東の果て編 その9 手を触れて泥で汚そうとするなら

プクッと頬を膨らませて怒ってますアピールする幼女と状況がまったく飲み込めてない伯爵家次男。ちょっと面白い構図である。

ちなみにここでのお願いは『信用出来そうな商人を紹介してほしい。ちなみにその商人が何か粗相をやらかしたら当然責任は取ってもらうぞ?』である。


なんちゃって貴族の准男爵家が伯爵家に責任を取らせるとか普通なら草生え散らかす様な要求なのであるが門番に俺の身分証を見せちゃったのでその程度の態度で出ないとこちらが(俺を叙した公爵様も含めて)舐められるのだ。貴族の世界、ホント面倒くさい・・・。


「んー・・・そうだね、こちらで選別して紹介は厳しいかなぁ・・・さすがに僕では付き合いがある商人なんていないからね。人となりが全くわからないもの。だから有力そうな商人をこちらで集めるからその中からそちらで選んで貰うってのはどうかな?そうだね、三日後の正午にここの広間でどうだろう?」

「はい、それで結構でございます」


ちっ、こいつ・・・なかなか侮れないな。『責任?知らねぇよ。自分のケツは自分で拭きやがれ』って言いやがった。

まぁそれはそれで伯爵家の紐付きじゃない人間を探せるからいいんだけどさ。


「お手間をおかけしますがよろしくおねがいしますね」

「ああ、こんなことくらいならいつでも頼ってくれて構わないさ。他に『准男爵家としての』御用は何かあるのかな?」

「いえ、得にはございません。温かいお言葉ありがとうございます」

「ではヴィオラ嬢にはのんびりお茶でも楽しんでいただくとして・・・卿とはもう少しお話しておきたいかな?」


えー、やだよ面倒くさい・・・。でも幼女はこれからも付き合っていかなきゃならない相手だからなぁ・・・しょうがないにゃあ・・・。

私どこか連れて行かれるの?みたいな顔でこちらを見てる幼女を笑顔で送り出す俺。大丈夫、そっちはホントにお茶しながら菓子食って待ってるだけだから。


「えっと、改まりましてご挨拶させていただきます。先程は生意気な言葉遣い、大変失礼いたしました」

「いやいやいや、先程のままで結構ですよ?こちらこそ先触れもなくいきなりの訪問、誠にご無礼いたしました」


いやいや、まぁまぁと日本人の様な謝り合いをする俺と伯爵家次男。


「えー、こちらも一応ちゃんとしたご挨拶を。キーファー公爵家でお世話になっております・・・おりました?『アプフェル伯』ハリスと申します」

「やはりあの詩に歌われる竜殺しのハリス卿でしたか・・・」

「えっと、なんです?その詩に歌われるって言うのは・・・?てか竜殺しはバカ・・・失礼、とある方のお手柄のはずですが?」

「ああ、まだ聴いたことないのかい?『竜殺しと美姫の恋歌』。北都から王都ではもう演劇にもなっているのに。東都方面ではまだそこまで有名じゃないから仕方ないのかな?」


「なにそれまったく聴きたくないんだけど・・・」

「て言うかあの詩って何種類かあるけどどれがホントなのかな?やっぱり最初の『孤児と令嬢の愛の詩』?それとも『幼い恋心と令嬢の永久の詩』?『小さな姫騎士と不器用な黒騎士の初恋の詩』と『王女と真実の想いの詩』はまだ見てないから僕も良くはしらないんだけど」

「タイトル聞いただけでもおそらくは全部ウソなんだよなぁ・・・」


とりあえず今後一生劇場には近づかないでおこうと心に誓う俺だった。


「で、話は変わるけど・・・自分の住んでる街を貶すのも何だと思うけど卿が王都を離れてこんな寂れた港町に、いや、そこから更に奥にあるこの国の最果ての准男爵領に訪れた理由はなんなのかな?」

「んー・・・身内の恥を晒す様な話でなんだけど公爵家の御次男と少し反りが合わなくてね。出奔してきちゃった☆」

「いや、きちゃったとか可愛く言われても・・・そもそもそんな理由で公爵家を出るとか・・・挙げた手柄を考えても王国建国以来最速の伯爵叙爵じゃないかな?なのに出てきちゃったって・・・無茶苦茶だね君」

「そして准男爵領に居る理由だけど『特に予定もすることもないからなんとなく最東端を見に行ったら泊まったお家のお嬢さんが遠い親戚だったのでなんとなく力を貸すことになった』から」


「・・・卿ほどの人物がそんな理由で准男爵家程度の手伝いをしていると?とても信じられないんだけど・・・」

「そんな事言いだしたらこの街にいた半月ほどは街の飯屋で住み込みで働いてたんだけど?」

「本当に何をしてるのさ君は!?」

「自分で言うのもなんだけど基本的には流されやすいただの兄ちゃんなんだよなぁ・・・」


もちろん女の子限定だがな!男?自分で道を切り開け。


「それで、今回は商人を集めて何をするつもりだい?」

「ん?普通に領内の生産が落ち着くまで食料品を購入したいのと特産品を売りたいからだけど。てか准男爵家の当主が討ち死に、なおかつ領民の男手も結構な数が亡くなってるのにそのまま放置とか寄り親としては少々情けが無さ過ぎじゃないですかね?理由もなくこの対応なのだとしたら少々ヴァイデ家の忠誠も向ける先を考えないといけないかも知れませんが?」

「いや、その辺は今回の魔物の氾濫があった迷宮の管理者である『ラモー男爵家』が取り仕切ってるはずなんだけど・・・見舞金も無いのかい?」

「んー・・・細かい説明は聞いてないけど屋敷に残っていた金目の物一切合切売り払って領民に一時金を支払ってたくらいだしな」


「それは何と言うか、こちらの監督不行き届きで申し訳ない」

「俺個人的には特に他人に期待してないから別にって感じだけどね。でもほら、ヴィオラ嬢、真面目過ぎるくらいに真面目だから。もしも次にそのナンタラ男爵が不祥事でも起こすようなら・・・潰すぞ?もちろんそれにこちらのお家が加担すると言うのなら纏めて」

「それはおっかないな・・・でもいくら公爵家お気に入りの伯爵様でもそんな勝手なことが」

「出来るさ。竜殺しなんて噂が聞こえてるんだったら王子に喧嘩売ったのも知ってるんだろ?俺の大切だと思うものに手を触れて泥で汚そうとするなら」


預かってる5つの家紋入りの指輪をジャラジャラと机の上に取り出して


「その相手は泥じゃなくて血まみれにしてやらないとな」


とてもいい笑顔でそう応えてやると引きつった笑顔で返してくるエオリア。


「その件に関しては早急に調査するから少しだけ時間を貰っていいかな?いや、君、若いのに本当におっかないね」

「いやいや、ただの飼い犬だし面倒事は大嫌いだから基本的には至って温厚だよ?わざわざ子犬の尻尾を踏みに来る様な相手以外には」

「そんなバカがうちの寄り子にいないことを願うばかりだね・・・ねぇ、よかったら僕と友達になってもらえないかな?こう見えてあまり同年代の友達がいないんだよね」

「えー・・・」

「どうして嫌そうなのかな!?」


だって男前は敵だもん。


「じゃあ申し訳ないけど商人の件はよろしく」

「ああ、了承したよ。それで集めるのに三日ほどかかるけどその間はどうするのかな?うちで部屋を用意するかい?」

「いや、ヴィオラ嬢は向こうに一度連れて帰るよ。俺も色々と用があるからまた三日後に」

「そうかい?じゃあ楽しみに待ってるね?」


席を立ち、握手を交わしてから部屋を出ていく俺。



「・・・いやいやいや、なんなのあの威圧感・・・一人で竜を退治したなんて眉唾ものだと思ってたけどあながち嘘だとも思えないな・・・何にしても一度キッチリと他の寄り子の貴族を引き締めておかないと冗談じゃなくこの街ごと更地にでもされかねないよ・・・」

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