北へ南へ編 その3 プリンセス・アリシア号、発進せよ(前編)

ここ数話、書いてる本人はとても楽しいんだけど読んで頂いてる方は『何を見せられてるんだろう・・・?』ってなってないか少々心配な今日此の頃・・・。


―・―・―・―・―


全員で試乗と言う名の近海クルージングをするために『プリンセス・アリシア』号の前まで移動する。


「ハリス・・・なんと言うかこう・・・光を跳ね返すこの『赤い輝き』、気品のある実に美しい船だな!そう、何と言っても全体が赤いのがいい!あと名前!名前がとてもいい!そなたから妾への愛を感じるものな!」

「ハリス、アレではないかな?赤よりも黒のほうがこの船には似合うのではないかな?いや、他意は無いのだがな?あと名前も『麗しのスティアーシャ』と言うのはどうだろう?」

「あの様に大きな船を見るのは初めてなのですが他の船とは違い赤い方は独特の変わった形をしているわね」

「お船のお名前がアリシアちゃんってことは当然おねえちゃまの名前をつけたものもあるよね?」


「私は川船くらいしか乗ったことがないけど・・・いや、そもそもあの船、入り口?が無いよね?どうやって乗るのさ?」

「海辺で暮らしてたけど船に乗るなんて初めてなんだけど!ハリス。早く、早く行きましょう!」

「ハリス、ここからでは見えづらいので抱っこをして欲しいのです!」

「私もそれを所望するのよ?」


「白いイカほどではないがやはり死んだイカ・・・いや、硬そうだし茹でた海老じゃろうか?主よ、昼ごはんはエビマヨがいいのだ!」

「エビマヨ・・・なんと甘美な響き・・・婿殿、エビマヨ追加である!」

「エビマヨとはマヨソースで味付けた揚げ海老であったかな。なら添え物としてエビフライも良いのではないか?」

「私はあの丸い形の・・・確か海老クルトンだったかな?あれが好きだな」


「確かに海老クルトンは旨いが海老のすり身をパンで挟んで揚げたものもなかなか。ああ、水晶ぎょうざという手もあるな」

「何故卿等はそんなに海老の食し方に詳しいのだ!?わしはその様なもの見たことも食べたことも無いのだがな!?」

「父上、今は海老のことより船の事だと思うのですが・・・」

「クーン・・・」


いや、いきなり全員で喋りだすの止めてもらえますかね?ちょっと収集がつかないからね?

アリシアは鼻血を出しそうなほど興奮してるし、何故だか黒い人は付いてきてるし、フィオーラはまともな感想を言ってるし、リリアナは微妙にヤンデレってるし、ヴェルフィーナは素朴な疑問を持ってるし、ヴィオラは海育ちだけど家がビンボウだったから船なんて持ってなかったし、ミーナ嬢とちびシア殿下は相変わらずだし。


てかミヅキ以下のおじさん連中なんて一切船の話してないからね?

てか俺が海老は揚げ物以外ほぼ食べないから他の人達の食べ方も妙に偏ってるんだよなぁ。

天ぷら、串揚げ、エビフライ以外はほぼ中華料理系と言う。

あとわん子は海と言うか水が怖いのか、尻尾を足の間に挟んでるんだけど、何となくエロスを感じるのでちょっと控えてもらいたいです。

ドーリスとメルティスとサーラ?静かに後ろで控えてるよ?


いつまでも外から船を見上げていても仕方がないので乗船することに。

て言うかさ、この船ってもともと宇宙戦艦じゃないですか?当然のように密閉されてるじゃないですか?そもそもの出入り口、船の底部分だしさ。

てことで乗り降りする場合は


「まずおじさん以外の全員、体に掴まってねー!・・・転移」


転移魔法を使うしか無いのである。

『いや、それじゃ普通の人間は乗れないじゃん!』そもそも俺(と、その知人友人家族)以外が乗ることなんて無いんだからまったく問題ないもの。あくまでもプライベート戦艦だからね?これ。


てことで転移先となる第一層区画、艦橋部分に全員で集合。うん、二十畳も無いスペースにこの人数が集まるとそこそこ狭いな。あと異世界なのに広さの単位が『畳』って何だよ『畳』って。


「まったく見慣れぬモノばかりですが・・・ここが操舵室でありますか?あの小さな物が操舵輪・・・いや、あの大きさで舵を切ることが出来るのですか?」

「ふむ、この前面の全面を覆うガラス・・・ハリスの屋敷に有ったモノとは質が違うな。どれほどの厚さがあるのだ?」

「この一段高くなった椅子は良いな!」

「いや、興味を持つところはそこでは無いだろう!?どうして誰も中央にデン!と備え付けられているアレに反応を示さないのだ!?」


「だって・・・アレはもう『私達では手に負えるようなモノでは無い』ではないですか?ならば最初から見なかったことに」

「そんなわけにいくかっ!!ハリス、あの中央に輝く、いや、アレだけではないな!?この室内だけでも合計3つ埋め込まれてるよな!?」

「残念、椅子の下にもコッソリと隠れてますので正確には7つあります」

「そんな追加情報は要らないのだがなっ!!」


ちなみに王様が騒いでる『アレ』とは、『直径2mの巨大な魔水晶』である。

いや、だってさ、このサイズの船ってか戦闘艦だよ?巡航するだけならまだしも全力で魔法防御壁(バリア)張って、大砲撃って、高速で動き回るとなったら物凄い動力源が必要じゃないですか?

だから充電(充魔?)式の超デカい魔水晶を用意した。

ちなみに7つ全部満タンにしようと思ったら俺でも付きっきりでひと月近くかかると思う。それでも戦闘で全力を出すとなると三日持つかどうか。

まぁ大体の魔力はバリアに回るんだけどさ。だから一体何と戦うつもりなのかと。


「まぁ細かいことは置いておくとしてそろそろ出港したいと思いますので全員お席に・・・いや、この人数が座る席とか艦橋には無いので早いもの勝ちでお席に?あ、真ん中は私が座りますのでダメですからね」

「おい、座れなかった者はどうなるのだ?」


どうなるか?もちろん『電車が発車するときみたいにちょっと揺れて足元がバタバタってなる』だけ。


「まぁ適当に壁際の手すりなどに掴まっていただければ問題はないです。あ、床に座るのもアリですがうちの奥さんの尻などを見ているのを発見の際には海の藻屑となりますので念のため」

「娘の尻など見るかっ!!」

「ほう、それはつまり姫様以外の尻なら見ると?」

「陛下、流石にそれはちょっと・・・」

「うむ、王妃殿下にもキッチリとお伝えする必要があるのであるな!」


一段高い船長席に座り他の全員が着座、及び手すりに掴まっているか確認・・・大丈夫。

ちなみに前方、操舵輪の前にはサーラ、その他操作全般はメルティスが行う。

一晩かけてむっちゃ練習したんだからね?いや、練習は一時間位で残りの時間は休憩室(ベッドルーム)でイチャイチャしてた気もしないでもないけど。


「出港用意」

「出港用意!抜錨開始!・・・抜錨完了!前方船影なし!」


ちなみに指差し確認・・・ではなく呼称確認するのはメルティスだ。


「メイン動力起動」

「メイン動力起動!エンジン出力上昇、異常なし!」


・・・まぁ魔力で動くから特にタービンの起動音などは鳴らない。

あとエンジン出力とか言ってるけど魔水晶から直接魔力を送り込んで動かすので特に何も上昇はしていない。そう、あくまでも気分の問題なのである。


「微速前進」

「微速前進!プリンセス・アリシア、発進します!」


「おお・・・」と静かに呟くおっさん連中。

サーラの操船によりゆっくりと進む艦。


「速度、ゆっくりと巡航速度まであげろ」

「船速、巡航速度まで上昇了解!」

「いや、既に普通の船の最大船速くらいは出ていそうなのだが!?」


そりゃここにあった帆船なら5ノット(時速9キロ)くらいしか出なかっただろうけどさ。

ゆっくりと20ノット(時速37キロ)まで速度を上げていく。

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