南の都編 その5 西と北からの使節

とりあえず面識の薄い、と言うかほぼ無かったご家族に挨拶も出来たのでそろそろ南都予定地の視察もしておくかなー?むしろ早々に館を建ててあれやこれやの酒池肉林・・・などと頭ラヴィアンローズな俺の元に王城から『西と北から使節団が訪れたので登城する様に』と連絡が入る。

使者、もちろん他所の国から俺の結婚祝いを届けに来たわけじゃないからね?


西と北、普通に考えるならあれだけ豪快に敗走した帝国と皇国が停戦の話をしにきたんだろう。いや、敗走できたのは皇国の極々一部だけだけど。

ちなみに『帝国と皇国から使節団が訪れた』と言わないのは現状王国では両国を国ではなくただの蛮族として扱っているからである。文明国扱いして居ないのだ。

勝手に喧嘩を吹っ掛けてきてどの面下げてとしか思わないがそこそこ面白い顔をしてそうだから拝みにくらいは行ってやろうか。



いつも通り黒馬車の助手席に乗り王城まで乗り付ける。流石にもう城門で兵隊さんに囲まれることは無くなったからね?

いつもなら通される待合室で待たされることもなく、そのまま奥の大広間まで案内される。そこに集まっていたのはほぼほぼ顔を見知ったおじさん達。

もちろんこのままこのメンバーであーでもないこーでもないと話してても仕方がないので早速ではあるけど西と北の使者を呼び出すことに。

てか入ってきた帝国と皇国の使者の質が見た目だけで段違いなんだけど?


帝国の方は3名。全員上質な衣服とやや憔悴してはいるが堂々とした佇まい。

20代半ばと思われる3名の中では一番若い男の人、圧倒的に他の人間とは醸し出す雰囲気が違うしたぶん皇族だわ。

変わって皇国は2名。いかにも下級貴族って感じの人相の悪いヨレっとした格好の役人。身支度ぐらいする時間はあっただろうに。


「とりあえず皇国人は馬鹿なんですかね?それともこちらを舐めているんですかね?」

「両方じゃないかな?あの国は良くも悪くもそれほど外交に力を入れてないからね」

「謀略には力を入れていたみたいですけど・・・いや、それにしてもアレは無いでしょう」

「ははっ、違いない」


隣に座るコーネリウス様と小声で話す。

双方の自己紹介の結果・・・やっぱり帝国の若い男性は皇族、第2皇子だった。他の2名も宰相と外務大臣。

現皇帝が他所の国に出向くなんてまず無いはずだし間違いなく帝国のトップクラスの人間が3名も揃って訪れたということになる。


変わって皇国。外交官僚が2名で子爵と男爵らしい。

そして普通なら相手や同時に訪れた帝国の使者のメンツを見て萎縮しそうなものだがその気配もなく横柄なままの2人。

まぁ下級貴族が2名ではお互いの話など何もまとまる筈はないので皇国の話をとっとと聞いてお引取り頂こう。


「今回の我が国とこちらの国の不幸な出来事につきまして皇王陛下は――」


長い上に要所要所に他人をあげつらう文言が入るので非常にイライラする話が続く。

こいつら、これで頼み事をしに来てるんだぜ?

そんな長々とした皇国側の言い分は


『そちらの国がこちらとも取引のある商人を冤罪で処罰したことに対し憤りを感じた我が国は王国に罰を与えるべく軍を挙げた。幸いにして成果を出すことが出来たのでそちらも懲りただろう?情け深い我が国はこれ以上の攻撃は控えてこれまでの無礼を勘弁してやる。先の処罰した商人及び我が国の商人が得るはずであった利益、さらに今回の戦争で被害を受けた我が軍の損害賠償と謝罪をしろ』


である。

内容が支離滅裂?これでもわかりやすくまとめてあるんだぜ・・・。

そうだね、笑わせようとしてるならスベリ倒してるし本気で言ってるなら模範的な狂人の戯言だね。

何が怖いってそれを告げてる皇国の下級役人がそれを疑いなく小馬鹿にした薄笑いを浮かべながら本気で口に出していることである。

一緒に聞いてる帝国の3人はあっけにとられてポカンとした顔をしてるからこちらは少しは良識ある(普通に会話の通じる)人間だと思いたい。


「ラポーム候、卿はどう判断する?」

「むしろそこの馬鹿の首を塩壺に詰めて送り返す以外に何かあります?」

「ははは、確かにその通りであるな!」

「なっ!?き、貴様らは他国よりの使者を何だと心得ておるのか!?そもそも何だその若造」


血相を変え、目を血走らせて喚き散らそうとした北の使者・・・の首がゴトリと下に落ちる。

綺麗に切断された首からは血が吹き出すかわりに室内に漂う肉の焼けた臭い。


「サーラ、他の方が怯えるからいきなり首を落とすのは控えるようにね?」

「はっ!畏まりました!次からはひと声掛けさせていただきます!」

「いや、今のってそう言う問題なの?て言うか彼女、君の後ろにいたよね?瞬きしたらそれが目の前にいてあまつさえ首を斬り落としてるとかどうなってるの?」

「うちの奥さん、ちょこっとだけあわてんぼうさんなんですよ」


喚いていた子爵?男爵?の隣で座っていた男、顔面蒼白で失禁してるみたいなんだけど・・・。


「まぁいいや、サーラ、ついでに」

「斬ります!終わりました!」


そちらの首も落として一件落着である。いや、全然落着してないんだけどね?

2人めの怯えていたほうの男には運が悪かったと諦めてもらうしか無い。

あくまでも彼女が使者を斬ったのは『自発的な行動ではなく俺の命令』だと皆に認識してもらわないといけないしさ。

王族以下大貴族様の集まる場所で剣を抜く、そして一応なりとも使者を名乗る者の首を勝手に落とすとか普通ならちょっとした反逆者だからね?

護衛が勝手に行動したなんて思われたら即レッドカードである。


てかサーラ嬢、前回の帝国と対峙した時の事もそうだけど俺が少しでも罵倒されそうになっただけで物凄い拒絶反応を示すんだよね・・・。

それはそれで貴族の護衛としては正しい反応なんだけどいくら何でも王族の前では度が過ぎている。

・・・個人的には抱きしめて褒めたいくらいなんだけどさ。うん、俺は俺で危ない人間なのは認める。

さて、それよりもこの場をどう取り繕おう?と思ったところに国王陛下の一声がかかる。


「くくく・・・いや、訳の分からぬ御託を並べられて少々苛々させられた所をなかなか痛快な処置である。大儀であった!死体の首を塩漬けにして胴体と一緒に同行者の人間に持たせて放り出せ!王国は蛮族には蛮族に対する対応しかしないと言い添えてな!」

「「「ははっ」」」


流してもらえるならばこれ以上に有り難いことはないのでその場で起立して国王陛下に深々と頭を下げてお礼にかえさせていただいた。


死体が持ち出される間に小休止。帝国からの使者さん&あまり面識のない王国貴族などは顔だけじゃなく身体まで血の気が引いて土色になっている。

なんかごめんね?お詫びに皆さんによく冷やしたスパークリングワインとグラスをお配りすることに。


「メイドさん・・・は、いないな。メルティス、サーラ、こちらをご休憩中の皆様にお配りして?」

「「はっ!!」」


・・・おかしいな、謝罪とお詫びのつもりなのに2人が近づくだけで知ってる人は苦笑い、知らない人達は震えだしたんだけど?

てか隣のコーネリウス様はお腹を抱えて笑ってるんだけどね?


「く、くふふふふっ、ハリスは本当に面白い子だなぁ」

「これと言って何もした覚えはないのですがね・・・」


きっとこの人、俺があの2人を使って知らない貴族さんと帝国の人を威圧でもしてると思ってるんだろうなぁ・・・。

違うからね?本当に迷惑をかけたから気を回しただけなんだからね?


「ラポーム候、この酒はなかなか美味いな!今日はアイスは無いのか?」

「ありがとうございます。お時間少しいただけるならばご用意いたしますが」


王様からご要望があったので配膳?を終えたメルちゃんにアイスクリームメーカーをクルクルしてもらう。黒い鎧姿だから違和感が半端ないな・・・。


「ほう、なら私の分も貰おうか。そして私は酒よりもあの黒いこーら?と言う物のほうがよいのだが」

「畏まりました、何かつまめる物もお出ししますか?」


ガイウス様はお屋敷でも度数の高いお酒は飲んでないしもしかすると下戸なのかな?

スパークリングワインも十分に甘口だと思うんだけど。


「それならば薄切りの芋を揚げたものが良いのである!甘いものに塩気のあるあの芋・・・実に馥郁とした味わい」

「ポテトチップスですね?新しい味付けの物もご用意しておきますね」


ミヅキのおやつが減っちゃうけど仕方ない。

ちなみに新しい味付けと言っても『うすしお』が『のりしお』になっただけである。


「卿はあいかわらず色んなものを持ち歩いているのだな」

「そうですね、戦争準備で色々と用意が必要でしたので」


休憩で少し和んだ場の空気がマルケス様と俺の言葉で再度ぴんと張り詰めた。

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