東へ西へ編 その11 戦闘後のひととき

「てかわん子の耳がそこそこケモノくさい。いや、嫌いなにおいじゃないんだけどね?日向ぼっこしてた犬みたいなにおいがする」

「おまえは大概失礼な男だなっ!わたしは風呂上がりなのだから良い匂いがするに決まってるだろうがっ!・・・と言うよりもおまえはどうしてお花の匂いがするのだ?そしてわたしは犬ではなく狼だっ!!」

「俺はいい石鹸使ってるからな。いや、むしろ風呂ってかサウナ上がりだからこそ干した布団みたいなにおいになってるんじゃね?てか耳周りの短くて柔らかい毛がふわふわしててとてもよいな・・・あ、尻尾の毛は思ったよりもゴワゴワしてて固いからイマイチだった」

「尻尾を笑うものはいつか尻尾に泣くことになるんだぞっ!そして褒めるなら最後まで褒めろ!!」


「てか服の上からだとわからなかったけど腕と脛もモフモフなんだ?これはいい・・・とてもいい・・・そしてわん子はわん子だからおっぱいはやっぱり多乳頭なのかな?」

「人の事を毛深い親父みたいに言うんじゃないっ!おっぱ・・・胸は普通に人族と同じで二つだけだ!!」

「てかわん子はわん子なんだからそろそろ我慢せずに語尾にワンを付けるべきでは無いワン?」

「わたしは我慢など一切していない!そもそも生まれてこのかた同族でそのような話し方をする奴を見たことがないのだけれどな!!」


「でもあれでしょ?エッチな事をする時は『アオーン』とか『クゥーン』とか『キャイン』とか言うんでしょう?」

「そ、そんなことを言うはず・・・が・・・な、ないだろうが!!」

「・・・ふむ、それは言うのか」


この街を治めている領主が帝都に向けて使者(のふりをした不祥事の言い訳をする人?)を出すので不祥事の原因、ヒュドラを退治した俺もしばらくは屋敷に滞在して欲しいと頼み込まれ、その返事、おそらく帝国の偉い人がくるまで仕方なく領主の屋敷で過ごすことに。

てか領主、一緒に皇女殿下が居なかったら絶対にいろいろとごまかしてたんだろうなぁ。


内々で処理できる人間は有能だと思うけど、下手したら魔物が暴れた原因を俺のせいにされていた未来も微レ存。

まぁそんな時はもちろん武力を持って叩き潰すけど。

正しいか正しくないかではなく『力がある方が正義』だからな!


迷宮前の城壁と門の修繕などでしばらくはダンジョンも入場禁止らしいし、特にこの街の散策などもしたいとも思わないので今日は約束していた報酬として『わん子』ことケーシー嬢を膝の上に乗せて頭を撫でたり背中を撫でたり尻を撫でたりしてる俺。

わん子、憎まれ口は叩くけどまったく嫌がりはしてないからね?

そして本人は狼だとか言ってるけどヘソ天で寝てる姿はどうみても甘えん坊の大型犬である。


「いや、何というか・・・会ったばかりの獣人にそこまでの服従の姿勢をとらせるとか・・・卿は凄腕の魔獣使いか何かか?」

「殿下、わたしは魔物ではありませんしこの男に服従などしておりまアオーン・・・」

「お前は即落ち2コマか」


うん、やっぱりどこからどうみても大型犬だな。

ちなみに俺が個人的に一番だと思う獣人さんはワンコでもニャンコでもなく虎さんだったりする。ほら、こう・・・解るだろう?次点で熊さんとかタヌキさん。

三角みみ(イカみみ?)より丸みみの方が可愛いじゃないですか?

もちろん三角みみも嫌いではない。むしろ大好きだけどな!


てかさっきから背後で『ウー・・・ウー・・・』と殺気の籠もった唸り声をあげているのは知らない獣人・・・では無く、自分も甘えたいのにお仕事中なので甘えられないサーラである。

てか昨日の夜いっぱい甘えさせてあげたでしょ!

もちろんエッチな事はしていないので念のため。

今は同盟国でも一応敵地だからね?気の抜き過ぎはよろしくない。


メルティス?彼女は目の前で皇女殿下のパーティメンバーと模擬戦をしてる。

模擬戦って言うか軽くあしらってるだけでまったく相手にはなってないんだけどさ。

うん?広い室内だなって?いや、普通に中庭だけど?

世界よ、これが叙述トリックだ!!ちがうか。


最初は暇だから中庭を借りてサーラとメルティスが稽古をしてるのをぐだーっとして見てただけだったんだけど途中で皇女様が「まぜて?」って来たから合同訓練になった。

で、お姫様を地面に座らせたり立ちっぱなしにするわけにもいかないから大きめのソファーを2つとテーブルを出して飲み物とおやつを並べてわん子を膝に乗せて観戦しながら雑談中と言う。

他人の家でそこそこやりたい放題だな俺。いつも通りとも言うが。


「昨日いきなり共の者の鎧を出した時も驚いたが、どこからともなく椅子や大きな机、はたまた飲み物や食べ物なども出てくるとは・・・。詮索するつもりは無いが卿はいったいどれほどの魔道具を持っているのだ?これではまるでおとぎ話の『魔法鞄』のようではないか。ていうかこの瓜物凄く甘いな!?私の知っている瓜の味ではないのだが!?」

「ふっ、細かいことは身内以外には全部秘密となっております」

「なら私も卿の身内になれば教えてもらえるという事だな?」

「ふふっ、そうですね。もしも殿下が私の・・・母か姉になれば?ですかね」


「・・・卿は案外意地が悪いのだな。そうか・・・卿と身内か・・・」

「わたしはもうすでに身内のようなものだけどな!」

「わん子はペット枠だから。いや、ペットはたしかに身内だけどさ。じゃなくて、そもそも連れて帰る気とか無いからね?」

「なんだと!?やはりヤリ捨てなのか!?」

「そもそも何もナニもやってないんだよなぁ・・・」


皇女殿下、ボソッと意味深な感じでつぶやくの止めて?

現在婚約破棄に向けて二人三脚で頑張ってる真っ最中でしょ?

今、2人の心は1つだよね?

あとうちにはすでに食っちゃ寝するのが1匹いるからわん子は・・・無理な様なそうでもないような。動物枠の魅力に押し流されてしまいそうな俺。

そもそも俺がその枠(食っちゃ寝枠)に収まるはずだったのにっ!!


そして余計な興味を持たれるとどんどん深みに嵌まってしまいそうなので何とか話を変えないと。


「てか野生動物は稽古には混ざらないのか?」

「失礼な!わたしは野生ではなくちゃんとした飼い犬だ!いや、飼い狼だ!!ほら、装備がな、ボロボロでな」

「とりあえず狼名乗りたいならまず飼われるなよ・・・。あと装備品は全員ボロボロだったじゃん?他のメンバーは普通に借り物使ってるじゃん?」

「・・・クーン・・・」

「そんな困った感じの声をだしたくらいで騙されると思うなよ可愛い!!」


この後思いっきりワシャワシャした。

あとサーラの放つ殺気で稽古中の子達が震えだしたのでわん子と交代させてサーラのことも膝枕した。もちろん鎧を着せたままで。


「閣下!閣下の犬はこの私だけだと声を大にして言ってください!あと首輪もください!」

「なんだと!?ふんっ、たかだか人の子の分際で・・・犬らしさでこのわたしに勝てると思っているのかっ!!あとわたしにも首輪をください」

「サーラ、それでなくとも(主に帝国方面で)風評被害が広がってるのにこの上『年頃の娘さんを犬扱いしてる』とか世間体が非常に悪いから止めなさい。あと首輪はないけど首飾りはあげたでしょ!そしてわん子は犬と狼の境界線で反復横飛びでもしてるの?納得するまで何度も繰り返すけど連れて帰らないからね?」

「どうして!?あれか、やっぱり猫か?猫族がいいのか?わかった、わかりました!語尾にニャンをつければいいんだよニャ!?」


「そ、そうなのか?わ、私も・・・その・・・ニャンを付ければ身内になれるのか?」

「わん子はとうとう犬族のアイデンティティまで放棄しだしたのか!あと殿下、半笑いで話をややこしくするためだけに混ざってくるのは控えてもらえますかね?俺が『じゃあそれでお願いします!』って答えたらどうする気ですか?」

「もちろんその時は卿に辱められたと父と兄に相談するまでだが?」

「こいつ、たちが悪い権力者の見本の様な奴だな!?」


まったく・・・これだから王族は・・・。

てかサーラにかわって今度はメルティスが殺気を放ち始めたのでサーラと交代で膝枕しておいた。




一方こちらはのんびりモードのハリスくん達とはウラハラに大急ぎで王国の使者を追いかけて王国方面に馬車を疾走させる帝国第二皇子御一行。


「殿下、チェルヴォのクレスト伯爵及び滞在中の皇女殿下より早馬で知らせが!」

「チッ、この忙しい時に何用か・・・何?家出中の妹からも手紙が来た?本当に何用なんだ?ふむ・・・はあっ!?迷宮から亜竜が出てきただとっ!?・・・ふむ、防壁は大破したが街には被害は無かったと。衛兵に関しても死者はそれほど出てはいないのか・・・。そして亜竜、巨大なヒュドラを退治したのは・・・妹と私が妹に送った護衛?何の話だそれは?」


結構な大事でありながらまったく身に覚えの無い『妹の元に送った護衛』と言う登場人物に困惑する皇子。


「家出娘からの手紙は・・・私が送った護衛がいなければ死んでいたと・・・何をやっているのだあの妹は!!と言うよりも誰なのだそのおと・・・はぁっ!?ラポーム侯爵の様な人品卑しい人物ではなく命を賭して身を守ってくれたその男と結婚したい!?こ、こちらから無理に願い出ている婚約を破棄など出来るはずがなかろうが!!そもそもラポーム侯ほど年齢的にも人物的にも瑕疵も疵瑕無い人間はそうそうおらぬだろうが!!それを人品卑しいなどと・・・はっ、もしやこれは皇国の諜報の仕業か!?」


その様な情報を流し、あまつさえ得をする国に思い当たる皇子。


「そもそも誰なのだその『私が送った護衛』と言う男は!?あの妹をこれほど短期間でたらし込み、ヒュドラ退治などと言うことまで出来るような人間なら私の近くに是非とも置いて・・・名は『ハリス』?ふむ、ハリス・・・ラポーム侯と同じ名か。そして供回りに『黒い鎧の娘が2人』?ふむ・・・ラポーム候と同じメンバーか。『馬が牽かぬ黒い馬車』に乗っている?ふむ・・・ラポーム候も確かそのような・・・いや、それ間違いなく本人だよな!?えっ?もう送り返した使者の扱いに怒り帝国を滅ぼしに来た・・・いや、むしろ助けられているな」


『黒竜殺しのハリス』がいたからこそ迷宮都市の損害がこれほど軽微だったのであろう。


「ふむ、つまり妹は『私が妹の身を心配して護衛に送った(まったくその様な事実はないが)ハリスに惚れたので私が勝手に決めた婚約者のラポーム候との婚約は破棄したい』と言っているのか?なるほど・・・まったく理解出来ぬ。何を言ってるのだ妹は?いや、まぁ同じ人物として認識していないのであろうが・・・人物像については婚約話の際にちゃんと説明してあるよな?人の話を聞いていなかったのか?いや、まぁ政略結婚ではなく本人が惚れての嫁入りと言うならそれはそれでめでたい話ではあるのだが」


ぶつぶつと独り言をつぶやく第二皇子を向かいの席から心配そうに見つめる帝国宰相であった。

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