もそこそこの大きさがあるし、この艦は全体的に密閉されてるから風にもさらされないし外の音もそれほど聞こえないし。


港からの距離もそれなりに離れたし、そろそろ巡航速度から最高速度に切り替えてみるかな?


「続いて翼走準備」

「翼走準備了解!速度、10ノットまで減速後翼走体勢に移行します!」

「聞き慣れぬ言葉だが『よくそう』とはなんなのだ?」

「おそらく風呂では無いことだけは確かでしょうな」


お風呂、大好きだけどね?海の上でおっさんと入るのは勘弁してもらいたいところだ。

一旦、艦の速度を落とした後、艦底から足、翼部分を伸ばす。


「翼走準備完了しました!」

「サーラ、全速でも操作はいけそうか?」

「問題ありません!」

「では全速前進、離水時の揺れに注意せよ」


「ハリス、ちょっと待て!離水とは何なのだ離水とは!!」

「離水?もちろん水から離れることですが?」

「だからどうして船が水から離れるのだ!?」

「もちろん水中翼船だからですが」


ちなみに普通のモーターボートでも水の上をバンバン跳ねながら走ってるんだけど・・・あれも離水って言うのかな?

足を伸ばした艦が少しずつ速度を上げていく。


「おい、何というか・・・船首が少し斜め上を向いていないか?」

「何というか水にぶつかる揺れを感じなくなってきているような・・・」

「先ほどと海面の高さが違うのである!間違いなく浮いているのである!」

「船が跳ぶ・・・もう完全に意味がわからんのだが・・・」


ト○オなら船どころか街も飛ぶんだから大した問題じゃないさ。

15ノット、20ノット、30ノット、40ノット・・・そして最大船速、45ノットに到達。


「おい、先程までと比べるのもおこがましいほどの速度が出ていると思うのだが?」

「そうですね、人を乗せていない馬の全力疾走程度の速度は出てますからね」

「ほう、それほどの速度が出るとは。ふむ、これまではそれほど重要視されては居なかったがこれからの輸送力のことを考えると・・・やはり船とはなかなか侮れぬものだったのだな」

「勘違いされませんように!何度も繰り返しますがこの様な非常識な速度を出せる船などどこにもありませんぞ!?」


「ところでハリス、あの操縦している娘、薄ら笑いを浮かべておるが大丈夫なのだろうな?その、精神面の落ち着き的な意味で」

「あー・・・サーラは少しスピード狂のケがありますので・・・まぁ普段どおりですし?多少コケてもこの艦は沈んだりしませんから問題ないですよ?」

「どこからどう考えても大問題なのだが!?あと普段から薄笑いを浮かべる女性を側に置くのはどうなのだろうか」

「そんなところも可愛いじゃないですか?」

「ちょっとどころではなく卿とは女性の趣味が合わなそうだな・・・」


船体強度、最高速度、特に問題はなさそうだな。

外海まで出てきてるし?ついでに大砲も撃っちゃおうかな?


「このまま戦闘訓練に移る」

「戦闘態勢に移行、了解!魔法防御壁展開準備・・・展開完了!強化型魔導砲発射準備・・・完了!魔導砲操作、そちらにお任せします」

「了解、適当な目標物は・・・さすがに無いか。目標なし、最大射程での曲射を行う」


「攻撃目標未定、最大射程による試射了解!」

「カウントダウン任せる」

「了解!5よりカウント!5、4、3、2、1、発射(ファイエル)!!」


メルティスの声に合わせて俺がトリガーを引くと艦の左右から斜め上空に発射される高速の魔法弾。

燃える溶岩の様なその球は、艦橋からも見えるように弾道を描き・・・前方の海面に着水後爆発する。


「・・・いやいやいやいや、何だアレは!?どこまで飛んでいったのだ!?どれほどの射程を持つ魔法なのだ!?かなりの距離があるにも関わらず破裂する様まで確認できたのだが!?」

「射程はおおよそ2000mくらいですかね?まぁ魔法なんですから爆発くらいするでしょう」

「ハリスは説明が面倒くさくなると魔法だからで済ませようとするきらいがあるよね?」

「だって魔法なんですもん」


ケラケラ笑う俺とコーネリウス義兄上。他のメンバー?もちろんドン引きである。

ちなみに艦の性能に終始興奮状態のアリシアと口をポカンとひらいたまま何も言えなくなった皇女様以外の奥さん達は飽きたのかみんなで歓談中だったり。何かおやつでも出す・・・いや、今日はドーリスも一緒だし大丈夫か。


てことでバリアの展開、大砲の発射と問題がなかったので最後の試験である。


「翼走体勢解除、続いて潜水確認を行う」

「翼走解除了解!速度落とします!・・・翼の収納完了しました!これより潜水体勢に入ります!」

「おい、また聞き慣れぬ言葉が出てきたのだが?せんすい、それはもしかしなくとも『水に潜る』と言う意味だよな?」

「正解!」

「ハリス、知っているか?人間じゃないのだからな?水に潜った船と言うのはただ沈んでいるだけなのだぞ?」


とうとう王様だけでなく王太子殿下も慌てだしたが気にしてはいけない。

『いや、戦艦なのに潜水まで出来るのかよ!』って?だってそもそもコピ・・・リスペクト元が戦艦じゃなくて宇宙戦艦だからね?さすがに宇宙には出られないけど水深の浅いところなら何の問題もないのだ。

ちなみに潜水方法は水魔法と風魔法と闇魔法で水圧や気圧や重力などを操作、わりと繊細な作業を伴う力技でどうにかしている。

潜る必要性はあるのか?もちろん男のロマンである。

男の子ってみんな潜水艦とかドリル戦車とか大好きじゃないですか?

少しずつ、ゆっくりと艦橋が水面に近づいてゆき・・・海水に沈む。


「潜水致しました、只今水面下20m!」

「水深そのままで」


目の前にパノラマ状に広がる海の中の世界。

うん、海○館とか目じゃない。でも美○海なら対抗できるかも!


「ハリス!凄いのです!まるでお魚が空を泳いでいるみたいなのです!」

「ふふっ、ふよふよしたのも居るのよ?」


基本的に俺の行動に対して何も疑わない奥さん&お子様は眼の前を魚が泳いでいると言う初めて見る海の中の神秘的な光景に大はしゃぎ!・・・だが、おじさん連中は完全に顔面蒼白である。大丈夫、ちゃんと浮かぶから!


「メルティス、これで一応一通りの訓練は終わったと思うんだけど・・・何か補足は有るかな?」

「特に無いと思うが」

「サーラは?」

「もっと全速力で走り回りたいです!」

「じゃあ今日はこれくらいでのんびり港に引き返そうか」

「えー・・・」


一人だけ残念そうなサーラの事は置いておき、港まで戻るプリンセス・アリシア号であった。


―・―・―・―・―


本日9月24日でこの作品を初投稿してから一年経過と言う・・・長かったようなそうでもないような・・・

ここまで続けてこられたのも全て、読んでくださっている皆様のおかげ様であります♪

これからも少しでも『クスッ』と笑っていただける作品になるようにがんばっていきたいと思いますのでよろしければ二年目もお付き合いのほど、よろしくお願いいたします♪m(_ _)m

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