東へ西へ編 その6 伊達じゃない幸運帝

トンネルの開通から早くも・・・2日。うん、まさに昨日の今日だな。


「無理しない範囲でいいからね?何かあればすぐに帰ってくるんだよ?お弁当とハンカチは持った?お腹は痛くない?お小遣いは大丈夫?」

「大丈夫だ、大丈夫だからお前は少し落ち着け」

「閣下がお母さんみたいです!」


てな感じで昨日メルティスとサーラを送り出したは良いものの・・・何か突発的な事故にでも遭っていないかと落ち着かないこと火の如し。


「洞窟、じゃなくてトンネルの出口で一日中ウロウロするの止めようよ。なんなの?君は冬眠明けの熊なの?」

「ちげぇし、別に便秘(冬眠明けの熊は肛門に栓が出来るらしい)で悩んでるわけじゃねぇし、蜂蜜(食べると栓(そうだね、う○こだね)が柔らかくなるらしい)もいらねぇし」

「そもそもそこまで心配するなら君も最初から帝都まで付いて行けば良かったんじゃないの?」

「それはそれで向こうに王国貴族の腰が軽いと舐められるかもしれないじゃん?あと第二皇子に『私によほど会いたかったんだな!』とか思われたりしたら俺が物凄く嫌な気持ちにになるし」


「いや、聞く所によると君、皇子が王国に交渉に出向いてきた時結構な脅かし方したらしいよね?」

「脅かしたとか人聞きが悪いな?ちょっと性格の不一致が露見したから処そうとしただけだし」

「そんな軽い感じで他国の王族が殺されたらたまったもんじゃないと思うんだよねぇ・・・」

「ふっ、時は戦国乱世だからな!そんなことは日常茶飯事なのだ!」


ちなみにもうお気付きの通り本日一緒にいるのは俺の『友人A』ことエオリアである。

おそらく南都で一番忙しい人間であるはずのエオリアがこんな出来立てのトンネル(ダンジョン)の出入り口で何をしてるのかって?

それは


「てかさ、朝から収穫物の回収に出向いた俺にいきなり泣きついてくるとか一体何事なんだよ?」

「いや、まぁ、その・・・ね?色々とあってさ」

「まったく、浮気どころか子供まで出来てたとかちょっと同情の余地無しって感じだよな!」

「どうしてそんな細かいところまで知ってるのさ!?」


もちろん俺と一緒に南都に訪れていたドーリスが別行動で南都のお城勤務のメイドさんに聞き込みをしたのを報告されたからである。

あれだ、一緒に南都に引っ越してきた昔からのエオリア付きだった古参メイドさんに部屋住みで無くなったエオリアの気が緩んでついつい手をだしちゃって見事ご懐妊させてしまったというお貴族様にはよくある話だな。

問題は『婚約者に報告する前にバレてしまった』事と俺が見た感じでは大人しそうなイメージしかなかった婚約者さんが『物理的にエオリアよりも強かった』らしいこと。


「とりあえず逃げる前にちゃんと謝罪しないとダメだぞ?痴情のもつれは先延ばしにするほどに拗れるものだからな!」

「僕と出会った頃の君も複数のご令嬢から逃げてたよね?ちなみにうちの婚約者様、二つ名付きで『血まみれのレスティアナ』って呼ばれてるんだよ。もちろん本人の血ではなく返り血でね?」

「何それ怖い・・・。てかどうしてそんな女性と婚約したんだよ・・・」


「だって少し前までは僕自身の出世や栄達なんて想像出来なかったからさ。跡継ぎの居ない男爵家のご令嬢、それも年頃の娘さんってかなり貴重なんだよ?いや、もちろん僕が彼女のことを愛してるのもあるんだけどね?怒らせなければ彼女以上に素晴らしい女性は東都周辺の貴族令嬢には居ないくらいだからさ。まぁ少ししたら怒りも収まるだろうし、それまでは僕の面倒はちゃんと君がみてね?」

「いい歳した歳上男子の面倒とかどうして俺が見なきゃいけないんだよ・・・」

「それはもちろん寄り親だから!」


いや、寄り親でもさすがに浮気の面倒までは見ないんじゃないだろうか?

まぁそんなこんなでエオリアと2人、ダラダラとトンネルの前で朝飯を食ったりしながら過ごしているとお昼前くらいに見慣れた黒い物体が2つ、高速でこちらに向かって近づいて来た。


「ハリス、今戻ったぞ!あれだな、帝都と言っても大したことはないな!お前の設計した南都の方がよほど広大だったぞ!」

「閣下、寂しかったです!早急に抱きしめてぽっかりと開いたこの心の穴を塞いでください!そしてそのまま抱いてください!」

「サーラ!?そ、それはズルいだろう!!ハリス、私も!私もいっぱい・・・ぎゅってして?」

「はいはい・・・2人ともおかえり。帝国では何も無かったかな?嫌がらとかナンパとかしてくるような貴族とか居なかったかな?少しでも嫌な思いをしていたらちゃんと言うんだよ?帝都と皇都に抗議でちゃんと質量を伴った大量の隕石を落とすからね?」


後の『遺憾の意(メテオストーム)』である。

ちなみにこれが『あいうえお作文』だと『遺憾のか』と『遺憾のん』の2発が残っていると言う。

うん?皇国が巻き添え?日頃の行いが悪いと諦めてもらおう。


「いやいや、その鎧姿の2人を見て声をかけてくる様な人間は絶対にいないと言いきれるんじゃないかな?あまつさえ喧嘩を売ってくる人間は気が触れてると思うよ?」

「いやいやいや、何なの?エオリアにはこの鎧姿の2人から滲み出てくるセクシーさが伝わらないの?艶っぽいだけじゃなくてこの愛らしさがわからないの?」

「滲み出てるのは愛らしさではなくて邪悪さと威圧感だけなんだよなぁ・・・」


失礼な事をのたまうエオリアは一旦置いておくとして、むしろここに置いて帰るとしてお使いから帰ってきた2人を力いっぱい抱きしめる。

うんうん、無事で良かった。今晩は3人で心ゆくまでいちゃいちゃしようね!

なんて思いながら2人から報告を聞いてたんだけどさ・・・。


「えっと・・・親書をお城の玄関先どころか門の外に置いてきちゃったと?」


「だ、だって・・・門番が『その剣をこちらによこせ!』とか言ったのだぞ?ハリスに貰った剣を他人に手渡すなど・・・そんなこと従えるわけがないだろうが!」

「それは確かに・・・これはもう一度城ごと絞めるべき案件では」

「いやいやいや、ごくごく普通のことだからね?王国でもお城に入る時は城門で武器などは預かるでしょ?」

「・・・確かにそうかも?」


「それから門の外で大量の兵隊さんに囲まれました!まったく強そうな相手は居ませんでしたけど数だけは多かったです!」

「それは・・・今度こそ一度帝都ごと絞めるべき案件では」

「いやいやいや、君、王城でも同じ目に遭ったことあるはずだよね?黒馬車で初登城しようとした時にさ。普通はその2人がいきなり現れて武装解除しなければ死を覚悟した上で周囲を囲むよ?」

「・・・確かにそうだったけどさ」


「あれだ、馬・・・バイクもこちらに寄越せと言われたのだぞ!ハリスに貰った嫁入り道具なのに!」

「それはもう完全に国ごと絞めるべき案件だよな?」

「いやいやいや、馬だと思ったなら預かって厩に入れるでしょ?君は城内で馬を連れ回してる他国の貴族とか見たことがあるかい?」

「・・・確かにそう・・・なんだろうか?」


なんだか少々腑に落ちないモヤッとした気持ちになるハリスだった。


―・―・―・―・―


たまたまハリスと共に行動していたエオリアが出来事の一般的な解釈をしてくれたおかげで国難を回避出来たヴィルヘルムであった。

そう、幸運とは他人の不幸(エオリアが婚約者に絞められる)の上に成り立っているのだ!(キリッ)


そして前話の誤字『死者』があまりにコメント欄でバズってるので文字だけ修正しちゃうのも勿体ない気がして少し変えて修正(笑)

てかほら、そっちよりも皇子がハリスくんのこと『奇人』って呼んでることに対する苦情がみなさまから全然なかったのはどうしてなのかな!?

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