南の都編 その10 薔薇の形の角砂糖
教会勢力に前向きな印象を全く持っていない俺。
出来るだけ宗教とは距離を置きたいと言う個人的な我儘で新たに精霊様の神殿を王都にも建立することに。
そもそも信仰対象の精霊様が家に居るのにどうして胡散臭いだけの知らないおっさんの集団に課金しなければならないのかと。
場所はどうしよう?と思ったんだけど王城の空きスペース(第三王子の離宮を取り壊した場所)がちょうどあったのでそこにヴィーゼンにあるものより大きいものを用意した。
普段は一般人どころか貴族様もなかなか参拝できない場所だけど新しい巫女様候補が『例のあの子』だから街中に建てるよりも使い勝手が良いんだ。
「この入口の2体の像は黒い鎧を着た卿の嫁だよな?確かメルティスとサーラと申したかな?」
「はい、魔除けにちょうどよいと思いまして」
「神殿の真ん中に立つ女神像はキーファー家のフィオーラ嬢だよな?微妙に違和感を感じるが」
「はい、教会で内職してる時に作り慣れているのでちょうどよいかと思いまして」
「お、おう・・・卿は嫁大好きなのだなぁ・・・」
いや、嫁大好きは当たり前じゃね?
そして国王陛下の感じる『違和感』は胸部の大きさだと思います。本人に言われる前に盛っておきましたので!
気付かれてないけど神殿の天井屋根の上にはもちろんミヅキの像もあるしな!本妻がガーゴイル扱い。
これで用意が全部整った!
・・・はずなので奥さん全員のドレス、もちろんお色直しの分も含めて5着ずつ用意する。
式の前日、細かい手直しやアクセサリーのサイズ調整などの衣装合わせもあるのでお嬢様方全員に屋敷まで集まってもらった。
そしてその場で本当に俺で良いのかの最終確認。
「良いも何も最初から逃さないと言っているでしょう?」
「ふふっ、4年もかかったんだからちゃんとおねぇちゃまを幸せにしてね?」
まぁフィオーラ嬢とリリおねぇちゃまは何となく最初からこうなるような気はしてたんだよなぁ・・・。
「むしろハリスの方は本当に大丈夫なのかい?まとめてこの人数と式を挙げるとか中々の快挙だと思うよ?」
「ここまで来て中止になったら普通に泣きじゃくるからな?大丈夫だよな?信じてるぞ?」
どう考えても快挙ではなく暴挙です。逆にヴェルフィーナ嬢とアリシア王女はちょっと不思議な感じがする。
「ハリス、も、物凄く緊張してきたんだけど・・・ど、どうしよう、ドレスじゃなく鎧姿じゃ駄目か?」
「あ、それなら私も鎧姿が良いです!!」
逆に何故良いと思えたのか?これが不思議でならない。
「ハリス、領民共々ちゃんと最後まで面倒見てよね!」
「御主人様・・・私だけ妙に場違い感が・・・」
領民・・・南都が出来てから考えよう。そしてオドオドするドーリス可愛い。
「まぁお主らは我の引き立て役で本妻は我なんじゃけどな!」
「誰だお前は!?いや、去年の年末に見たこと有るけども!!えっ、アレって夢じゃなかったの!?!?」
そして目の前で妖艶な笑みをこちらに向けるのは・・・美しく成長した姿のミヅキだった。
いや、そんな事出来るならもっと早く教えてくれよ!むしろ最初からその姿で登場してくれよ!
まぁちっさい方も一緒にいる分には落ち着けるからいいんだけどさ。
てかミヅキの大人フォーム、1時間くらいしか持たないらしい。
それも魔力(神力?)の消耗が激しいらしく1週間に1度くらいしか無理らしい。
・・・式のときもおっきくなってもらったら俺の紳士(ロリコン)疑惑が払拭出来るのではないだろうか?嫌だ?何でだよ!?
遠方の貴族にまで招待状が送られ、式が挙げられたのは結局6月の初め。
その日は王都だけでなく北都や西都や東都まで街中で盛大に鐘が鳴らされ、振る舞われた大量の酒と料理に浮かれた各地の領民達も祝賀ムード一色に染まっていた。
・・・うん、まぁどえらいお金がかかったんだけどね?
お金、別に溜め込んでてても仕方ないから一気に放出した。
ああ、帝国からも大急ぎで祝の使者が来てた。
流石に時間が無かったから手紙と祝の品だけだったけど。
皇女が一緒に来なくて幸いである。
式の段取りとしては精霊神殿で祝福してもらってから王城で盛大に披露宴の後身内だけ集まって晩餐会という流れに。
シャトル馬車で往復して出席者を移送しなくて済んで良かった。
てか祝福役の『ちびシア』こと妹姫様、アリシア王女の宣誓の時だけ
「本当に大丈夫なの?」
「はい、生涯大切にします」
「本当に大丈夫なの?」
「いえ、ですから変わらぬ愛を誓いますと」
「私にしておくほうが良いと思うのよ?」
「おいやめろ!!ハリスの気が変わったらどうするつもりだ!?」
やたら何度も聞き返された。
大好きなお姉ちゃんがお嫁に行くのがきっと寂しいんだろう。
俺を見る目がヘルミーナ嬢の様だったけど気のせいだと思いたい。
王城での披露宴はお嫁さん達と並んで飾り物の様に座っているだけで特に何もすることはなく、奥さん方の親御さんが来客の挨拶などを全てさばいてくれたので非常に助かった。
うちの家族?上の兄だけ呼んだ。いや、本当は父も呼ぼうと思ったんだけどね?
それをしちゃうと自分たちも許されたと思って馬鹿なのが2人また調子に乗っちゃうかもしれないからさ。
父が引退後は兄が引き取ったと言う体で西都にでも移ってもらってのんびりと暮らして貰う予定だ。
・・・けどあの人、人が良いというかあんまり自分を出さないと言うか流されやすいからなぁ。
果たして元母と元下の兄と縁を切って1人で来ることが出来るかどうか。
結納品の砂糖を配ったところ物凄く喜ばれたらしいので今回の式の引き出物も砂糖、全く同じだと芸がないのでガラスの入れ物に薔薇の形の角砂糖を詰めたものにした。
何となく四角いより高級感があるじゃん?薔薇の形の角砂糖。
そしてその夜、王城でのパーティはこれと言った問題もなくつつがなく終了してその日の晩餐会。
娘さんが嫁に行くと言うことでさすがにお義父様方が凹んだり涙を流したりでしんみりとした雰囲気に
「いや、本当に・・・大きすぎる肩の荷が下りたようだ。王妹に続き王女まで行き遅れ、遅れるだけならまだしも貰い手が無いなどとなると」
「王家の権威にも係わりますからな。しかしこうして妹が嫁に行き叔母上の嫁ぎ先も決まり大変目出度いことです」
「父上、兄上、さすがにあの叔母と同じ扱いをされるのはキツすぎます!妾はあくまでも妾にふさわしいと思える殿方を選んで、そう、選んでいたのですから!!」
「フィオーラも精霊様のお力をお借りすることが出来る事で随分と負担をかけたからな。まさか想い人とこうして一緒になれるとは」
「そうですね、精霊様と少しでも親和性のある相手をと思っていたら親和性どころか初代様を越えそうな逸材ですからね」
「あら、私が一方的に想っていたわけではなくちゃんと出会った時からお互いに惹かれ合い想い合った相手なのですからね?」
「あれほど愛らしかったうちの娘に恐怖を感じるようになったのは何時からであろう・・・小さい時は嫁に出すなどとても考えられないと思っていたがこうしてこの歳になると安心感しか無いのだな。いや、あの事故の時にハリスが命をとりとめてくれて本当に良かった」
「お父様、あまり失礼なことをおっしゃってるとお名前を書き込みますよ?」
「何にだ!?」
「奇行の目立つ娘が嫁に行く、これほどめでたい話はないのである!後は出来るだけ早く子宝に恵まれてうちに養子として入ってもらえれば言うこと無しなのであるな!!」
「私は妙な行動などした覚えはございませんが?まぁ自分でも不思議だとは思います、これまで異性に興味を覚えたことなど全くありませんでしたから・・・。あとあ、赤ちゃんはまだ早いです・・・」
「メルティス、本当に大丈夫なのか?ご迷惑ばっかりかけてるんじゃないのか?料理も出来ない、洗濯も出来ない、掃除も出来ない、我が娘ながら嫁に出すなんて不安しかないのだが?お父ちゃん心配で心配で」
「もう、余計なことは言わんで!!そもそもうちはお貴族様なんだから家事は使用人を雇えば問題なかっちゃろうもん!!」
「サーラ、いいかい?何事も解決するにはまず話し合いだからね?」
「わかってます!話し合い、殴り合い、解りあいます!悪、即、斬です!!」
「話し合ったなら解りあって欲しいんだけどねぇ・・・」
なるかと思ったらそうでもなかった。
むしろ親御さんのほっとしたって安心感が凄いんだけど?
強がらないで泣いてもええんやで?
「なんかこう・・・濃い人達よね?」
「お嬢様も十分に濃いですよ?」
「まぁ正室の我が一番なんじゃけどな!」
ミヅキ、それだと自分が一番濃い人間だとアピールしてる痛い子みたいになってるぞ?
てかパーティに参加してるコーネリウス様のご長男、妹姫様を目にした途端に震えだしたんだけど何か有ったのだろうか?
確かに多大にホラーな空気を漂わせてるから子供から見るとちょっとしたトラウマになりそうだけれども。あの子、見た目がスーッと動くフランス人形だからなぁ。
年齢も近いし出来るだけ早急にお2人でご婚約して欲しいものである。
じゃないとそちらの妹さん共々うちに入り浸りそうだからね?
なんかこういろいろ忘れてる人もいる気がするけれどこれで俺も妻帯者になるのか・・・。
とても、そう、とても不思議な感覚だなこれ。
「いや、なんかこう感無量な感じを1人で醸し出してるけど忘れないでもらってもいいかな!?連れてきたんだから責任持ってもっとかまって欲しいんだけど!?」
すみっこで騒がしいエオリアだった。
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