東へ西へ編 その12 闇の魔水晶(の首飾り)
お昼は完全フリータイム、夜もそこそこフリータイムな日々を幾日か過ごしている俺。
そろそろお家に帰りたくて仕方がないんだけど・・・でも第二皇子がここに来るらしいからなぁ。仕方なくもうちょっとだけ待つことにする。
だって入れ違いになったらわざわざ探すのも面倒くさいじゃないですか?
てか今日はこの街に居る&近隣の小貴族が集まっての晩餐会を開くらしい。
自分の国のパーティにも大して参加してないのに他所の国のパーティとかビックリするほど興味ねぇわ。
と言うような事を遠回しに皇女様に伝えたんだけど
「・・・卿は私のエスコートはしてくれぬのか?」
とショボーンとした絵文字の様な顔で言われてしまったので仕方なく出ることに。
基本的に俺、勝ち気そうな女の子のしおらしい感じに弱いんだよなぁ・・・。
てか俺の周り、気の強そうな(むしろ強い)女の子多すぎじゃない?
いや、そんな女の子が好きだから当然って言えば当然なんだけどさ。
で、晩餐会なんだけどさ。
そろそろ秋から冬に移りゆく季節なのでお庭とかじゃなく普通に大広間での立食懇談会みたいな感じ?生バンド(街の音楽家?)の音楽付きで如何にもな感じのパーティだ。
言うまでもないけど『立喰(たちぐい)』じゃなく『立食(りっしょく)』だからね?
つれは皇女様なのでお手々つないで(腕を組んで)入場する俺は当然最後の最後に登場することになる・・・んだけどさ。
「殿下、お召し物が、その・・・ぶっちゃけ一国のお姫様にしたら地味すぎじゃないですかね?」
「とるものもとりあえず城を出たからな、ドレスなど持ち合わせもないし仕立てる時間も無かったので仕方なかろう・・・」
頬を赤くしながら少し拗ねた感じのジト目をいただきました。
何というかこう・・・この人ピンポイントで俺の心(性癖?)の弱いところを突いてくるんだよなぁ。
「むしろ卿がどうしてその様な本格的な夜会服を持ち歩いているのかの方が不思議なのだが?普段着の柔らかい雰囲気もよいがその様な引き締まった衣装もとても似合っているな」
「まぁ野暮用(皇子との謁見)がありましたのでね。殿下は普段はどの様なドレスをご着用されているのです?やっぱりイメージ的に黒です?」
「そうだな、特にこれと言って決めてはいないが最近は黒が多い気もする。そう言えば以前、王国に赴いた時に王女とドレスの色がかぶったことがあってな?少々微妙な空気になったこともあったな。卿は知らぬだろうが王国の王女・・・全身赤いからな?ドレス、靴、アクセサリー、髪と瞳も赤いからな?」
うん、聞かなくともむっちゃ知ってる。
てか今は赤い全身鎧も追加されてるから機会があれば見せてもらうといいよ?
さすがにその辺のご令嬢、むしろご令息みたいな衣装(ラフなパンツスーツみたいな感じの)では皇女としての面目が立たなさそうなので腕をそっと引っ張って貴人用の小部屋(化粧室?)に皇女様を連れ込む。
「は、ハリス!?い、いきなりその・・・こういうのは・・・んっ・・・初めてなので優しく頼む・・・」
「いや、どうしていきなりタコみたいな顔をこちらに突き出してくるんですか・・・ちょっとドレスと小物の用意をしますのでお着替えを手伝う女性を呼んでもらえますかね?」
てことで改めて皇女殿下ご入場である。
衣装はエレガントスタイルで真っ黒に染め上げられた裾の広いドレス。イブニングドレスって言うのかな?
最上級のシルク(リサイクル品)と散りばめられた銀色のビーズがキラキラと輝いている。
首には5センチ大の闇の魔水晶の周りをヒヒイロカネで装飾した物をペンダントトップにそえた大玉の真珠のネックレスが少しだけ開いたその胸元を飾る。
「ハリス、この・・・胸元のこれは・・・幾らくらいするのか想像もつかないのだが?むしろ買おうと思って買えるものだとも思えないのだが?そしてこのドレスにしても完全に私の為に設えたように、いや、普段私が使っている仕立て屋の仕立てよりも体にピッタリとそって、それでいて身動きに一切の支障がないのだが?」
「まぁそんなことも有るんじゃないっすか?」
色々聞きたいらしい雰囲気を全身から醸し出しているが適当に流しておく。
主賓の入場とともに会場内の視線が全て皇女様――特にその胸で黒く揺らめき輝く闇魔水晶へと集中する。
見た目高そうだもんね?でも俺の手数料を引いたら銅貨1枚も掛かってないという。
うむ、予定通り俺には大した興味は持たれなかったようだな。
ああ、もちろんあれだよ?『闇の魔水晶』別に邪悪な気配とか瘴気とかを垂れ流しているとかじゃないからね?
光が肉体的な回復だとしたら闇は精神的な回復を司っているらしい。
喩えるなら『海月の水槽』をボーっと眺める感じ?枕元に置いておけば毎日快眠翌朝スッキリである。
てか、こちらに来る前にうちの子になった(?)闇の精霊ワンコは元気にしてるだろうか?
入場後はお役目御免ってことで帝国(小)貴族に囲まれる皇女様から離れて壁際に移動する。
てか王城でもそうだったけど俺の定位置が完全にボッチのソレなんだよなぁ。
それこそ今回は皇女様以外の知り合いも皆無だし。
しかし王国にせよ帝国にせよ『高級食材の足し算だけ』で成立してる料理はまったく俺の口には合わないんだよなぁ。
個人的にはアルコール類も特に好きじゃないので非常にすることがない。
まぁしばらく経ったらとっとと部屋に戻るか。
・・・なんて思ってたら広間の片隅、年若いメンバーの集まる一画でちょっとした騒ぎが起こる。
いや、大したこっちゃないんだよ?『すわ、突然魔物が現れた!?』とか『領主が毒殺された!!』とか。あと『すわ』って何だよ『すわ』って。
少し離れたそこから聴こえてきたのは『10代前半の女の子が落としたブローチを10代前半のクソガキが踏んで壊してしまった』と言うよくある話。
そして踏んだクソガキがブローチを踏まれた女の子よりも家格が上らしく謝りもせず、むしろ逆ギレして捨て台詞を残してズカズカと立ち去っていくのもよくある話。
マジ気分悪いよなああ言う奴。もしここが王国なら助走付けて殴ってるぞ?
地味っ子少女が健気な感じで泣くまいとブローチを手のひらに乗せてうるうるふるふるとする姿・・・とても(父性本能的に)くるものがあるんだよなぁ。
「フロイライン、いかがなさいましたか?」
「・・・えっ?ええっと・・・」
だから俺が声をかけに行ったのは決して疚しいところなど何もないのだ!誰に対する言い訳なんだそれは。そもそもが好みの年齢ではないからな。
そして帝国だし一度は言っておきたかったんだよね『フロイライン(お嬢さん)』。今はもう死語らしいけどな!
てか『ファイエル!』はもう言ったし・・・残りは『プロージット!』だな。
さすがに今ここでグラスを床に叩きつけたりしたらビックリ&ドン引きされそうだからやらないけど。
そして地味っ子に物凄い困惑顔をされてるけど気にしてはいけない。
もしかして不審者だと思われてる?大丈夫だよね?
「よろしければお飲み物などいかがですか?」
「・・・えっ?・・・ええっと・・・何もお持ちではなさそうなのですが」
「ふふっ、そのように見えますか?」
もちろん見た通り何にも持ってないんだけどな!
だってそれほど冷えてるわけでもない、そもそも味の善し悪しとかまったくわからない渋いだけのワインとかいらないじゃないですか?
困惑度合いをさらに増してゆく少女の顔の前に左手を差し出して『タネも仕掛けもありませんよー』って感じでクルクルと回転させる。
そして開いた左手の上にポケットから取り出したスカーフをフワッとかける。
「よろしければスカーフをひっぱってもらえますか?」
「・・・えっ?・・・あっ、はい・・・ええええええっ!?こ、このグラスはどこから出てきたのでしょうか!?そしてこの中のキラキラ光る飲み物は一体・・・」
スカーフの下にあった左手にそっと摘まれているグラスが現れる。中身はサイダーだったりする。
だってほら、コーラは色味が・・・初めてアレ見て口にするのはそこそこ勇気がいると思うんだ。
女の子にグラスを渡し、同じ様にもう一度スカーフを左手にかぶせて自分の分も取り出す。
もちろん時空庫から出してるだけなんだけどね?
俺がそれに口をつけると釣られたように女の子もグラスに口をつけ
「ひうっ!?あ、甘いです!それに・・・なんでしょうこの刺激的な口当たり・・・これが・・・大人の味なのかしら?いえ、そうではなくて!どのうようにして何も無いところからグラスを取り出したのでしょうか!?」
「いえ、完全に子供の味です。ふふっ、これでも私はちょっとした魔法使いなんですよ?お嬢様がお持ちのその胸飾り、よりしければお見せいただけますか?」
「いえ、でも、これは壊れていて・・・」
などと言いながらも素直にソレを差し出してくる地味子。
どうやら元は銅製の花を象ったブローチだったのだろう。
魔導板さん、これ、直せる?・・・楽勝、むしろ朝飯前と。
ほんま魔導板さんは世界一頼りになるお人やでぇ・・・。
「フロイライン、もう一度お手伝いいただけますか?」
手に持っていたグラズ(2つのグラス)を消す(時空庫にしまう)と今度はそのブローチを左手に持ってスカーフを上からかける。
言ってることは理解しているようだけどさすがにそれは無理だろうと期待半分でスカーフをめくる少女。
もちろん現れた彼女のブローチは元通り、いや、作り直してるんだから新品の輝きを持って現れた。
「す、すごい!すごいです!いったいどうやって・・・あ、も、もうしわけございません!わたしったらまだ名乗りもしていない上に殿方の前にこの様な大きな声をだしてしまって・・・」
「お気になさることはありませんよ?元気なあなたはとてもチャーミングですから」
沸騰しそうなほどに耳、顔、首筋と真っ赤に染めてゆく地味子。
「さて、素敵なお顔を見せていただいたお礼に私からも贈り物を一つ致しましょう」
ポケット(時空庫)から取り出したのは『魔水晶の元』ことただのビー玉が3つ。
それを左手で握りしめて魔力を込める・・・様なふりをしながらゆっくりと成形してゆく。
ああ、指とか切っちゃうと危ないから花弁の縁は丸く整えてちょっと落とした程度では壊れない様に強化も施して。
最後に少しだけ淡く蒼い色を入れたらあっと言う間に『薔薇の髪飾り』の完成である。
「す、すごいです・・・それに・・・とっても綺麗・・・」
「卿は私をほったらかしにして他所の女と何を乳繰り合っているのだ?」
「おおう!?いきなり後ろから声をかけるのは止めてもらえます?」
気を抜いてる時は殺気のない気配は察知出来ないから普通にビックリするからね?
あと乳繰り合ってるって何だよ、時代劇でも最近聞かねぇ単語だよ。
後ろから話しかけてきたのは自称俺の連れである皇女様。
いや、そもそもどうして俺は皇女様に浮気を見つかったみたいな扱いをされてるんだろうか?
―・―・―・―・―
こう言うちょっとベタな感じで女の子に『すごいです!』って言ってもうためだけのチートっていいよね?
てかハリスくん的にはお父さんとか親戚のおじさん目線の行動なんだけど普通に少女を口説いてるようにしか見えない罠(笑)
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