東へ西へ編 閑話 皇女の休日 その1
2話~3話ほどスティアーシャ殿下のお話が入ります♪
―・―・―・―・―
私の名はスティアーシャ。大陸のやや東に位置する『べイオニア帝国』の第一皇女である。
まぁ皇女などと偉そうに言ったところで女は女、所詮は政略結婚の材料でしか無いのだがな。
しかし、それでも皇女としての値打ちは有るので釣り合いの取れる相手でなければ嫁がせるわけにもいかないらしく・・・気づけばやや適齢期を過ぎた・・・いや、まだだ、まだ適齢期を逃してはいないはず!
私より2つ歳上の王国の王女も未だに嫁いではいないのだからな!!
そうそう、数年前にその王女の兄、王国の王太子に嫁がないかと言う話もあったのだがな?
見合いと言うか挨拶の席で『一手ご教授お願い致します』と剣の相手を申し込んで・・・疵痕が残らない程度にボコボコにしたら向こうから『貴女様のお幸せとご発展を心よりお祈りさせていただきます』と、丁寧な手紙が届いた。
いや、貴族たるもの、ましてや王族たるもの最低限の武芸くらいは身につけていると思うではないか!?
・・・別にあの男の外見も性格もまったく気に入りはしていなかったのでどうでもいい話なのだがな。・・・なのだがなっ!!
そもそもあれだぞ?年相応の帝国貴族の中に私が心惹かれるような者がまったく居ないのも問題ではないだろうか?
いくら戦がなくなって久しいとは言え毎日の稽古も怠るような男などどうしろと言うのか?
そうだな、強いて上げるなら王国の公爵家・・・確かキーファー家だったか?長男の『白狼』と呼ばれる男など良さそうではないだろか?
だって2つ名に『狼』が付いているくらいだ、おそらくはかなりの強者なのだろう。
はぁ・・・それにしても。
『帝国人なら女でも武芸くらいは身につけておかなければならない』
『どうせなら嫁ぎ先でもお飾りではなく政務の手伝いくらいは出来るようになりたい』
と、これまで私なりに頑張ってきたのだがな。
気付けばいつの間にやら『皇族一の変わり者』扱いされていた理不尽。
それならそれで別に?そもそも嫁になどまったく行くつもりもありませんし?
憂さ晴らしと言う訳でもないが帝国で、いや、近辺の国々でも類を見ない規模の巨大迷宮『深き者共の迷宮』で気の合う者らと探索者家業に励むことにした。
・・・これでさらに貴族だけではなく世間一般からも変わり者と認識される様になったのは言うまでもあるまい。
そして『このままこんな自由な生活が続くのも悪くないか』と思い始めた頃・・・上の兄がやらかす。
何を思ったのか北の皇国と結託して東のキルシュバウム王国と戦を始めようと言うのだ。
いや、馬鹿なのか?何のために戦などする必要がある?
だいたい皇国などまったく信用出来ぬのだが?
そもそも帝国は位置的に大陸の中央寄りにあり、交易だけでもそれなりの収入を得られる上に土地も肥沃で農作物の取れ高も悪くは無い。
つまり他国の領土など必要とはしていないのだ。
それなのに戦などすれば勝ったとしても負けたとしても当然のように隣国に警戒され、それらの国との交易に支障が出るだけではないか!
兄はそんな事も理解出来ぬほど愚か者なのか?
私、下の兄、そして現皇帝である父、さらに母まで集まり懸命に兄を諫めるも・・・聞き届けられず、それだけならばまだしも全員が軟禁されるしまう。
兄の甘すぎる考え、それに乗り出兵前から楽観的に浮かれ兄に従う貴族たち。
そして戦の結果は・・・敗北。
いや、大敗、惨敗と言ってもいい一方的な負け戦であったらしい。
軟禁を釈かれ戦後処理に走り回る2番目の兄。
そして皇女として少しでもその役に立とうと、頑張ろうとした私に告げられたのは
「王国貴族に嫁入りして欲しい」
との言葉。
ふふっ、結局私など要らぬと、人質程度の役にしか立たぬと、そう言うことか。
最初から皇女としての役目はわかっていたこと、今更何をか言わんやである。
わかりきってはいたが少々寂しいものがある。しかしこれもお国の為。
・・・そう思ったのだがな。
「・・・兄上、これでも私は皇国の皇女ですよ?その私に・・・他国の王族ならぬ貴族の側室として嫁げと?」
「ああ、いや、相手方の正室がな?何というか・・・『神』らしくてな。いくら皇女と言えどもさすがに神には勝てぬからな」
・・・ちょっと何を言ってるのかわからない。兄上・・・ここ最近の多忙で頭に支障でもきたしているのだろうか?
神?嫁が神?完全に理解と正気の範疇を超えているのだが?
もしや相手は気が触れているのか?
その正室について兄が知るところを詳しく聞くと・・・十にもならない子供と言うではないか・・・。
まて、ちょっとまってくれ!!私は幼女を神と崇めるド変態に嫁がされるのか!?
婿が・・・幼女趣味の変た・・・アレな男・・・。
あまりのことに目眩がしてそのままその場で倒れこみ、三日三晩寝込んでしまった。
いや、さすがに兄の言うことだけを鵜呑みにするわけにもいかないと思い直し、私も直々に情報を集め直す。
・・・正直集めなければ良かったと思った。
そう、聞こえてきた話なのだが
一代で子爵から侯爵まで成り上がった成り上がり者。
名は『ラポーム侯爵』と言う。
入れ替わり立ち替わり王国の大貴族に取り入り出世を果たした蝙蝠貴族。
気に入らない人間には平民であろうが貴族であろうが噛みつく狂犬。
国王の前で他国の使者を斬り殺した。
正室だけではなく血の繋がった幼女も侍らせている。
世話になった公爵家の幼女を弄んでいる。
その友人の王家の幼女にまで毒牙を伸ばそうとしている。
とりあえず幼女が大好き。
太っている、ハ○ている、若作りしているが本当は50代半ば、正室とは政略結婚で本当はミー・・・公爵家の次期当主の娘が一番大切なのです!、そんな事無いのよ?実は下の王女様が好きなのよ?、などなど・・・碌な噂がない。
感情を処理しきれずさらに三日間追加で寝込んだのは言うまでもない。
そして私はそっと置き手紙をして城を出た。
そう、私は、私はこれより皇女ではなく探索者として生きてゆくのだ!!
そんな傷心旅行ならぬ傷心ダンジョンに潜っていた私に・・・さらなる不運が訪れた。
数日泊まり込んだ迷宮の中層で見つけた高価そうな魔道具、それを仲間の一人が出口までもうすぐという場所で誤発動させ強大な魔物を呼び出してしまったのだ。
紅く燃えるような巨体を悍ましげにくねらせ、どれほどの名匠が鍛えた剣も槍もとおさぬ鱗で覆われた、それこそ物語の中で英雄と呼ばれる者たちが相手にする様な化物・・・ヒュドラ。
見ただけで解る、あのような魔物に私達の力が通じるはずもないと。
恥ずかしげもなく、近隣に居た探索者にも逃げろと声をかけ、文字通りの意味で這々の体でなんとか入り口近くまで全員、命からがらに逃げ帰りはしたものの・・・そこで私は新人探索者をかばい手足を失ってしまう。
もしやこれは、国を捨てた私に対する報いであるのだろうか?
仲間の助けもあり、命があっただけでも幸いな状況で文句などさらさらありはしないが。
ふっ、さすがにあのような変態でも手足の無い女を人質として嫁に迎えたりはするまい。
これで王国貴族、幼女趣味の成り上がり性悪野郎との結婚話も流れることだろう。
しかし捨てる神あれば拾う神あり。
そんな時、私の前に現れたのが彼――ハリスである。
いや、本人からは名乗られていないし私からも名を聞いてはいないのだがな?
彼の周りの人間が何度かそう呼んでいたのだ。
ハリス――不思議と、とても良い名だと思った。
応急手当はしたもののまだ予断を許さない状況だった私、その私の身を気遣い、自らも大怪我をしているにも関わらず助けを呼びに行った仲間が連れ帰ってきた彼。
どちらかと言えば優しげなそして頼りなさげな幼い面持ちを残す愛らしいその顔からはとても想像できない、どこからあふれてくるのかわからぬ安心感が側にいるだけでこの身に伝わってくる。
いや、いくら私よりも少し、そう、少しだけ年若いといっても男性、さすがに愛らしいなどと言えば怒られそうだな。
―・―・―・―・―
てことで唐突に始まる皇女様の乙女な回想会。
そして姫騎士様の情報工作にしれっと加わるちびシア殿下、さらにハリスだけでなくヴィオラにまで忍び寄る風評被害(笑)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます