南の都編 その12 南部貴族会議

さて、南都運営の為の人材確保の大凡の目処が立った――ジョシュアじーちゃんとかエオリアとかお姉様方とか奥さんにほぼ丸投げしただけ――ので、続いてはクソ面倒臭いご近所さん付き合いである。

そもそも『南都の建設=南部の盟主』と言う図式になるわけで。

王様が貴族は居ないって言ってた?


ああ、もちろん『南都建設予定地の周辺(山地&森林地帯)』には貴族どころか人っ子一人居ないけど『王都の南方面』にはそれなりにいるんだよ、ヴィオラん家みたいな潰れかけの貴族様が。

つまりご近所さんって言うか顔も知らない南方各地に散らばる小貴族をまとめないといけないんだ。

いや、ちょっと違うか。正確には『小貴族をまとめる』んじゃなく『まとまる気がある小貴族を選別する』だな。


そう、お荷物にしかならない馬鹿の面倒を見るとか真っ平御免なのである!!

ちなみに南方面の小貴族家、子爵家が6、男爵家が22、准男爵家が38で合計66家もあるらしい。いや、他の方面はもっと多いんだけどね?

最高爵位が子爵家とかどれだけ南方が期待されていなかったのかがわかるよな。


そもそも南に行くほど平地が少なくなるから農業にはあまり向いてないし主な産物が木材と山菜と地味な果物だけだしさ。

クリとかドングリとか。縄文人か。

なんとなく領地を与えないといけないけどそれほど重用されていない弱小貴族の集団って感じだな。


まぁそれでも貴族様は貴族様。

男爵家や准男爵家はほぼ領地の近い子爵家に紐が付いてるんだけど子爵家6家及び少数の男爵家はさらに上の都貴族に紐が付いてるんだよねぇ。

てことで王家の方から使者を出してもらって66家全部と寄り親の都貴族(侯爵家1、伯爵家3、子爵家4)に集まってもらう。


王城の大広間のお誕生日席と言うか王様席にはもちろん国王陛下が腰を下ろす。

何だかんだで最近は王様にもお手数をかけているので少々申し訳ない気持ちになるけどお城にトイレは新設いたしませんので念の為。エアコンは増やしますので・・・。

国王陛下の右側、俺を先頭にしてアリシア王女、ガイウス様、ブルートゥス様、マルケス様。

反対の左側には都貴族の人達。名前?聞いたこと有るけど覚えてないや。

そして国王陛下の向かいには集まった66家の小貴族が腰を下ろす。

もちろん欠席する様な人間はいなかった。


しかし最近こう言う圧迫面接っぽい集まりが多いな・・・。

俺は面接する側に座ってるから良いんだけどさ。

てかさ、別に右側は俺と嫁シアだけでも良かったんだよね。

でも『娘婿の権威付け』の意味も込めてみんな集まってくれたという。

いや、嬉しいけどね?過保護なおかんみたいで少々こっ恥ずかしい。

見た目は全員厳ついおっさんだけど。


「さて、今回そのほう等に集まってもらったのは他でもない。既に耳にしているであろうが南都の建設の話である」


そして始まる国王陛下のお話。誰だ!説明パートとか言うやつは!!

あと『既に耳にしている』とか言ってるけど集まった小貴族集団の半分くらいは寝耳に水って感じで驚愕の表情をしてるんだけど?

まぁ情報を集める力が無いから弱小貴族なんだけどさ・・・。


そこから先は王様とバトンタッチして俺が説明役を受け継ぐことに。

まだ建設予定地と真っ直ぐに高速道路みたいな道を通したい事くらいしか決まってないんだけどね?

あらかた説明が終わったところで小貴族集団先頭に座るナンタラ子爵が口を開く。


「つまり、新しい都市の建設に伴いこれまでお世話になっている寄り親から名前しか知らないそちらの新侯爵閣下に鞍替えせよと?」

「全然違うぞ?むしろどこをどう聞いてそんな結論に至った?」

「はっ?いえ、新しく南都の建設をされるのですよね?『そのための金と人を出せ』と言うことではないのですか?」


ああ・・・なるほど、普通は都市の建設と言うか荒野の開拓を始めるってなるとそう言う解釈になるか。

てかいきなり知らない人間集めて金の無心とかしねぇよ、どこからどうみても小銭くらいしか、むしろ小銭すら持って無さそうだし。

たぶんジャンプさせてもチャリンチャリン言うどころか腹の肉が揺れるだけだろう。


「あー・・・まず変な勘違いをさせてしまったことを謝罪しておこう。これよりラポーム侯爵家は南都の建設及びその周辺、南部の開拓を行う。それに際し各家には『邪魔をしないように』と通達しておきたかっただけだ。そして現時点で庇護を求めてくるなら領地の運営能力によっては受けても良いかと思って集まってもらったまでのこと。最後に王都から南都までは直線で道を引く予定なのでその際の立ち退き命令だな」

「なっ、先祖代々汗水流し開拓してきた土地を明け渡せと!?いくらなんでも横暴が過ぎませぬか!!」

「そうです!そもそも『邪魔をするな』とはさすがに我らを蔑ろに、いや、馬鹿にし過ぎではないですか!!」


ちなみに『先祖代々の土地』とか言ってるけどそいつ(小太りのおっさん)の領地、国に税を治めるどころか食料などの支援を寄り親を通して支給してもらっているただの穀潰しなんだよね。

いや、南部の貴族の半分くらいは多かれ少なかれそんな感じなんだけどさ。

もちろん国からの支援から寄り親が中抜きしているのは言うまでもない。


そして『馬鹿にし過ぎ』って言ってる奴(小太りのおっさん)は領民の男手に多少余裕があるので開拓に出して金銭的なおこぼれをせしめようとしているだけである。

ソースは先立って王城で資料を読み漁ってきたアリシアなので間違いないはず。

とりあえずこの2人は切り捨てる(物騒では無い方向の意味で)として・・・と考えてたら左側の貴族さんから声が上がる。


「発言宜しいかな?いや、そもそも我が家は南部には纏める貴族家が無かったが為に寄り親として子の面倒を見ていただけの事。此度ラポーム侯爵が南都に居を定めると言うのなら当然の道理として手を引かせて頂く所存であるのだが?」

「ほう・・・確かにペオニア侯のおっしゃる通りですな。南部に新しい秩序が構築されると言うのなら私もこのへんで肩の荷を下ろさせて頂きましょう」

「うむ、丁度いい機会でありますね。ああ、話は変わりますがラポーム侯爵の晩餐会で供される香辛料の料理がとても美味であるといつもヴァンブス公爵に自慢されておりましてね、次は是非私もご相伴させていただきたい」

「おお!私もその話は聞き及んでおりますぞ!ラポーム閣下、是非とも我々にもお声がけを!!」

「あっ、はい」


小貴族の寄り親全員、後々面倒事になりそうな気配を察知して俺が何か言うより先に損切りしやがった!

流石都貴族、他人の顔色を伺う能力と格下を捨てる早さが尋常じゃない。

いや、置いておいたとしても小遣いくらいにしかなりそうもない小貴族とか後腐れなく切れるならとっとと切り捨てるのは当然だけどさ!

こちら側に座ってるメンバー全員苦笑いしてるじゃん!

もちろん(元?)寄り親さんと無駄に揉めないで済むならこちらも有り難いのでお礼に晩ごはんにご招待くらいはさせて頂きましょう。


そしてどうやって自分を高く売りつけてやろうかとしてた小貴族当主の雰囲気が変わる。

後ろ盾が無くなった=こちらの言い分次第で取り潰しも普通に有り得るからね?

こっちに座ってるうちの奥さんの後ろ盾は現国王陛下だしさ。

家を保ちたいなら擦り寄って来るしか無いんだけど・・・アリシアが調べたのを聞いた話だと現当主の8割方は無能だからいらないんだよなぁ。


てか先陣切って発言した小貴族の2人、顔色どころか体色が完全にゾンビになっちゃってるんだけど?

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