東へ西へ編 その9 キング・ギド・・・ヒドラっ!!
「この非常時にお前にはお互いに助け合おうと言う心もないのか!!」
「それは自分が役に立つ人間だから言える言葉であって寄生する側の人間が言い訳に使う言葉では無いんだよなぁ。『お互い』の意味、知ってる?」
言い掛かりを付けてくる前に助けることによる何らかのメリットを提示しろと小一時間。
そして言葉の通じない連中ってのは『怒鳴りつける』の次の行動は『暴力に訴える』ことだったりするのは洋の東西を問わないのだろうか?
もちろんそんな連中の狼藉をサーラが許すはずもなく、剣を抜き放って物凄い殺気を放って睨みつけている。
「いや、何なのだ卿の護衛は・・・先程鎧を着込む前に見たがまだ若く美しい女性だったよな?迷宮の底にいる魔物が眼前にいるのとなんら変わりない威圧感を感じるのだが?」
「まぁくぐってきた修羅場も倒してきた敵の数もそのへんの探索者とは桁が、文字通りの意味で二桁も三桁も違いますからね?」
「どこの修羅の国から出てきたんだその娘は!?今の彼女を正しく表現する言葉があるとすれば・・・キチ○イに刃物?」
「この皇女、ちょっと元気になった途端に人の嫁に物凄い失礼なこと言い出しやがったぞ!?」
ちなみに回復魔法を使っているにも関わらず『血が流れ出た分は補充されないのでしばらくは安静にしてくださいね?』などと言うような制限は存在しないので彼女の体調はいつも通り、むしろいつも以上に元気である。
「てかサーラ、偉いぞ!今日はちゃんと無言で斬りかからずに我慢出来たんだな!」
「それは褒めることなのか!?そしてその娘、普段はすれ違いざまに斬りかかったりするのか!?」
「はい閣下!物凄く頑張りました!でもそろそろ我慢の限界が近いです!なので皆殺しの許可を!」
「こいつはこいつで物騒すぎるだろう!?物凄く頑張ってその沸点の低さはおかしすぎるからな!!」
お姫様なのにえらくハイテンションだな皇女殿下。
いや、うちの王族もだいたいこんな感じだしこれと言って違和感はなかったわ。
「てか室内が血生臭くなるから皆殺しは止めておこうね?」
「はっ!閣下が表に出られるまで我慢します!」
「そう言うこっちゃねぇよ・・・」
「何なんだこの付き合いたての恋人同士の様なホンワカした雰囲気を醸し出してるのに背中を流れる汗が止まらない危険物は・・・」
そうこうしてるうちに(皇女殿下と遊んでる間に?)黒馬車を回送してきたメルティスが到着。
当然こちらも普段着のままだと危険なので急いで鎧と着替えさせる。
「おい、その鎧はどこから出したのだ?そして漆黒の鎧が2体になるとそこに存在するだけで凄まじい圧だな・・・」
てかお外では何があるかわからないから今後屋敷以外では何があろうと絶対に2人の鎧を脱がさない様にしようと誓った15の昼。
そしてメルティスが着替え終わった後に最後の1人がやっと到着。
「かっ・・・はっ・・・げほっ・・・水っ・・・ちょっ・・・と、さす、がに、置き去りにする、のは、酷すぎなんじゃないかな!?」
「おっ、遅かったなエオリア。あれだぞ?ちゃんと日頃から鍛えておかないといざという時に大変な目に遭うぞ?」
「その通りです!帰ったらオッサン卿に頼んで最低限の装備で迷宮に放り込んであげましょう!大丈夫です!死ぬ前に回復させれば死ぬことはないので!」
「そんなちょっとした手違いで死んじゃう様な鍛え方は嫌だ!!」
なかなかの破壊力だな『オッサン卿』。
ちなみに到着したすぐで申し訳ないけどエオリアには専用装備を用意して無いので安全面を考えて黒馬車の中で待機しておくように。
だってほら、さっきから建物の外がどんどん騒がしくなってるしさ。
治療の済んだ(でも装備品がそこそこボロボロな)皇女殿下御一行が少し表情を変えて表に飛び出す。
別に俺もギルドに用があるわけじゃないのでそれに付いて外に出ていくことに。
「チッ・・・思った以上に門が早く破られたな・・・」
「あれだけの大きさの亜竜が相手ではさすがに帝国最精鋭の迷宮防衛兵と言えども・・・」
「クッ・・・我らにもう少し力があれば・・・」
「閣下・・・とても・・・大きいです・・・あんなのが(街の)中であばれたら・・・すごいことになっちゃいそうです」
「無駄に言い回しがエロいな!」
「まぁあれくらいなら迷宮を潰して回ってた時に何度か相手したことのあるサイズだがな!」
無駄に悲壮感を漂わせる皇女御一行と気を抜きすぎな俺御一行。
「ああ、そうそう、そちらのわん子の願いを聞いて殿下を治療いたしましたのでその報酬として預からせてもらいますけど問題ないですよね?」
「わんこ?・・・ああ、ケーシーの事かな?ふむ・・・まぁ本人がその様な契約をしたのならもちろん構わないが。卿、どうせならもう1人2人閨(ねや)に侍る美女が増えるとかどうだ?」
いや、もちろんわん子にエッチな事をするつもりはないんだけどね?モフり倒したいだけで。
部下がそう言う約束をしたことに対して皇女殿下がどう言う反応をするのかちょっとだけ興味があってさ。
そして結果・・・思ったよりも淡白な反応だった。
いや、淡白な反応でもないな、少なくとも自分と残りのメンバーも餌にして俺に協力させようとしてるし。そのへんは流石にお貴族様だなぁ。
でも街を救うために身を投げ出すだけの覚悟が出来るお姫様はなかなかいないよな。
「ふっ、私はこう見えて量よりも質を優先いたしますので」
「ふふっ、質の面で言うならば私以上の女などそうはおらぬぞ?『王国の紅玉アリシア』『皇国の白雪セルティナ』そして『帝国の黒薔薇スティアーシャ』。聞いたことくらいはあるだろう?」
聞いたことがあるどころか赤い人は嫁ですし白い人もあわよくば押し付けようとされてますが何か?
そう言えば最後の1人も押し付けられてたわー・・・。
てか『王国の紅玉』ってなんだよ、日本人が紅玉で頭に浮かぶのは林檎だけだよ、帰ったら思う存分からかってほっぺを林檎色に染めてやろう。
「帝国内だけでも私の他に」
「いらないです!その情報はいらないです!心の底からいらないです!あとご自分から名乗られてますけどお忍びとかじゃないんですかね?」
いらんことを言おうとするな!『元』だけど勇者だからなのか名前が出てきた人物とは何かしらの関わりを持っちゃう体質なんだから!
これ以上の出会いは求めてないんだよ!現状でもすでにおかしなことになってるんだから!
そして俺と君はどうしてこんな場所で出会ってしまったのだろうか・・・俺、もうこれから寄り道なんてしないようにする・・・。
「お、おう・・・何だ、卿は麗しい乙女は嫌いなのか?」
「もちろん心の底から大好きにきまってんだろうが!!」
でも俺の器はもういっぱいいっぱいなんです!
・・・でもおっぱいは少し不足気味な気がします!
だ、大丈夫、みんなまだ成長するはずだから!
「そこまで力説されても困るのだがな・・・。さて、時間が許すならこのままいつまでも卿と軽口をたたき合っていたいのだが・・・あの化物の処理は帝国精鋭を持ってしても荷が重いようだからな。我が命を救ってくれた名も知らぬ青年に感謝を。・・・そしてその行為を無駄にしてしまう事に謝罪を」
俺の方にそっと近寄る皇女殿下。うん、風呂上がりでもない、むしろダンジョン上がりの筈なのにとても良い匂いがする。
惜しむらくは鎧を着込んでいるので身体の柔らかさが伝わらないところだけど。
彼女の顔がゆっくりと近づいてくる。そして瞳を閉じて口づけをかわそうとする柔らかそうなくちびるを・・・。
「どうして受け流した!?あれだぞ?皇女様のファーストキスだぞ!?」
「いや、だってそういうのは結婚してからしかしちゃ駄目だって教育されてますので」
皇女のパーティメンバーのムチムチ太ももさんが『よwけwらwれwてwるwwww』とか言いながらお腹をかかえて大爆笑してるけど気にしてはいけない。
「もう!お前は!もう!!・・・ふふっ、せっかく見どころのありそうな男と出会えたのに・・・二重の意味で口惜しくはあるが、達者でな!!」
「まぁそう言うのは雰囲気に流されてではなく惚れた男としてください。・・・はぁ、まったく・・・サーラ!メルティス!こちらのお姫様方の護衛を!」
「はっ!畏まりました!!」
「了解した!!」
・・・あれだ、せっかく助けたお姫様だし?嫁にはいらないとしても美人さんにまた大怪我でもされたら二度手間だし?あまつさえ死んじゃったりしたら世界の大損失だし?
べっ、別にあんたのことが心配だから助けてあげるわけじゃないんだからねっ!!
崩れ落ちた門の向こうで瓦礫を押しのけながらゆっくりとこちら、街に向かって歩き出そうとする化物――九つの首をのたうたせた真っ赤なヒュドラ。
そちらに向かって飛び出していこうとする皇女パーティを押し留め・・・同じ様にゆっくりと歩く俺。
「ふんっ、面白みのないどノーマルなヒュドラが偉そうに大きな顔してるんじゃねぇよ。そもそも俺の地元じゃ9本首よりも8本首の方が有名なんだからな。悔しかったら尻尾から剣でもだしてみやがれ」
全力の威圧を魔物にぶつけながら腰に差した剣をスラリと抜き放ち――巨大なヒュドラに向けて・・・駆け出す!
・・・
・・・
・・・
「疲れた!マジ疲れた!超疲れた!なんなのあいつ!何となくそうじゃないかな?とは思ってたけどさ、斬る度に首が増えやがるの!いや、そもそも斬り口から二股になって頭が増えるとかどういう生き物なんだよ!プラナリアとかフタナリアとかそう言う感じのアレか?あと途中からちょっと楽しくなって最大で何本まで増えるのかたしかめてやろうと頑張ったのにウネウネ動きやがるから最終的な数がわからなかったよ!」
「いや、そんなことよりも数十本の竜の首でスキ無く攻撃してくるヒュドラを何の危なげもなく倒し切るとか卿こそどうなっているのだ!?あとそこらへんに撒き散らかされて赤黒い霧になっていたヒドラの猛毒はどうやって防いだんだ!?ていうかヒドラを倒したあと魔法か何かで巻き散らかされた毒の浄化もしていたよな!?何なのだ?卿は司祭なのか?剣士なのか?魔法使いなのか?賢者なのか?」
ヒュドラ君、首を斬った時に切り口から毒の血を撒き散らして霧とかも発生させてたけど・・・ほら、俺って孤児院出身じゃないですか?
当時食中毒が怖くて毒耐性を上げてたじゃないですか?それが今は最大までそだってるじゃないですか?
そう、まとめると『孤児院最強』ってことだな!
「さすがです閣下!まさに鎧袖一触!」
「いや、そこそこの時間かかってたと思うんだけど・・・ありがとう?」
「あの程度の魔物、私の夫なのだから倒せて当然だがな!・・・でも次からは一人で危ない真似はしないでね?」
「そうだな、次からはメルティスも一緒に戦おうな?」
「メルさんずるいです!私も吶喊したいです!」
「そもそも危なそうな相手だったら遠距離から街ごと木端微塵にする勢いで攻撃するんだけどな!」
「いや、街を破壊するのは勘弁してもらいたいのだがな!?・・・この身だけでなく街まで守ってもらった礼を私は卿にどのようにして伝えればよいのかな?」
「まぁただのアフターフォローと気まぐれだから素材を全部回収させてもらえたら問題ないよ。ちなみに鱗一枚でも盗む奴がいれば連帯責任で近隣を焦土にするけど」
「魔物より物騒な奴だな!?」
―・―・―・―・―
わけると勢いがなくなるのでちょっと長めになっちゃいました・・・。
そしてアリシア殿下に新しい二つ名が増えました(笑)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます