東へ西へ編 その3 軍船の話のはずが・・・結果的に大事になった
小一時間ほど部屋で待たされた後、やっと通されたのは何度か使ったことがある学校の教室程度の広さの会議室。
集まっているのはいつもの重鎮様プラス都貴族様が何名かとラフレーズ家のご長男。
顔を覚えていないお貴族様ははたぶん予算(財務)関係の人じゃないかな?
「それで、軍船の拡充を図りたいとのことだが」
「そうですね、拡充と言うか限界まで使い込まれて今にも沈みそうな船の入れ替えですね」
「ラポーム侯の言う事は理解できるのだがな・・・そもそもこれまで軍船はすべて商国が建造したもの、それも中古船を買い取って使っているざまでな・・・王国には大型の船を建造する技能も技術も無いのだ」
「それはそこそこの大問題だと思われるのですが・・・」
真面目な顔で話し始めた国王陛下に少し吹き出しそうになったが何とか我慢して答える。
今日は知らない人もいるからね?出来るだけ自重しなければ。
てか、いくら戦争が・・・ってさっきも言ったなこれ。
本で読んだ限りだと人口は商国よりも王国のほうが多い、つまり経済規模は商国より王国の方が大きいはずなのに制海権を手放しているとしか思えないこの状況。
・・・まぁ港の規模が小さいから仕方ないと言えば仕方ないんだけどさ。
それならそれで海岸線を開発――それこそエルドベーレから王国の最果て(ヴィーゼンだな)までの入江を開発して超大規模な港街、むしろ港都市にしてしまえば地理的にもハブ空港ならぬハブ商業港になるのではないだろうか?
まぁ今は北とは戦争中で南とはやや疎遠だし東(海の向こう)の事はよく知らないんだけどさ。
塩の生産量を増やせたからどうにかなったけど他国に輸出を止められるだけでストレートに命に関わるような状況はよろしくないよね?
少なくとも商国に対しては圧倒的な貿易赤字なのは確かだし。
「てことで大規模な港の整地を提案いたします」
「いきなり状況が変わった!?軍船を入れ替えたいという話し合いではなかったのか!?」
「ふっ、川も時間も流れ流れて少しずつ形を変えてゆくものなのですよ?」
「いや、大本の原因はいつも卿が説明を端折り過ぎて他が混乱しているだけの問題ではないだろうか?」
「だって今思いついたんだもん」
「イラッとするから頬を膨らますんじゃない!まったくお前は本当に・・・」
仕方がないので今のエルドベーレの港の広さで一日に入出港出来る船の隻数や停泊できる最大数、貿易による収入の状況・・・なんかは俺は知らないのでエオリア&その兄が、今の海軍で相手を出来る海賊や制海権の説明・・・なんかも俺は知らないのでナントカ(セグラース)子爵が、エルドベーレからヴィーゼンまでの間に領地を持っている貴族の領地や海岸線などの人数や広さなど・・・そうだね、三人とフリューネ侯爵にお任せだね!
「本当に港の拡張については今思いついただけで下調べとかはしてきてないんだ?」
「もちろん!ちょうど情報を持ってる方がいっぱいいて幸いでした!」
「ははっ、ハリスは相変わらずだなぁ」
ケラケラと笑う俺とコーネリウス様にジト目を向けてくる室内の全員。
あまり知らない都貴族の人とか「この状況でどうしてそんな笑顔になれるんだ?」と、ドン引きしてるけど気にしてはいけない。
あらかた説明が終わったところでヴァンブス公爵から声がかかる。
「ふむ・・・港を大規模に拡張するとフリューネ家と王家の利権は大幅に増えそうなのであるな!・・・婿殿、フリューネ家には先に塩の利権の融通もしているのであるが大平原の開拓だけではヴァンブス家の割り当てが少々寂しいのではないだろうか?いや、もちろん王国の繁栄はとても好ましいのであるがな!」
「そうですね、西に関しましては・・・帝国との商取引をもっと活発にするだけで十分な収入になるのではないでしょうか?」
「帝国との交易か・・・確かに増やせるならば西方からの品々が入ってくるであろうが山越えの険しい道を行き来するのは骨が折れるのである・・・」
「ああ、それならまっすぐトンネルを掘るだけで解決出来ますよ。帝国側にメリットも有ることですし?今なら向こうにはこちらに対する引け目もありますから否とは言わないでしょう。トンネルはこちらで掘ってしまうので通行税もこちらだけで取ればそれだけでも結構な収入になると思いますよ?」
「いや、そもそもの話であるがトンネルを掘る事自体数十年かかる話だと思われるのだが・・・」
「そのへんは精霊様にお力をお借りすれば数日でどうにかなると思いますよ?」
話を聞いていた馥郁おじ――ブルートゥス様とキーファー公ガイウス様、そしてコーネリウス様の目の色が少し変わった。
「ハリス、私は寂しいよ?君は妹のことを、フィオーラの事をもっと愛してくれていたと思っていたのにリリアナ嬢やヴェルフィーナ嬢の方が大事だったんだね?ああ、義兄(あに)としてこれほど悲しいことはない・・・やはり義兄ではなく今すぐ義父に」
「コーネリウス様、意味の分からない小芝居でヘルミーナ嬢を今すぐ送り込もうとするのは止めてください。いえ、すでに何時帰宅してもお嬢様はうちの屋敷にいらっしゃいますが。そうですね、北は・・・皇国がアレですし・・・ああ、ゴーレムの迷宮から銅が産出してますよね?」
「銅?確かにそれなりの量を毎年買い上げているけれどさ。銅製品は今でも作られてるし輸出も頭打ちの状態だよ?」
「ほら、西でも東でもこれから交易を増やそうとしてるんですから足りなくなるものがあるでしょう?そもそも現状でも田舎の方には十分に行き渡ってはおりませんし」
こんどは室内にいるほぼ全員の顔色が変わる。
「ハリス、流石にそれは王家として認めるわけにはいかんぞ!?」
「しかしこれからの王国内で物の動きをよくしようと思えば今の生産量では圧倒的に不足したまま、下手をすれば国内需要分が完全に足りなくなりますよ?もちろん流通量が増えれば今まで物々交換していた層からの納税額が多少なりとも確実に増えますし」
「むぅ・・・しかしだな」
何の話かって?もちろんお金、硬貨の話である。
硬貨、作り方がね?昔のままで物凄く効率が悪いんだよ。だから田舎にまで貨幣経済がちゃんと浸透していない。
近隣国とも通貨の重さは統一されてるけど国によって形が違うしさ。
ほら、ラノベとかで「コインを10枚重ねてひとまとまりにすればこんなに早く数えられるよ!」みたいな場面があるじゃないですか?
そもそも硬貨の精度が一定じゃないんだからコインを10枚積み上げた時の高さが違うからね?たぶん10枚積んでる途中でギリコケると思うし。
「正直な所、今、国内で流通している貨幣はあまりにも質がよろしくありませんし。いっその事『戦勝記念』とか何らかの理由をつけて大々的に改鋳してしまうべきだと思います。もちろん金貨と銀貨は王家が全て管理、金貨にはその時の国王陛下、銀貨には王太子殿下の肖像画を配して威を示しましょう。銅貨は数が必要ですから製造や流通に手間もかかりますしね」
「ふむ、それはなかなか悪くない話である・・・かもしれぬな。で銅貨の図案は?」
「発行時に国で有名な美人とかどうでしょうか?」
「それはもうほぼ卿の嫁になるのではないか?いや、本当に卿は嫁大好きだな!」
いつも言ってるけど嫁大好きは当然だと思うんだよなぁ。
でも初回生産分の銅貨の肖像画の予定はオースティアお姉様なんだけどな!
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