北へ南へ編 その5 出発前夜

さて、新造艦のテスト航海も終了。何の問題も発覚すること無く無事に終わったので、翌日にはいよいよ大海原、目指すは南海方面謎の商国!・・・などと言う事はもちろん無く。

俺って現状無駄に大貴族じゃないですか?だから特にこちらから求めてもいないのにエルドベーレ近郊の小貴族や有力商人、地域の名士や小役人などなどが勝手に協賛したいと言ってきたので壮行会的なモノを開かないといけないと言う。

相変わらずめんどくせぇな貴族社会・・・。

てか協賛って言ってもお前ら何一つ協力も助力もしてないだろうと小一時間。

俺、何が嫌いかって他人に寄生されるのが一番腹が立つんだよなぁ。


「てことで向こうから『協賛』したいって言い出したんですから金をむしり取ってやりましょう」

「ふむ、少しでも今回かかった費用をださせられると言うのならそれに越したことはないが・・・どうやって出させるのだ?いや、そもそも港の整備とあれだけの船の建造費とはどれほどかかるものなのだ?」

「そうですね、まず軍港整備の工事代金ですが請求金額といたしましては金貨で300万枚といったところですかね。でも今回は特にウサギさ・・・土の精霊様にお手伝い頂いておりますのでその分を差し引きいたしますと金貨50万枚が妥当なところかと」


「ふむ、あれだけの港湾工事、それもちょっとやそっとの事では修繕の必要もなさそうな強度の物を造ってもらった事を考えると500万枚でも妥当、それが50万枚とは格安を通り越して激安だな」

「はい、今なら三日以内のお支払いで商業港の整備も同じお値段でお引き受けする権利も付いております」

「これはもうすぐに支払わないといけないね!」

「何の小芝居なのだそれは・・・」


何故かコーネリウス様が通販のアシスタントみたいになってるし。


「続いて船舶、新しい帆船の代金ですが、艤装済みの魔導砲、帆布、海水から真水に変える魔道具などなども込のお値段で一隻金貨5万枚、三十隻で金貨150万枚ですね」

「想像以上の金額・・・いや、ハリス、今魔導砲と言ったか?それはアレだよな?赤い船に装備されていたデタラメな威力の長距離魔法を発射する魔道具の事だよな?」

「さすがにアレを帆船に搭載しても動力源の魔水晶が持ちませんので威力も射程も減退させた廉価版ですけどね?」


「それが今なら金貨5万枚・・・なんて安いっ!」

「限定三十隻となっておりますのでお早めのお問い合わせを」

「だからそれは何の小芝居なのだ・・・」


「ちなみにうちのアリシア号は金貨で1000000万(ヒャクマンマン)枚です」

「何だその意味の分からない金額は・・・だいたい1000000万(ヒャクマンマン)枚とは金貨何枚なのだ!?」

「百億枚ですね」

「全世界の金貨をかき集めてもその様な枚数払えんわ!!」


いや、冗談だからそんな顔を青くしなくとも大丈夫だからね?


「まぁ港湾工事の費用に関してはフリューネ家の領内の事ですので私が支払いましょう」

「ふむ、それはそれでこれだけの国家事業に何の参加もしなかったと言われそうで我々の沽券に関わるな。ハリス、船舶の方、いくらかはキーファー家で持とう」

「それならヴァンブス家でも出すのであるな!いや、それよりも婿殿には我が領内の大開拓もしてもらっているのである、あの代金はどうするのである?」

「大草原(アレ)に関しましてはただの戦後の事後処理ですので、さすがに請求は出来ませんよ」


てか今回の発端は俺が『お船で旅がしたい』ってだけだったから奥さんの実家に高額の請求をするのは忍びないんだけどなぁ。


「それでハリス、最初に協賛したいと言う人間から金を集めると言ったけど何か良い案でもあるのかい?商人に金を出させるのは少々厄介だよ?」

「そうですね、協賛したいと本人達が言うのですから、そのまま普通に一口金貨100枚で協賛金を集めれば良いのではありませんか?船舶の方は王国各地の貴族家も巻き込んで、港の方も各地の商人や名士達などの金持ちに通達しましょう」

「ふむ・・・悪くないかも知れぬな。しかし見返りはどうするのだ?港の使用の優先権などかな?」

「まさかまさか、そんな実利は一切与えませんよ。後々面倒事になりますからね。そうですね、港の近くの目立つところ、それも市民の集まる憩いの場的な場所に各々が出した金額と名前を載せた大きな石碑を建てましょう。貴族に関しては王城で記念パーティでも開いて感状の一枚でも渡せば十分でしょう」

「ふっ、それはなかなかに趣味の良い方法だな。こちらの腹がまったく傷まんのがとても良い。貴族はもちろんだが商会もその石碑に名前が無ければ肩身が狭くなりそうだ」


と言うことで、多少なりとも他人からも資金を回収することに。

ああ、最終的には俺が港の整備分を、キーファー家、ヴァンブス家、フリューネ家が各々帆船五隻分を、残り十五隻分を王家が支払うと言うことで決定した。寄付金に関しては全額俺の総取りである。もちろんかかった金額(特にお金はかかってないけど)以上が集まった場合は王家に寄付する。



てことで何らかのおこぼれにあずかろうと図々しくも壮行会に参加した商人や貴族もろもろの顔色を青くした協賛金の話は置いておくとして。


「今回は妾が行っても構わぬよな?なにせ船の名前が『プリンセス・アリシア』だものな?」

「もちろん駄目ですけど?そもそも前回も最初は誰も連れて行かなかったでしょう?」

「しかし今回は戦争をしていた帝国とは違い何の諍いも起こしていない商国に行くのであろう?ならば何の問題も無いのではないか?三年前より上の兄も視察に行っておることだしな」

「どちらかと言えばそのお兄様の存在に危機感を持ってるんだけどね?てか視察に三年ってさすがに長くね?」


そう、現在我が家では「連れて行け!」「無理!」の問答真っ最中なのである。

正直なところ第二王子の件がなくとも俺の中では、いや、王国上層部では『戦前の荷留め』に参加していた商国は敵国扱いだからね?


「ならこうするのです、外交担当のミーナだけ付いていくのです」

「それなら私も行くのよ?」

「我はもちろん付いていくからの?」


同伴が幼女だけってどんな外交団だそれ。

まぁ何にしても今回の商国行きは(名目上は)ちゃんとした外交使節扱いだから帝国に行った時みたいに着の身着のままってわけにはいかない。

商国には顔を見知った人間の一人もいないからね?


身の回りの世話をするメイドも連れて行かないと行けないし、ミヅキ以外の成人女性も一人くらいは必要だろう。


「我、数千年前に成人しとるんじゃがな!?」


蛇の成人とは一体・・・脱皮何回目とかで決まるのかな?

まぁメイドさんはドーリス・・・いや、彼女を連れて行くと南都領内が回らなくなる。

でもそれ以外のメイドさんとなると、AさんとCさん以外はまだそこまで面識が無いんだよなぁ。

他にも親しいメイドさんが居たはず?あの人はほら、ほぼほぼただの変態だからね?他所様に晒して良い存在ではないんだ。


「でもさすがにフィオーラもリリアナも連れていけないしなぁ・・・」

「ならやはり妾で良いではないか!妾ならそれなりに自衛も出来るしな!」

「ふむ、ハリス、嫁を連れて行きたくないと言うのなら私が良いとは思わぬか?これでも帝国皇女、さすがに商国も王国のみでなく帝国にまで喧嘩を売ることになると思えば自重もするだろう?」

「なっ!?勝手にしゃしゃり出てくるな黒娘!!」


・・・うん、本人が言うように、確かに悪くない人選ではないだろうか?

問題点といえば大々的に『俺が皇女様を婚約者として認めた』宣言になってしまう事くらい。大問題じゃねぇか!

もうそれならいっそのこと白い人も連れて行って『皇国の皇族もこちらに付いている』と思わせれば大きな行動は起こせないはず・・・いや、あの白い人はとてつもなく駄目な奴だから却下だな。最近運動不足と言うか本人がゴロゴロしっぱなしでちょっとお太り様になってるらしいしな。


―・―・―・―・―


久々登場の白い人!みんな、名前とか覚えてるかな?

いや、覚えてるも何もまだ出てきてないんだけどさ。

・・・出てないよね?出てなかったはずっ!

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