東の果て編 その30 貴方が私にくれた魔水晶(もの)

「ふむ、人材・・・と言うと君が今手伝っているヴァイデ家関連の話かな?」

「はい、何とかかんとかこれまで領内のことは元々居たメイドさん1人で回してもらっていたんですがいきなり領地が広がることになりまして。私もそんなにかまってはいられませんので文官武官その他若干名を見繕っていただければと」

「いや、いくら准男爵領の広さとは言ってもメイド1人でやりくりするとかメイドの範疇越えてるよね・・・。その子、家に貰えないかな?」


人が足りないって言ってるのにどうして引き抜こうとしてるんだこのインテリヤクザ・・・。

まぁ三人も最上級貴族が居れば適当に声をかけるだけでも人を集めるなど造作も無いことで、とりあえず三日後に王都に滞在している下級貴族や商人などなどの次男三男四五六~の面接をする段取りに。


有能な方々は話が早くてとても助かる。


「それで、その程度の話でわざわざこの顔ぶれを集めたわけではないのだろう?」

「ええ、もちろんですコーネリウス閣下」

「パパって呼んでもいいんだよ?」


呼ばねぇよっ!!


「んんっ、お話はもちろん前回説明させていただいた物資のことです。塩と鉄・・・と言うか鋼に関しては目処が立ちましたのでご連絡しておこうかと思いまして」

「さすが婿殿、色んな意味で手が早いのであるな!・・・魔水晶に関しても頼っても良いと考えて良いのであるかな?」

「早いのは『手』ではなくて『手回し』と言っていただきたいのですが。魔水晶・・・ですか?」


エルフさんには風の魔水晶しか渡してないんだけど・・・何か気づかれてるのか?それともガイウス公が・・・話すわけないよな、メリットが皆無だもん。


「ん?卿は魔水晶にまで伝手があるのか?いや、そう言えばキーファー家のご家族はみな『光の魔水晶』をお持ちでしたな」

「ああ、それに家の娘にも今まで見たこともない様な大きさの『風の魔水晶』を贈ってもらってますからな」

「いえ、あれはたまたま手元に持ち合わせがあったのを買っていただいただけでして・・・」


他の御令嬢から冷気が漂ってくるから贈ったとかプレゼントとか逆立ちしてるキリンとか余計なことを言うのは止めようね?

しかし魔水晶か。確かにアレも軍事物資なんだよなぁ。特に光の魔水晶は数が揃えばゾンビアタックに近いことが可能になるし。

チラッとガイウス公に目配せすると軽く睨まれたが分かってもらえたらしく


「属性の付いた魔水晶に関しては我が領内で多少は融通出来るので心配はいらないとだけ言っておこう」

「ほう・・・その様な話、いままで聞いたこともありませんでしたが」

「いくら最近は親しくしているとは言え全てを詳らかにする筈がなかろう」

「もっともな話であるな!」


てことで塩と鋼に関してはエルドベーレのディアノ商会まで取りに来てもらうことでご納得頂いた。

魔水晶は商会ではなくキーファー家の取り扱いになる。属性付きの魔水晶は物が物だけに有り難い話だ。まだまだ吹けば飛ぶような小さな商会で扱うには荷が重すぎる。


「ああ、鋼の見本としてこちらのインゴットと・・・剣を打った物があるのですがここで出させていただいてもよろしいですか?ガイウス様に合わせて作らせていただいたので宜しければ献上させて頂きたいのですが」

「ほう、剣とはお前にしては気が利くではないか。すぐに出すといい。早く、早急に!」


お、おう、えらい食いつくな、武器とか好きなのかな?さすが野蛮な方のコナ○。でも『好きなもの砂糖と武器』とかどうなんだろうか。それ、冒険小説(ラノベ)ならヒロイン枠だよね?

もちろん作ったのは幅広の無骨な両手剣、そのままだと貴族様が持つには少々地味過ぎるので剣の腹にそれっぽい紋様を刻み込んで鞘は黒塗りにして回りに龍を巻き付かせ目には火の魔水晶を埋め込んだ完全なる厨二仕様。


鞘に入ったままの剣の柄を握ると龍の目が光る様になっている。

もちろん剣身には強化と鋭利化の付与(エンチャント)がしてあるので鉄製の鎧くらいなら叩き切れる切れ味である。

付与とかしたら鋼のデモンストレーションにならないとか細かい事は気にしない。付与スキル?もちろん新しく取った。


手渡した両手剣を鞘からすらりと抜き放ちじっと見つめるガイウス公。ギラギラした眼で刃物を見つめるただの危ないおっさんである。


「これは・・・美しい・・・実に、すばらしい剣だな!!確かに俺のために誂えたと言える重さと長さ、鞘の装飾も実に美麗。握っている手に伝わる剣の力・・・まさか・・・これは魔剣か!?誰か!古い鎧を一領持ってこい!!」


慌てて走り出す侍従の兄ちゃん。てか公爵のテンションたけぇなおい。

さすがに室内で試し斬りはしないよね?・・・どうやら庭に出るみたいだ。てかその剣、『魔剣』なんて呼ぶほどの性能は無いからね?

えっ全員で付いていくの?もう話し終わったし俺だけ先に帰っちゃ駄目?ああ、このあとみんなに夕食を振る舞えと。調理するの俺なんだ?別にいいけど・・・うちの幼女二人とメイドさんも連れてくるよ?


いつの間にか隣で手を繋いでいたヘルミーナ嬢に抱っこしてくれとせがまれるもさすがに今日は他所様がいるのでやんわりとお断りする。

ぷくっと頬を膨らますのがとても愛らしくて頬をつついていたら後ろにいる御令嬢が3人で凄まじいまでの圧を発しだしたので慌てて姿勢を正す。

子供にそう言う態度は良くないと思います!


そして試し斬りだけど・・・カカシのような物に着せられた傷まみれの鉄製の全身鎧にむけてガイウス公が剣を袈裟斬りに振り下ろすと特に抵抗もなく斜めに斬り裂かれた。

まぁ付与もない普通の鎧だとそんなもんだろう。


「・・・この切れ味・・・凄まじいな・・・」


てか他のおじさん連中にむっちゃ見られてるんだけど後は勝手にそっちで作ってね?おじいちゃん、さっき材料の見本(インゴット)は渡したでしょ!


その後の晩餐では(フリューネ家やヴァンブス家のご家族も沢山集まり)ミヅキが女性陣に施術(それ一応祟りなんだけどなぁ・・・)をせがまれたり、連れてきた幼女(ヴィオラ)が集まっている面子との挨拶であわあわして失神しかけたり、インテリヤクザがドーリスを勧誘したり、ドーリスがそれに対して「私のお仕えする御主人様はハリス様だけです」とうっとりした顔で頬を染めて答えたり、それを聞いた御令嬢が全員で俺のことを睨んだり・・・など俺以外は穏やかな雰囲気での食事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る