南の都編 その6 私の恋愛関連の煽り耐性・・・低すぎ?

小休憩も終わり、使者との交渉第2ラウンド。

もちろん帝国とのお話、否 O・HA・NA・SHI である。

張り詰める空気の中で最初に口を開いたのは帝国の外務大臣。


「まずはこの度の帝国第一皇子ヴァルターとそれに加担した帝国貴族の蛮行について心よりの謝罪を申し上げる」


どこぞで見たテレビの謝罪会見のように席から立ち上がった3名が綺麗にそろって頭を下げるところから始まった帝国側の話。まとめると


『最近皇帝が臥せることが増えてきた上に第二皇子の権勢が増してきた帝国国内、このままでは次代跡継ぎの交代騒ぎになるのではないかと(勝手に)焦りだした第一皇子。そんな時に北の皇国からの甘い囁き「王国に二方面から攻め込み分割しましょう」。帝国国内の良識のある貴族、もちろん皇帝も大反対したものの「勝てば良かろうなのだ!!」と父皇帝以下、兄弟姉妹を後宮に幽閉した上で帝国軍の半数以上を率いて勝手に出陣してしまう。・・・そして待てど暮せど何の連絡もして来ない第一皇子に慌てた第一皇子派だった貴族が慌てて囚われの皇族を解き放ち現在に至る』


「・・・なんともはや」

「本当に北の連中はクソ迷惑だな・・・」

「それで、その、大変聞き苦しくはあるのですが・・・ヴァルター以下帝国軍はいかがなったのでしょうか?」

「ラポーム候、説明を」


いや、説明も何も


「全軍討ち死に、既に埋葬済みでありますが」

「ぜ、全軍・・・でありますか?」

「ええ、戦場にいた人間は軍人その他誰一人馬一匹も逃げ出させず全員です。何か証拠になるようなものでもあればよいのですが皆深い土の下ですので」

「もしも、お答えいただけるのであればどの様な方法でその様な事が出来たのか・・・お教え願えないでしょうか?」


『どうします?』って顔で国王陛下を見ると『構わぬ』と言う視線が帰ってきた。

どんな視線なのかは秘密☆


「ええと、そちらには我が国の建国より力を奮って下さっている精霊様のお話は伝わっているでしょうか?」

「はい、それほど詳しくはございませんが多少は」

「今回はその精霊様のお力をお借りいたしました。こちらに来られる時におそらくオーヴェスト平原は通られたでしょう?あそこが開戦地であり・・・埋葬地です」

「そ、そうですか。いえ、国防に係わりかねない不躾な問に答えて頂きありがとうございます!」


そこから始まるのはもちろん停戦交渉、帝国が完全な白旗をあげての話し合いである。

いや、帝国国土の3割までなら差し出すとか言われても。

そこそこ以上の死者を出してるんだから領民に逆恨みもされてるだろうしそんな所を領土にしても・・・ねぇ?


そもそも新しく南都の建設とかヴァンブス領オーヴェスト平原の開墾もしないといけないしさ。無駄な人員も予算も回したくないんだよなぁ。

南都の建設さえ済んでしまえば鉱物資源なんかも問題なく賄える様になるはずだから帝国とか皇国とかの辺境にある無駄にだだっ広いだけの貧しい土地とか邪魔になるだけなのだ。

本気で王国の開発に励んだら国内の未開発の土地だけでも今の人口の10倍くらいは楽に賄える食糧生産量になるもん。


「てか細かい外交の話なら私が聞くよりもヘルミーナ様を呼んでくるほうが何倍も有意義だと思いますけど?」

「いや、娘はほら、手加減が出来ないと言うかしないからさ。この状況で参加させたりしたらそれこそ帝国の尻の毛までむしりとっちゃうよ?」

「尻の毛・・・まったくいらないですね・・・」

「だから最後まで付き合ってね?ハリス、勝手に帰ろうとしてるよね?」


そ、ソンナコトナイヨー。

だって別に俺、もう必要なくね?ほぼ話は終わってるし。


その後の終始穏やかな話し合いで決まった事は


・王国、帝国共に皇国とは一切の交易を行わない。また他国から皇国に向かう商人も領内を通らせない。

・国土の割譲などは一切必要ない。

・帝国は今回の戦争の賠償として来年より3年間税収の1割を王国に支払う。


無条件で降伏した敗戦国に対する要求としては非常に軽いものとなった。

賠償金の額も払う年数も向こうからの提案をこちらで緩和したくらいだからね?


そして始まる交流の宴。

てか俺、ここ最近だけで一年分くらい晩餐会と言うか宴会に参加してるんだけど?

帰っちゃ・・・駄目ですよね、はい、わかってます。

えっ?カリーを希望する?食べたことあるんですか?メルちゃんからフィオーラ嬢経由で聞いたと。


しょうがないにゃあ・・・。

さすがに広い食卓にカレー皿、チキンカレーだけ置いといて「おかわりしてね?」じゃお城の晩餐会としては寂しいしどうせ米もないので今日は『カレーはソース』として割り切ることにする。

豚カツ、牛カツ、煮込みチキンや色とりどりの油通しした野菜などなどにかけてナンと一緒に召し上がれ。あ、キーマカレーも作ればよかった。


「は、ハリス!?婿殿はこんな、このような料理を今まで隠していたとは・・・酷いのである!!」

「いや、別に隠していたわけでは・・・」

「ふんだんに使った香辛料の風味、そしてこのバランス感覚!ブリリアント!すばらしいのである!」

「よ、喜んでいただけて何よりです」


馥郁おじが天元突破の勢いである。言葉遣いが完全にとき○モの片○さん・・・いや、ブリリアントはペル○ナの美○さんだったか。

何となく赤い髪繋がりでアリシア王女の方に目を向ける。


優雅に食事する姿はまるでどこかの国のお姫様。いや、どこかじゃなくこの国のお姫様だったわこの人。

じっと見つめる俺の視線に気付いたのか柔らかくこちらに微笑む王女様。

うん、そう言う年上っぽい雰囲気を醸し出す感じ・・・非常に良いと思います!!


「そういえばアリシア王女はご結婚がまだだとお聞きしているのですが」

「んぐっ!?ええ、そうですね、この歳・・・この歳まで理想とする相手が見つからず」

「これほどお美しい方ならさもありなんでしょうね。・・・幸いと言ってはなんですが私も未だに独身でありまして。どうでしょうか、よろしければ、私の妻に」


そして凍りつく晩餐会の会場。

ん?んん?この皇子様、今なんて言ったのかな?


「は、ハリス・・・落ち着いて、冷静に、ね?ヴィルヘルム殿下、残念ながらアリシア殿下はここにいるラポーム候の」

「何をおっしゃいますかコーネリウス様、私はいつだって、ええ、いつだって冷静でありますよ?そちらの殿下よりの宣戦布告、このハリス、1人の男としてしっかりと受け止めさせていただきました」

「なっ!?もしかしてアリシア殿下はラポーム侯爵とご婚約を!?こ、これは知らぬこととは言え大変なご無礼を!!」


「ハリス・・・斬るか?」

「駄目、この人の命は帝国人の最後の1人になるまで」

「ハリスっ!!」


額に汗を流し、震えながら頭を下げる皇子様と立ち上がり戦支度に帰ろうとする俺。そして剣に手をかけたメルちゃんとサーラ嬢にいつのまに王族の並ぶ席から駆け寄ってきたのか俺の背中から抱きつくアリシア王女。


「・・・アリシア殿下・・・」

「ハリス、もう妾・・・私はあなたの嫁なのだからアリシアと呼んで・・・ください。ああ・・・今日はなんて、なんて良い日なんだろう・・・」

「いい日、ですか?」

「もちろん!だってハリスが私のためにこれほど激しくヤキモチを焼いてくれたんだもん・・・。正直なところ、他の娘と比べたら私はそれほど愛されては、求められてはいないものと思っていたから」


「そんなこと!・・・そんなことありませんよ?そもそもその程度の想いなら最初から嫁になど貰い受けたりしませんからね?むしろ殿下が王族ではなく、もっと身近な距離にいる方だったらもっと早くに・・・」

「ハリス・・・」

「アリシア・・・」


そしてゆっくりと触れ合う2人のくちび


「いや、これ、我々は何を見せられておるのだ?」


困惑半分呆れ半分の国王陛下のお言葉が耳に入る。

いや、マジでその通りだよ!カッとなったからって何してるんだよ俺は!恋愛経験のほとんどない男はこれだから・・・。


「んー・・・ハリス、早く・・・」

「それは置いといてですね」

「この状況で置いておくのはさすがに酷すぎるだろう!?」

「・・・ヴィルヘルム殿下、愛する婚約者の事でつい頭に血がのぼってしまい大変なご無礼をいたしました」


抱きしめていた王女様を離して皇子の前に跪き謝罪する俺。

心情的には『むしゃくしゃしてやった、反省も反芻もしていない』なんだけどさ、食事中のただの軽口に過剰な反応をしてしまった事は謝っておかないといけない・・・かもしれないし。


「ラポーム侯爵、先に無礼をしたのはこちらだ。どうか、どうか顔を上げてもらいたい」

「いえ、このままではとても顔をあげることなど・・・どうか、私に何か罰をお与えください」


そして早く帰宅させてください!!

ふっ、他所の国の貴族にここまで下手に出られたら相手も大きな事は言えないだろう。


「これは困ったな・・・侯爵に罪など何も無いのに罰などと・・・ああ、そうだ!それでは王国と帝国の友好、そして私と侯爵の友情の証として」


などと思っていた時期もありました・・・。


「妹を娶ってははもらえないだろうか?」


いや、どうしてそうなる?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る