東の果て編 その8 可愛いから許す

さて、翌日の早朝である。そこそこ忙しくあちらこちらと動き回らなければならないかもしれないので夜明け・・・には俺が起きてるはずもないので8時くらいなんだけどさ。

そんなに早朝でも無かった。


「幼女、もし途中で手を離したら永久の時間を異次元で漂うことになるかも知れないから気をつけるんだぞ?てかえらい重装備だな?そんな荷物とかいらないぞ?」

「なにそれ恐い・・・。だって今から旅に出るんでしょう?むしろハリスはなんでそんないつも通りの着の身着の儘なのよ」


何でって言われてもそれが俺だからとしか。いや、冗談はさておきここに来た時もこの格好だっただろうが。


「じゃあミヅキ、今日中に、遅くても明日の夕方までには帰ると思うけど気をつけてな」

「任されたのだ」

「ちゃんと掴まっておくんだぞ幼女。・・・転移」


『転移には魔法陣を双方に用意しないといけなかったんじゃないの?設定忘れたの?』って?まず設定って言うな。

そして行き来に魔法陣が必要だったのは闇魔法のランクが7だったからなんだよ。今はランク10だからな!

あと魔法陣を使うと消費魔力が激減するので多人数の転移移動の場合は魔法陣を使わないと駄目な事も。


ちなみに魔法陣を使わない転移の条件だけど『行ったことがある(詳しい視界情報がある)場所』ならほぼどこでも行ける。転移魔法を発動すると設計スキルを発動した時と同じ様な地図(行ったことのない場所は表示されない地域地図?)だ出るのでそこからどんどんと地図を拡大していって行きたい場所の座標を指定する感じ。

ちゃんと伝えられてる自信がないなこれ。


「到着ー、エルドベーレの金貸し屋前ー」

「えっ?えっ?あれ?家の中・・・外・・・」


混乱する幼女の手を引いて相変わらず人相の悪い門衛に手を上げて挨拶しながら勝手に中に入っていく。


「邪魔するぞー、組長いるかー?」

「ここは真っ当な商会だっつってんだろうが!!商会長はいるけど組長はいねぇよ!!」

「おお、いたいた、久しぶり。ほら、ここも一応悪徳って付くけど商会名乗ってたから何かの役に立つ可能性も・・・」

「付かねぇよ!!あと可能性の途中で諦めんなよ!最後まで頑張れよ!!」

「小さい子がいるから怖い顔で大きな声を出すの止めてもらってもいいですか?」

「お前は!・・・はぁ・・・まぁいいや。確か少し前に街を出たって聞いたけどまた戻ってたのか?で、朝っぱらから何の用だ?」


背もたれにもたれかかり疲れた顔で聞いてくるおっさん(みたいな老け顔の)兄ちゃん。

大量に食料を仕入れたいこと、知り合いに信用できる商人が居ないか、人に知られていない鉱山などはないかと質問していく。


「いや、うち土建屋だからな?さすがに食料を扱うような商会とそこまで親しい付き合いは無いぞ。信用できる商人はそれなりにいるけど大店ではないし。それに何だよ最後の人に知られてない鉱山って。知られてないのにどうして俺が知ってると思うんだよ」

「だってほら、埋めたりしてるだろ?人とか廃棄物とか。あと人とか」

「埋めてねぇよ!どうして人を2回言ったんだよ!てか隣の嬢ちゃんが怯えて震えてるじゃなぇかよ!」

「ちっ。まぁ仕方ないか、もともと期待はしてなかったしな」


「お前舌打ちした挙げ句にその言い種は人間としてどうかと思うぞ?いや、そんなこたぁどうでもいいんだよ!この前の鉄と材木!ありがとうな!資材不足気味だったのがあれのおかげで他の現場の行程もえれぇ進んで助かったわ。てかもしまだ材木に余裕があるなら売って貰えねぇか?相場の二割増しまでなら出させてもらうから」

「いや、30軒くらい建物建てたところだから今はそんなに在庫は・・・ああ、この前みたいに取り壊す建物があるなら全部折半でいいなら請け負うぞ?」

「マジかよ!!いや、こっちから頭下げて頼みたいわ。靴とか舐めたほうがいいか?」

「幼女が違う意味で怯えるから止めてね?」


先に伯爵家に面会の申込みをしないといけないからと仕事の話はまた日が暮れてからって事で事務所をおいとまする。

なので必然的に次に向かうのは伯爵邸だ。

てかさ、ここの門番、むっちゃ感じ悪い。準男爵が直々に着任の挨拶に来てるのに「子供二人でごっこ遊びでもしてるのかな?」みたいな態度だもん。

・・・うん、まぁ見た目がまさにそんな感じだから仕方ないか。

てか幼女、お前も身分証の短剣くらいは持ってこいよ!昨日伯爵と面会に行くって伝えてあるだろうが!


「ご、ごめんなさい・・・」

「可愛いから許す」

「そ、そう?」

「いや、愛らしいだけではさすがに面会の取次は出来んぞ・・・」


仕方がないので俺の身分証を出す。


「・・・はっ!?伯爵様でいらっしゃいましたか!?!?」

「あーあーあーあー!!そう、伯爵様!いらっしゃらないなら担当の方で結構ですので取次よろしくねっ!!」

「ハリス、騒がしいわよ」


誰のせいだと思ってるんですかねぇ・・・。

てか早速使っちゃったよアプフェル伯の身分証(貴族の短剣)。

そして下にも置かない案内で待合の部屋に通されてお茶とお茶菓子を出されたものの2分くらいで面会の用意が整ったと応接間に通される。


「ねぇ、伯爵様に面会するってこんな来たすぐに出来るものなの?」

「たまたま暇だったんじゃないかなー?」


部屋の中で待っていたのは20歳手前くらいの美少年。


「いいとこのボンボンで男前とか死ねばいいのに」

「初対面でいきなりの罵倒!?はははは、面白いね君」

「いえ、ついつい本音が・・・申し訳ありません」


嫌味のない笑顔で爽やかに笑う美少年、イラッとする!


「申し訳ないが父は今王都にいるのでね、代わりに僕がご用件を伺いたいんだけど構わないかな?」

「もちろんです、いきなりの訪問にも関わらず早急なお取次ぎ感謝いたします」

「いや、そんなに畏まられるとこちらのほうが萎縮してしまうよ。ぼくの名前はエオリア、一応エルドベーレで留守を預かっているラフレーズ家の次男だよ」

「エオリア様ですね、お初にお目にかかります。こちらはこの度ヴァイデ准男爵家の家督を相続する事になりましたヴィオラ嬢でございます。私はしばらく後見をさせて頂く予定のハリスと申します」


「ほう・・・卿が後見・・・つまりヴァイデ家は寄り親を変えると?・・・いや、少し待って・・・ハリス・・・最近聞いた名前の様な・・・はっ!?竜殺しのハリス!?!?」

「あーあーあーあーあーあーあー!!!!」

「ハリス!いきなり大声を出すとか伯爵様に失礼でしょう!ほら、ちゃんと謝って?」

「少し持病のあーあー病が出てしまったようで・・・申し訳ありません」

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