東へ西へ編 その22 帝国皇帝との謁見(それとも病気見舞い)
ずらっと並んだ文武百官・・・でも無いか、半分以上メイドさんとかご令嬢だし――に、お出迎えされて帝城に入場する皇太子殿下with王国ご一行。
初めてフィオーラ嬢…じゃなくフィオーラに連れられて北都のお屋敷にお邪魔した時の事を思い出して少しだけセンチメンタルな気持ちになる。
あの時は綺麗なメイドさんに囲まれてのんびり幸せな生活を送るという希望に満ち溢れていたなぁ・・・。まぁメイドさん(特に北都組)、一皮剥いてみればアレな人ばっかりだったんだけどな!
一応こちらは王国の代表として帝都に赴いているので少し休憩した後は現皇帝陛下と謁見することになるのだが・・・通されたのは何故か謁見の間ではなくお城の奥の奥、皇帝陛下の私室・・・のさらに奥にある寝室であった。
枕元には悲痛な顔で寄り添うように立つ恐らくは皇后陛下。・・・惜しい、実に惜しい、あと十歳~十五歳若ければ・・・。
そんな二人を見てこちらも辛そうに口元に力を込めた皇太子に話しかける。
「いや、さすがに他国の貴族をこのような所に通すのは不味いのでは無いでしょうか?そもそも、もしも皇帝陛下がご病気なのだとしたらそれを知られるのは国防上も宜しくないでしょうし」
「まぁ候は既に身内の様な者であるし特に問題はなかろう。父・・・皇帝陛下も死ぬ前に是非一度、候と会いたいと言っていたのでな」
「まったくもって身内では無いのですけどね?あと死ぬ前とか重い話はちょっと・・・」
風邪ひきさんとかだったら移されるのは嫌だなぁ・・・などと思いながらも、いや、風邪ひきくらいで皇后陛下があんな表情はされないと思うけど。
皇帝が休んでいる大きなベッド、その枕元に支えられながら体を起こしている側まで近寄り、膝を付く。
「本日は突然の来訪にも関わらずご尊顔を拝しまする名誉に・・・いや、えらく顔色がお悪い、むしろ良く生きてらっしゃると言うようなおやつれ方ですね!?とりあえず話すのもお辛いかと思いますので先にちょこっと治療させて頂きますね?」
なんだよ、皇子に譲位する必要があるから仮病でも使ってるのかと思ったら普通に超重病・・・いや、病気もだけど、このやつれ方からすると毒の症状もありそうだな。
まずは魔眼で鑑定・・・うん、内蔵をゆっくりと腐らせて行くというかなり凶悪なタイプの毒を盛られていたらしい。
半ば即身仏とでも言えそうなその左手をとり治癒魔法を、解毒、病の治癒、そして回復魔法と順にかけてゆく。
さすがにいきなり筋肉や贅肉が体に戻るような劇的変化は起こらないが青白い、土気色をしていた肌が明るい色に戻り、目のくぼみの色もマシになった。
「お顔の色も赤味が戻りましたのでこれで問題は無いと思うのですが。何にしても体力が危険な域まで下がっておりますので最低でも二、三日は絶対安静でお願いしますね?胃腸が弱っていたのもちゃんと治療致しましたが急に大量に召し上がるのお控えいただいて最初は麦粥、またはスープのような物から順に。あと毒物の反応もありましたので一応お守りとして耐毒の魔道具を処方しておきますね?」
ポケットから出したふりをしながら昔公爵邸の食事会で配った事がある光の魔水晶の首飾りを皇帝の手にそっと乗せる。
「では本日はご挨拶だけで下がらせていただこうかと・・・陛下、そんな目を見開かれてこちらを凝視されますと怖いを通り越して気持ち悪いのですが?」
「一国の皇帝に対し言うに事欠いて気持ち悪いとはなんだ気持ち悪いとは!いや、そのようなことはどうでもいいのだ!体の痛みが・・・内蔵を中から食い荒らされている様なあの痛みが一瞬で消えさったのだが!?」
「そりゃまぁ治療いたしましたので・・・てかそこまでの痛み、鎮痛薬程度で良く耐えていらっしゃいましたね・・・」
「帝国内の薬師、術師、医者、神官・・・どの様な者も癒やすことの出来なかった病を薬草も魔道具も使うこと無く、呪文を唱えることもなしに治したと言うのか・・・」
「あなた、その様なことよりまずはお礼を申し上げるのが先でしょうに!いきなりのことで動揺しておられる陛下になりかわりお礼を申し上げます。ラポーム侯爵様・・・でよろしかったですわよね?」
「いえいえ、とんでもございません。あと、私のことはなにとぞハリスとお呼びください。そしてどうかお顔を上げて、その美しい御姿をお見せいただければこの上ない幸せでございます。私がもしも何かの御役に立てたと言うのならば、それはこれまでのお妃様のご人徳の賜でございますれば」
「うむ、王国よりの使者ラポーム侯爵よ、我が身を死の淵より救い出してくれたこと朕も心より感謝する!」
「はい」
「妃の礼に対する返答にくらべ凄まじくあっさりとした返事だな!?」
皇帝、自分のこと『朕』って言うんだ?
何かこうよくわからないけどこうして帝国現皇帝との謁見は終了した。
さて、後は造幣の魔道具を設置してとっとと帰宅して・・・今度は東都、じゃなくエルトベーレの港湾整理だな!
・・・もちろんすぐには帰れなかったんだけどさ。
いいじゃん、ブルパパだけで!どうして俺までしち面倒くさそうな交渉に参加しないといけないんだよ!
のんびり帝都見学させろよ!あと
「今回の恩に報いるために断腸の思いではあるが我が娘、長女スティアーシャを候の嫁にやろう。少々性格に問題はあるが黙っていれば帝国一の華であるからな!」
「それは良いお考えだと思いますわ、そうすればハリスちゃんも私の息子になりますものね?少しお転婆が過ぎる嫌いもありますが口を開きさえしなければとても美しい娘です」
「私も彼に出会った時直感で『妹の婿になるのはこの男!』と思い、既に王都まで嫁入り修行に行かせております!少々薹(とう)が立ってはおりますが」
とか言ってる皇族、不良債権の押しつけはやめろっ!そういうのを日本では恩を仇で返すって言うんだからな!
いや、皇国のアレとか、出会った当初のアリシアと比べたらそこまで問題があるとも思えないんだけどね皇女様?何より『クッコロ系の美女が嫌いな異世界転生者なんていません!』なんだもん。
てことで俺のメインのお仕事である魔道具の設置、そして帝国硬貨のデザインである。
まず大金貨には現皇帝、金貨には皇太子。『大金貨に皇太子の方がよくね?すぐに代替わりするんだし』と思われるかもしれないが、そもそも前提として『大金貨なんてそんなに使う人間がいない』んだよね。なので一般的に流通する金貨に皇太子のお顔。
続いて大銀貨には皇后陛下、そして銀貨にスティアーシャ皇女。至って普通だな。
最後に銅貨、なんだけど・・・。こちらは揉めた、そこそこ揉めた。
だって皇族ではなく有力貴族の顔にすることになったので。
自分の肖像がお金になる、普通なら大きな栄誉だからね?
最終的には無難な所で今の宰相と王国に出兵をしなかった穏健派の侯爵に決まったんだけどね?
てことでふくよかな頃の皇帝のお顔と今の皇子のお顔、二十年ほど前の皇后陛下のお顔と今の皇女のお顔、宰相と侯爵はそのままのお顔でデザイン完了。
「いや、母と妹が同年代にしか見えぬのだが?」
「ヴィリ、細かいことを気にするとハ○ますよ?」
「母上、最近抜け毛が気になっておりますのでその発言は心に刺さるのですが・・・」
「あ、皇后陛下、○ゲると言えば是非ともこの石鹸と洗髪剤を使ってみてください、王国でも人気の商品となっておりますので」
「まぁ嬉しい、さっそく今晩から使わせていただくわね?」
「候は今の話を聞いていたよな?それは私にこそ必要なモノではないのかな?」
―・―・―・―・―
ちょこっと皇女様の顔見世だけのつもりが思ったより長くなってしまった帝国編、一旦終了であります。
次は本当に商国に行くから!きっと・・・行くよね?
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