東の果て編 その4 だってそれが貴族の役目でしょう?
てことで翌日である。よく食べる幼女が二人になったのであさからガッツリとハムたまごサンド(卵焼きバージョンとクラッシュしたゆで卵マヨバージョン)をいっぱい食べた後ヴァイデ領の見学。いや、特に見どころもなにもないんだけどね?
そこそこの広さの領内にまばらに家が建ってるだけ、それも半分くらいは空き家と言う結構な限界集落。
山手は手付かずで鬱蒼としてるだけで特に木材の産出をしてるわけでもなく海側は開発するほどの予算もないので寂れた漁師村。そんなに広くない平地では麦もそれほど取れそうもなく細々と野菜を作るくらいで精一杯か。人口100人いるのかこれ?
「うん、こんな所の領主なんて絶対に嫌だわ」
「・・・言い返す言葉がないのが悔しい・・・それでも三ヶ月前まではそこそこ上手くいってたのよ!!それが・・・」
特に屋敷に居てもすることがないのか付いてきた幼女が悔しげに呟く。
領主様が死んでるんだから付いていった領民兵もかなり死んでるんだろうなぁ。
「これから・・・どうすればいいと思う?」
「爵位を返して自由に生きるのがいいんじゃない?」
「そうもいかないわよ、お祖父様もお祖母様もお父様もお母様も頑張って守ってきた場所だもの・・・」
「でも出来ることと出来ないことがあるだろ?何かをしようとすればまず必要なのはマンパワーだぞ?見た感じ働き手になりそうな若い男手も期待出来そうにないしゆっくり消えて行くどころか今年中に全員が飢え死んでもおかしくない状況だろこれ」
だいたい何かしようにも領民がそれを聞くとも思えないしさ。だってすれ違う子供、遠くから見つめる年寄り、作業中の老若男女別け隔てなくむっちゃこっち睨んでくるんだぞ?
「だいぶ嫌われてるな」
「・・・いっぱい死んじゃったから」
「魔物相手なら降参も出来ないしどうしようもないだろ。一時金とかは出せたのか?」
「うん、お家に残ってた売れそうなもの全部売っちゃった」
ああ、確かに価値の有りそうな物は何もなかったもんなぁ。
てかどんどん暗い話になっていくの勘弁してくんないかな?俺、ただの旅人なんだけどな。
「たぶん少々何かをしてやってたとしてもここの領民が幼女に感謝するようなことはないぞ?それでもどうにかしたいのか?」
「うん、だってそれが貴族の役目でしょう?」
貴族は貴族らしく・・・か。そう言う人間は嫌いじゃない。むしろハッキリと好ましいと言える・・・んだけどさ。
ヤル気のない人間をどうこうするのとか死ぬほど面倒なんだよなぁ。そもそも嫌われてる相手になにかしてやろうと言う気に俺がなれない。
そう、もう何度も何度も繰り返し伝えているが俺の心はカブトエビの額より狭いのだ!!カブトエビ?ほら、田んぼとかにいるなんかこう気持ち悪いやつ。
「あれだ、ここの寄り親ってたぶんエルドベーレって街を治めてるナンタラ伯だろ?この際そいつに丸投げでいいんじゃないか?」
「・・・駄目よ、私が死ぬまでは私がここの領主だもの」
まったく、よく出来た元親戚様だことで。
・・・この領民数でこの場所で興せるような産業・・・塩作りくらい?
いや、砂糖も作れるか?
「てかこの領地って商店とかあるの?」
「商店は無いけど行商人が・・・三ヶ月前までは月に一度か二度来てたけど・・・」
お父上が亡くなられてから来てないと。まぁ人も減って金もないような遠隔地に態々来るような人間もいないわな。
一時金を作るために金目のものは全て売り払われたとなればなおさらな。
普通に目端が利く商人ならそれ以上は関わりを持たないのが当たり前。俺が商人でも間違いなく付き合いを考える。
義理人情では家族や従業員を食べさせていけないからな。
・・・でもそれで納得出来ないのもまた仕方のないことだとも思わないか?うん、そのうち何らかの仕返しを是非ともしてやりたいものである。
とことんまで繰り返すが俺の心はミドリムシの額よりも狭いのだ。最終的には三日月藻の額よりも狭くなると思う。藻に額があるのかどうかと聞かれれば多分無いんじゃね?と答える。そしてミドリムシと三日月藻のどちらがサイズ的に大きいいのかは不明である。
まぁ商人の方は商品が出来てからでも問題ないからいいか。
一応ハリス君とは血も繋がった親戚らしいし・・・いや、どちらかと言えばそんなつまらない繋がりより、気持ちのいい生き方をする幼女のその心意気みたいなものの為にどうにかしてやってもいいかもしれないな。
このまま放っておけば生き様じゃなく死に様になりそうだしさ。
どうせこれから寒くなっていくだろうし?冬の海ってのも悪くないだろう。あくまでも見てる分には。蟹とか取れないかな?タラバよりもズワイがいいです。
毛ガニ?あれはほら、食べるところが少ないし見た目が毛深いおっさんだし・・・。
幼女の顔をしっかりと見つめると力強い瞳でしっかりと見つめ返してくる。
「ヴィオラ」
「は、はい!」
「どうしてもって言うなら『ちゃんとこちらの指示に従う領民からは』今年の冬に餓死者や凍死者が出ない程度に手を貸す程度なら吝かじゃない」
「・・・ほんとうに?」
「ああ、ほんとうに。あ、でもここの領民の為とかじゃなくあくまでも君のためにだけどな?」
「・・・うん!ありがとう」
おう、なかなかいい笑顔だ。でも頬を染める必要はない。なんたって身内らしいからな。きっと過去に何らかの迷惑をかけてるだろうし。
「もちろん手を貸すからにはタダ働きをするつもりはないからな?当然対価をもらう」
「対価・・・た、魂とか?」
「おい、こんなに優しい親戚のお兄ちゃん捕まえて悪魔扱いとかどういう了見だ幼女」
「お兄ちゃんじゃなく弟だし!私16歳だし!」
ナンタラの学校?にも通ってるみたいな言い方されても知らんがな。
そもそも見た目がなぁ・・・。これから成長期がくるといいね?(生暖かい微笑み)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます