東へ西へ編 その7 異世界当り屋

2人も無事に戻ってきたしそのままお家に帰ってしまおうかと思った俺と愉快な仲間たち(主に俺)。

でもほら、確かに無事に戻ってきたけれども・・・お使い(御遣い?)は達成出来てないないと言うジレンマ。


「てことでエオリア、もう一度帝都まで行ってきてくれないかな?」

「君、僕一人で徒歩で行かせようとしてるよね?」

「そ、そんなことないじょ?・・・いや、冗談はさておいてどうするべきだと思う?」

「何そのわざとらしい噛み方。んー・・・もう一度使者を出すか、向こうから何か言ってくるのを待つか、このまま向かうかの三択だよね?」


「それはわかってるんだよなぁ」

「て言うか君の性格的にはもう一度同じことをするってのは面倒くさがりそうだし、待つのは向いて無さそうだし、実質このまま行っちゃうの一択なんじゃないの?」

「いや、そうなんだけどさ。てかちょっと行動を理解されすぎてて気持ち悪ぃんだけど?」

「言い方が酷い!?」



てことでメルティスとサーラに先導させ、黒馬車の助手席にエオリアを座らせて帝都方面に走り出す・・・15の秋。

もちろん馬車は窃盗した物ではないし目的地は決まっているし器物破損もして回らないので念のため。

てか男友達とワイワイ言いながらドライブとか普通に楽しいなこれ。


「でもやっぱり隣には女の子が座ってる方がいいなぁ。あと中途半端にエオリアからいい匂いがするのがイラッとする」

「親しき仲にも礼儀を持って?あと匂いは君に貰った石鹸と洗髪剤のモノだから君も同じなんじゃないのかな?」


いや、各お姉様毎に使ってる香料が違うからご家庭によって匂いも違うんだよ?

男物と女性向けでも変えてるし。

だってほら、おっさん連中とお姉様が同じ石鹸の匂いとか気分的に物凄く嫌じゃないですか?

もちろん奥さんの分も特注なのである。シャンプーはマ○ェリ系の甘い匂い。


さて、特に寸刻を争うほど切迫した状況でもないのでのんびりとした馬車の旅。

よくよく考えるとエオリアが運転すべきではないかとも思うけど運転できないので仕方ない。

てか王国の田舎よりも帝国の田舎の方がずいぶんと道が良いんだよね。

だからのんびりって言っても平均時速にすると40キロはラクに超えてたりする。


時折りすれ違う帝国商人の馬車や帝国農民の荷車に驚かれながらもいくつかの村や町の近くをを通り過ぎてやっききたのは


「あそこが帝国第二の都市と言われる『迷宮都市チェルヴォ』だね。街の名前の通り、迷宮を中心に成り立った――そうだね、王国で言えば北都の迷宮を100倍くらい大きくしてそれにおんぶにだっこな経済状況って感じの街って感じかな?産物は迷宮産の無属性を中心とした魔水晶や迷宮内の魔物の素材、そしてたまに入手出来る金銀財宝や魔法の武具などだね」

「いきなり詳しいな。まさかのエオペディアさんだったの?・・・つまり俺が迷宮の踏破をしてしまえばこの街は一気に傾くわけだな?」

「これでも王国一の交易都市の出身だからね?色んな書物も読んでるし色んな情報も仕入れてたさ。そして君が言うと迷宮攻略も冗談にならないんだよねぇ・・・」

「能力的にすきの無い男前とかシネばいいのに。そして特に冗談でも無いんだよなぁ」


まぁ好き好んでそんな底の見え無さそうな深いダンジョンに長期間引きこもるなんてまっぴら御免なんだけどさ。いや、もちろん潜っても日帰りするけれども!

でも何かの際には細かい嫌がらせに使えるかも知れないことだけは覚えておこう。

そして話の流れ的に『おっ、今日はこの街で泊まるんだな!』とか思われちゃってるかも知れないけど・・・それで合ってる。


もちろん普通の貴族と言うか外交使節ならこの街の領主に先触れを出して館で歓待してもらったりするんだけどね?

個人的には特に望んでもいないし時間の無駄なので宿に泊まる事にする。


ああ、当然少し離れたところで護衛2人のバイクとか背中にたなびく王国旗とかラポーム家の旗とか黒竜鎧とかは時空庫にしまっておいたからね?

2人とも剣だけは頑なに離さなかったからそのままだけど。

なので装いもそれに合わせてドレス姿ではなくベ○薔薇チックな軍服である。


『てか黒馬車は乗ったままでいいのか?』って?

そもそも街の中に入ってからも結構な移動距離があるんだから徒歩とか・・・無理。

馬車だけなら『そう言う魔道具』だってことでどうにでもなるだろう、たぶん、きっと、知らんけど。


城塞都市の名に相応しい大きな城門の前で思ったよりも出入りの少ない人の流れにまかせて門兵の前までたどり着く黒馬車。


「これは・・・鉄の馬が牽く馬車なのか?」

「そうです!見聞を広める為に旅をしてます!(王国の)南の方(南都)から来た(領主)見習い的な感じのアレです!」

「元気でお気楽な奴だな・・・南国(商国)の(商人)見習いか。いや、こんな馬車を持たせてもらえるのだからどこかの大店の跡継ぎか・・・。まったく、このご時世に気ままな旅とは良い御身分だな。馬車の中を改めさせてもらうが構わないな?」

「構いますがどうぞ!」


「構うのか!?まぁ馬車の中を進んで見せたがるような人間もいないだろうから・・・おおお!?こ、これは・・・お美しい淑女がお二人も乗っておられたのか・・・」

「2人とも私の嫁です!」

「いや、別に聞いていないがな!?・・・金持ちの上に絶世の美女が2人も嫁だと?さては隣の男も愛人か?なんとも羨ましい・・・特に危険な物の持ち込みはなさそうだな?他国の人間は入領税として1人に付き銀貨1枚、馬車1台に付き大銀貨2枚を徴収する事になっている。特に大きな荷物も無さそうだから関係ないかもしれないが領内での商取引には1割の市場税がかかるので覚えておくように!」

「はーい」


て感じで特に絡まれることもなく無事に門を突破。

常識に照らし合わせるなら隣の男はどう考えても使用人とか丁稚だろう・・・あと何が羨ましいのか・・・もちろん知りたくはない。


「危険物は出してはいないけど危険人物なら3人ほど乗ってたんだけどねぇ」

「えっ?エオリアも危険な人なの?」

「どう考えても僕じゃなくて君だよね!?」


そして消費税が10%・・・と。

いや、街中での普通のお値段に対して商品の仕入れに来た他所者だけさらに追加で取られる感じかな?

税率的には思ったより良心的かもしれないな。

そもそもダンジョンの産物を売らないと経済が回らない街だもんね。


とりあえずは多大に目立ちながらも馬車から降りたエオリアがお姉さんやおば・・・お姉さんに話しかけて情報を仕入れてくれた宿、この街では一番の高級宿に向かうことに。

観光地でもあるまいし――いや、ある意味観光地なのか?――そんなもの誰が使うんだとも思わないでもないけど稼いでいる探索者が使ってるんだろう、たぶん。


流石に他所の国で交通事故をおこすわけにもいかないので安全運転で進んでいると・・・人影がいきなり馬車の前に飛び出してきた。



てかマジ危ねぇなこいつ!!

まさかの異世界当り屋か!?


―・―・―・―・―


Q :一緒に馬車に乗ってるのにメルちゃんとサーラ嬢が静かすぎない?

 A:いや、ほら、黒馬車って普通の馬車とは違ってキッチリ運転席と後部車両が区切られてるから会話ができないじゃないですか?


Q:そもそもそんな説明あった?

 A:あった・・・はず?(自信はないらしい)


普通の馬車が『御者席と後部座席』だとしたら黒馬車は『コクピット(運転席部分)と連結数の増やせる客車』なのです!

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