南の都編 その7 反省会
使者との交渉とお食事会が終わればもちろん帰宅・・・ではなく反省会が始まる。
なんかもう1週間くらいお城で寝泊まりしてる気分だわ。
てかサーラだけじゃなく俺自身も最後にやらかしてるから仕方ないか。
「しかし皇国は一体何を考えて、何の目的であのような者を使者として送ってきたのであろうか?」
「確かに。あれでは休戦ではなく宣戦布告の使者ではないか?」
「そもそもあそこは昔からよく解らぬ国だからな。他国に対しては無意味に高圧的、そのくせこちらが上に出ると一転して遜(へりくだ)る。そして国内が纏まっているかと言うとそうでも無いようであるしな」
「正直な話、鉄や銅などの鉱物資源、岩塩や薬草などの取り引きが無ければ付き合いたいとも思わぬからな」
まず始まるのは皇国批判の数々。まぁ面倒な隣国がいきなり戦争吹っ掛けてきたらいままで我慢してたモノも色々と吹き出してくるか・・・。
「それにしても我が国との国力差を知らぬわけではないだろう?それがいきなり戦争を仕掛けてきたと言うのも何と言うか解せぬものがあるな」
「人口比で約半数だからな。鉱物資源には恵まれているが食料の自給率はお世辞にもいいとは言えん。それもあっての今回の南進なのだろうが」
「仮に侵攻に成功していたとしても民がそのまま従うはずもないのはわかるだろうに。上手く統治を回せたとしても生産力が戻るには数年はかかる。略奪が目的だと言うなら解るが山向こうの飛び地など得ても維持出来るとはとても思えんぞ?侵攻に失敗、統治に失敗、どちらにしてもリスクがあまりにも大きすぎると思うのだがな」
「帝国の参戦もありましたし余程の自信があったのでしょう。少なくともラポーム候がいなければどうなっていたかわかりませんからね」
「確かに・・・それを考えるとリリアナの男を見る目は大したものだと言わざるを得んな!もちろんハリスの女を見る目も大したものだが」
「それを言うならばフィオーラであろう?あれの初恋の相手なのだからな!他の婚約者も作らず自ら見つけてきた相手だぞ?」
「初恋と言うならばヴェルフィーナも変わらないのである!それも遠く離れた地での偶然の出会い、まさに運命」
その帝国の参戦自体がものすごく不確定要素だった気もするんだけどねぇ。第一皇子がまともな判断を下せる人間なら戦争なんてしなかっただろうし。
・・・そもそも本当に帝国の皇子は判断を誤ったのだろうか?もし『判断力を欠如させられた状態』だったとしたら?
そしてはじまるいきなりの娘自慢。・・・いや、自慢かそれ?
「ハリス、どうかしたのかい?何やら考え事をしているようだけど?・・・まだ帰れないよ?」
「確かに帰りたいですけど今は違いますからね?いえ、皇国は王国内でごそごそしてましたよね?もしかしなくとも帝国でもその規模はどうであれ間違いなく同じ様な事をしていたと思うべきですよね?」
「まぁ・・・そうだろうね。少なくとも王国内であれだけ入念に下準備していた事を考えると帝国、そしてそれ以外の国にも何らかの工作はしているだろう」
「帝国の第一皇子にまったく面識が無いので憶測の域を出ないのですが、もしも皇子が普段よりも短絡的、感情的になるように先に仕向けておけば共に戦争を起こさせるのもそれほど難しくはなかったのではないかなと」
王国で例えるなら某第三王子。あの当時、フィオーラ嬢に絡んできていた『ちょっとイカれた精神状態』なら他所の国との戦争くらい起こしそうじゃん?
そして第三王子も小さな頃から多少粗野ではあったが馬鹿ではなかったらしいし。
「・・・それは、何と言うか非常に穏やかじゃない話になってくるね。第三王子にもられた薬のような物を、またはそのものズバリを帝国の皇子も盛られていたかも知れないっていうことだよね?」
「正解です。あくまでも妄想空想の話ですけどね?で、それが王国や帝国だけでなく皇国の上層部の人間にも広がっているとしたら」
「なっ!?・・・いや、まさかそんなことが・・・あるはずがないといい切れないのがなんともはや」
「出来ればその薬の現物が欲しいですね。何らかの対抗策を用意出来るかもしれませんし。いや、そもそも薬だと思っているだけでもしかすると魔道具の類なのかもしれませんけど」
うーん、こう言う感じの自分でちゃちゃっと行動して結果が出せない話はものすごく苦手だ。
別に自分が性格の良い人間だとは露ほども思ってないけどさ、良くも悪くも単純な生き物なんだよ俺。陰謀じみた話は頭が疲れるのでご遠慮願いたいものである。
謀略陰謀の類は得意な人間に担当してもらって・・・ふと『小さな子の影』が脳裏をよぎったんだけど。
てか余計なことを言っちゃったから広間に集まったおっさん連中の空気が非常に重苦しい。
よし、帰ろう。
「じゃあそう言うことで」
「それでハリス、帝国の皇女の嫁入りの話はどうするつもりなのだ?」
「ええ・・・いえ、どうするも何も成り上がり者の一貴族が隣国の皇女殿下を側室にとか出来るはずが無いと思うのですが」
「まぁこちらから言い出した話ならばそうだろうが今回は向こうからの願いだからな」
「皇女と言えばもう1人面倒なのがいるのである。婿殿、そっちもついでに引き取ってはいかがであるか?」
「絶対に嫌ですけど?そもそもそれなら王太子殿下が2人とも引き取る・・・ではなく娶られるのが宜しいのでは?」
「ここで私に振るのか!?先方が卿をご指名なのだから私がどうこうするものではなかろう?それに『あの』皇女を嫁にとか考えたくもない」
「ちょっと、今物凄く不穏な事をおっしゃいましたよね?なんですか『あの』って。もう完全に何らかの曰く付き物件じゃないですか!?」
押入れの襖の影からこっちを見つめてたりしないよねその皇女様?
そしてもう1人の皇女とはもちろん捕虜になっている白い人だ。
囚われているくせにそこそこわがまま放題にしているみたい。
そして帝国の皇女の方も宜しくない方向で有名な方らしいし。
白い人は今度サーラ嬢にでも絞めてもらおう。
てか帝国の皇女様、年に2度は『ぶとうかい』を皇女主催で開いてる、あまつさえそれに自ら参加しているらしいしね?
もちろん開催してるのが『舞踏会』なら「ちょっとお金かかるね?」で終わる話なんだけどさ。うん『舞踏会』ではなく『武闘会』の方なんだ。
何なの?帝国と言えばパンとサーカスなの?
それとも人気投票で下位だったから作品のテコ入れがしたいの?
そしてうちの王女も含めてこの世界では性格に難がないとお姫様を名乗れないの?
「しかしこの先の帝国との付き合いを考えると皇女殿下を我が国に迎えておくと言うのは悪い話ではないと思うよ?」
「そうおっしゃるならコーネリウス様が」
「私は妻一筋だからね!それに年齢差がありすぎるよ?」
「物凄い食い気味の否定が来た・・・嫁にどころかお近付きにもなりたくないんですけど?」
さすがにあちら様(帝国)が親切(人質的な意味も含めて)で願い出ていることなので無下にするわけにもいかないし・・・。
「と、とりあえずは遊びに来て頂く感じで良いのではありませんか?そしてその間に王太子殿下の魅力を懇懇と説いて」
「王宮内が混沌としそうだから止めてくれ。いや、そもそも『あの』皇女が私に興味を持つはずなどないと思うがな」
だから『あの』ってどのだよ・・・。
皇女様については
『あくまでも行楽と言うか遊覧と言うかあくまでも遊びに来て頂く感じでの来訪なら大歓迎いたします!』
と受け入れることを伝える。
いや、お見合いとかではないです、ただの物見遊山の旅行ですから。
そして皇国の薬(魔道具?)の話も伝えておく。
「まさかその様なものが・・・」
「そちらの第一皇子殿下も何かしらの性格の変化などはございませんでしたか?」
「いや、もともと兄弟仲が良くはなかったのでなんとも言えぬな・・・性格もあまり前向きなものでは無かったし」
今回の事がもし無くとも何かしらやらかしてそうだな第一皇子。
帰国後に皇子や取り巻きだった貴族の邸宅の捜索、皇国商人や王宮出入りの商人の監視の強化などなど執り行うよう進言しておいた。
世話になった?いえいえ、私は大したことをしておりませんので。
帰り次第皇女様をこちらに向かわせる?いや、そんなに慌てなくても。
手紙もいっぱい送る?お前は遠距離恋愛中の彼女か・・・。
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