東へ西へ編 その8 ここに来てまさかの!?

「そこの馬車、止まりなさい!!」


一体何事かと大通りを歩いていた人々が注目する中、いきなり黒馬車の前に飛び出してきた人影、女がそう叫ぶ。

ちょこっとだけそのまま轢き潰してしまうことも視野に入れていた俺・・・その女の顔と体つき、主に尻を見てエロオヤジ然としたニンマリした表情を浮かべた後で慌てて表情を取り繕ってからゆっくりと馬車を降りる。


「馬車に跳ねられたいのか?それとも無礼を咎め斬り殺されたいのか?」

「い、いきなり馬車の前に飛び出した無礼は謝るし後でそれ相応の謝罪もする!だが、どうか・・・どうか手を貸して欲しい!迷宮でわが主と友人が大怪我を負ってしまったのだ!組合では応急処置をする程度の人員しかおらず・・・なのでこの街の奥にある光神教の大神殿まで早急に移送して欲しいのだ!!」

「・・・」

「も、もちろんタダで使おうなどとは思っておらぬからな!?わが主はこの街、いや、この国でも名を知られたお方、治療さえ間に合えば恩賞、褒美は思いのままだと思ってくれ!!」

「・・・」


慌てた表情で、眼前でそうまくし立て叫ぶ女、そしてそれをじっと見つめる俺。


「どうだ?悪い話ではないだろう!?返答やいかに!!」

「うん?ああ、すまない、そうだな、とりあえず一言・・・どうして語尾が普通なんだよっ!?」

「い、いきなりどういった理由で妙な絡まれ方をしているのだわたしは!?」


黒っぽい柔らかそうな銀髪と少しキツそうだが整った顔立ち、薄汚れて疲弊してはいるがその野性的な美しさは全く損なわれていない。

そして筋肉質そうな身体を包むのは動きやすそうな・・・何かの魔物素材だろうか?行動をあまり妨げないように作られては居るが強度が落ちている様にも見えない上質な皮鎧。

よく見なくともその鎧の破損した部位、彼女の身体もそれなり以上の負傷をしているらしく血が流れているようだ。


てかこれだと俺が『見目の良いお姉ちゃんが飛び出してきたから気が変わって助けようとしたただの女好き』または『相手が怪我人だったから車を降りてきたちょっといい人』みたいに見えるけど・・・決してそんなわけじゃないんだよ?

俺、怪我人でも轢き○す事に躊躇しない男だし?

うん、自分でもなかなか・・・これ以上無いほどの好感度ダダ下がり発言で有ることはみとめる。


ならどうしてこの女性を見て(ニマニマしながら)馬車を降りたのか?

そう、それは彼女のお顔と言うかお体と言うかさ。

その頭には三角形のお耳、さらにお尻にはフサフサとした長い尻尾。

そう、まさかのこの世界で初めて見る『獣人さん』だったのだ!!


いや、まだ現時点ではただそう言うコスプレしてるだけの奇特な趣味の人って線も消えてはいないんだけどさ。

でもそれはそれで尻尾の根元部分をどこにプラグインしてるのか・・・僕、気になります!


「ふむ、とりあえずその君の主人とやらは俺が責任を持って助けよう。そして報酬だが見てもらった通り金には特に困ってはいない、そしてとても君に興味がある。・・・ここまで言えばわかってもらえるかな?」


爽やかなスマイルで眼の前の女性――仮称・わん子に微笑みかける俺。

とりあえず治療費として耳の匂いを心ゆくまでクンクンした後尻尾のブラッシングでもさせてもらいたいんだけど?

てか、何故かわん子に一歩後ろに飛び退り両手で胸を隠すポーズをされたんだけど・・・どうしてなんだろうか?


「き、貴様っ!そこまでこちらの足元を見てくるのかっ!?・・・くっ・・・いいだろう、もしわが主が助かったならばこの身如何様にでも好きにすればいい、だが、もしも」

「よし、話はまとまったな!では早急に現場まで案内、否、あないせよ!ハリー!ハリー!ハリー!GOGOGOGO!!」


こちらの勢いに押されてと言うか俺の発言に完全にドン引き状態のわん子。

だからどうしてそんな苦痛と恥辱と少しだけ喜びの入り混じったような何とも言えない顔でこちらを睨みつけてくるのか?

ハッとした顔になりこちらに背を向けて駆け出すわん子の後を走って追うのはもちろん俺・・・とサーラ。


メルティスは黒馬車の運転席に乗り込み安全運転でさらにその後ろを付いてきている。

エオリア?イマイチ状況が飲み込めずポカンとしてたら置いていかれたみたい。

いや、乗せてあげて!エオリアも馬車に乗せてあげて!彼は運動能力がそれほど高くないのっ!



さて、わん子が向かう先は・・・たぶんだけどこの街にあるくそデカい迷宮の入り口方面かな?

高い防壁に設えられた頑丈そうな門を3枚ほどくぐった先にあるそこそこ大きな建物、おそらくは組合――探索者組合であろう建物の玄関ホールの様な場所に入っていく。

ちなみに広い道路の奥にはさらに高い壁と鉄で出来た格子様の門、その中からここまで聞こえるほどの喧騒と怒号が飛び交っているから何らかのイベントの真っ最中なんだろう。知らんけど。


うん、あの門が喧騒の原因に突破されたら危ないよね?ほら、サーラも、まだ到着してないけどメルティスも現状普段着みたいなもんだしさ。

これはアレか?この街に俺を誘い込んで亡き者にしようという帝国の罠っ!?・・・なわけないよな。

てかさ、なんかこう言う感じの流れに物凄く覚えがある気がする。


あれだよね?一番最初に起こる感じのヒロインとの強制的な出会いイベント。


「まぁそんなことよりもちょこっと危ないかもしれないしサーラ、至急鎧の着用を」

「はっ!!・・・でも私一人では着替えられないです!!」


全身鎧だし仕方ないね?普段はメルティスと2人で着せ合いっこしてるもんね?

よし、今日はおっちゃんがお着替えさせてあげようね?

もちろん着替えと言っても服の上から鎧を着せていくだけなんだけどさ。


「いや、その様な事をしている場合では無いだろうが!?早く、早く主を運び出す手伝いをしてくれ!!」

「はぁ?こんな危険な所に素肌を晒した嫁を置いておける訳がないだろうが!赤の他人とうちの愛らしい奥さんとどっちが大事なのかくらい理解しろぶち転がすぞ!?」


いきなり理不尽極まりない内容で叱られてあっけにとられるわん子を放置してちゃちゃっとサーラのお着替えを済ませる。

いや、ちゃんと怪我人の様子を先にみて直ぐに死ぬような状態じゃない事を確認してからだからね?

俺だって普通に命の危険がある相手だったらそちらを優先するくらいはする・・・こともあるからね?


もちろん着替え終わったサーラが先程の門の向こうに応援に向かうなどと言うことはなく俺の少し後ろで普段通り護衛に付いている。

ここが帝国だからと言うわけではなく王国で同じことがあっても俺の命令が無ければ絶対に動かない子だからなぁ。

そしてわん子、何か勘違いしてるみたいだけど搬送の必要とかないから。


「さて・・・そちらの主さん?手足がぐちゃぐちゃと言うか3本ほど無くなってる割に意識もしっかりしてるし死にそうにも無いのは応急手当が優秀だったのかな?」

「ふっ、この姿の女を目の前にして手足が無いなどと軽く言ってくれる・・・」

「まぁそんな姿でも美しさと高貴さが滲み出てるんだから大したもんだと思うけどなぁ」


「ふふっ、まさかこの様な姿の女でも見境なく口説く男に出会うとは思わなかったぞ?どうだ、そこまで言うなら最後に抱かれてやろうか?」

「はやく!はやくはこんでっ!!」

「わん子、ステイ。そもそも最初に『運ぶのを手伝う』じゃなく『助ける』って言ったよね?あと最後とか縁起の悪そうな発言は禁止な」


切迫した状況の筈なのに出会った頃のメルちゃんを思い出すわん子の言動にイマイチ危機感が持てない俺、そしてなかなかの男前発言をかましてくる女性。

さすがにこれ以上わん子がテンパると可哀想なので主さんの手当に入ることにするか。

かなり久々の本格的な治癒魔法を寝転んでいる女性に発動させる。


・・・どう考えてもやらかしたよなこれ。どうして魔法ではなく光の魔水晶を使わなかった俺・・・。

光輝く女性の全身。そしてゆっくりと無くなったはずの手足も形作られてゆく。


「なぁっ!?あ、あるじの・・・傷がふさがって・・・いや、魔物に食いちぎられた手と足まで再生されてゆく・・・だと!?」


特に俺が観察しておかないと治療が進まないわけでも無いので待ち時間の間に大きく口を開いたままのわん子と(おそらくは)そのパーティのメンバーの治療も済ませておくことに。

・・・何故か皇女殿下が離れないので抱えたままで。


てか女の子ばかりのパーティなんですね?その無防備にさらけ出された筋肉質なお腹と太ももはとても良いものだと思います。

これまでの成り行きに唖然とした顔で治療の様子を見つめる人々。

そしてその連中が我に帰った時の反応といえばもちろん


「あ、あんたっ!次はこっちだ!!」

「そっちは大した怪我じゃないだろうが!!こいつを先に頼むっ!!」


何を勘違いしているのかわからないがその辺の怪我人、探索者連中が治療の催促をしてくる。

もちろんそんな相手に対する俺の反応はと言えば


「えっ?普通に嫌だけど?」

「なっ!?どうしてだ!?お前は俺たちを助けに来たんだろうが!!」


何を勘違いしているのかわからないが俺がお願いされたのはわん子の主人の治療のみだ。

それに俺、最低限の礼儀もなっていない相手に対して気遣いや施しをするほど聖人君子でもないしね?

てかわん子のご主人さま、治療の前に名前とか見ちゃったんだけど・・・普通に知ってる人だった。

いや、会ったことは無いから知り合いってほどでもないんだけどね?


そう、帝国の『アノ人』だったんだ・・・。


―・―・―・―・―


週末金曜土曜とお出かけで更新が遅れました・・・申し訳ありませんm(_ _)m

そしてそんな時に限って携帯(a○)は一日中通話障害で連絡手段に公衆電話探さないといけないわ、電車は謎の遅延で30分ほど待たされるわと踏まれたり蹴られたりと言う・・・。


てことでここに来て獣人さん&『アノ』方登場!

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