王都公爵邸編 その23 お買い物デート!・・・デートかこれ?

 まぁ王女と二人なら馬にタンデムって方法もあったんだけど・・・こちらには俺の連れの幼女(蛇)もいる。

 仕方がないのでジョシュアじーちゃんに小型の馬車を出してもらって乗って行くことになった。いつも面倒をかけてごめんよじーちゃん。

 街に向かう馬車の中では何が琴線に触れたのか終始ニコニコとしている王女が少し怖かった。

 ほら、マフィアは相手を殺したい時は優しくして油断させるとかなんとか・・・。


 今日はあえて大きな馬車(ゆったり6人乗り)ではなく小さな馬車(ギリギリ四人乗り)なおかつ『お忍び用の家紋が入っていない車両』なので走行中の馬車の窓から外を眺めることも出来る。

 町並みは北都よりも頑丈そうな石造りの建造物が多く全体的に裕福そうに見えるな。・・・まぁ外周に向かうほどにそうでも無くなってくるのだが。

 今まであまりこういった観光的な事をする余裕もなかったので俺も少しテンションが上ってしまう。


 てかさ、馬車で出かけるなら案内も何もいらないんだよね。

 そもそも御者さんに行き先を告げるだけで目的地に向かってくれるので王女様の道案内は必要がなかったと気付いた。

 いや、この人勝手に付いてきてるだけだけれども。

 可愛い女の子・・・いや、『可愛い』と『女の子』の両方に疑問符が付きそうではあるけれども女性に『帰って?』とも言えないじゃん。


 最初に向かったのはもちろん酒屋さん。


「そなたは酒が好きなのかえ?」

「いえ、私はそれほどは好みませんね。むしろお茶や甘い物の方が好きなのですがこのへ・・・ミヅキが」

「ならなぜ買いに来た・・・と言うかその幼女が酒を飲むのか?」

「うむ、我への供物なのであるぞ?そして我は幼女ではなくミヅキなのじゃ」


 王女様が『お、おう、そうか、何いってんだこいつら』みたいな顔をしているが説明するのが面倒くさい上に説明しても厄介事にしかならなそうなので「ははは」と愛想笑いだけしておく。あ、貴族だからここは「ほほほ」にしておくべきだったか?

 でも一人称が『麻呂』の人も語尾が『おじゃる』の人もいないしなぁ。


 てかさ、日本に居る時はよくファンタジー物の小説とか読んでたんだよね。

 で、貴族の当主のこと『お館様』って呼んでることってあるじゃん?

 でも屋形号って基本的には幕府が大名に許した尊称じゃん?

『信長が誰それに許可した』とかもあったらしいけど、あの方最終的には『右大臣』だから征夷大将軍より位は上だしさ。


 なんとなくもにょる・・・。幕府もないし御所様も公方様も出てこないのにお館様だけはよく出てくる、何故なんだぜ?

 などと『細けぇことはどうでもいいんだよ!何となく呼び方がカッコよければOKなんだよ!!』と言われそうな妄想をしてるうちに酒屋・・・と言うには規模のデカいお店?倉庫?に到着する。


 ヒャッハー!無駄遣いの時間だぜぇ!!・・・うん、一応有り金全部持ってきたけどそこまでは多くは無いからね?あくまでも常識的な範疇でお願いします。

 それと王女殿下、お支払いはご自分でお願いいたしますね?そんな『何処其処の何年もの』だとかいうピンポイントな品物はお値段の桁が2桁ほど上がっちゃうからプレゼント出来ませんので・・・。


 まぁ蛇は基本的に味より量だしな。最近つまみの味にはやたらと拘るけどお酒はそうでもないみたいだ。

 てかややこしい注文とかあるから俺が作らなければいけない事が多いんだよなぁ。なぜかそれを嬉しそうに食べるAさんとかもいたりするし。

 まぁ世話にもなって・・・世話に・・・果たして俺は王都に来てからAさんに世話になっているのであろうか?

 いや、普通に洗濯とかはこちらでもAさんが担当してくれてるな。うん、お世話になってた。


 お酒とか言うやたら嵩張る物の大量購入、さすがに買ったものが持ち運べない量だったので(王女様もいるし時空庫は使いたくないし)当然ではあるが公爵宅までデリバリーしてもらうことになる。・・・いや、デリバリーして貰おうと思ったんだけど公爵家の人間だって分かるものを何一つ持ってないという・・・。

 まぁ一介の使用人がそんな物持ってるほうがオカシイんだけどね?普通メイドさんなどが買い物に出る場合は何かしらの目印のようなものを所持しているらしい。


 どうしよう・・・と思ってたら王女様が『王家の紋の入った短剣』で身分を証明してくれたので事なきを得た。

 その後『このような場所に王族様だと!?全員ひかえおろう!!』みたいな事になったけどさ。

 王女様に関しては被ってるフードを降ろしたら身分証なんて見せなくてもどちら様かすぐに分かるんだけどさ。赤い髪の絶世の美女だもん。見た目はって後に続くけど。


 さて、酒屋さんと言うか酒問屋の次に向かうのは香辛料を扱っているお店。

 ・・・うん、どうしても作りたいものがあるんだ。

 こちらは先程の酒屋とは違い倉庫的な店ではなく普通の店舗・・・でも無いな、やはりそこそこでかいし。

 そもそもこの辺は上級市民街だから貴族や裕福なご家庭用の卸しの商いをしてる店ばっかだからね。


 香辛料なんて国内で生産されるのは生姜やニンニク、ギリギリ唐辛子までで日本人が香辛料で思い浮かべる物・・・胡椒にシナモン、ウコンにターメリックなどなどは完全に輸入物だ。

 店先に並んだそれらを重さを計ってもらい購入するわけだが。


「まぁ何がなんだか見て分かる分かるはずもなく」


 もちろん生姜、ニンニク、唐辛子、山葵・・・ギリギリで胡椒まではなんとなく現物を見たことがある。あ、八角も形でわかるな。

 長いル○ンド(ブルボンのボロボロこぼれる旨いやつ)みたいなのがシナモンで長い虫(ナナフシ)みたいなのがバニラか?うん、思ってたよりもわかるもんだな。

 でも材料として何が必要なのかはイマイチ不明なので適当に色んな種類を選んで買っていく。ちなみにウコンはう○こみたいな形ではなく生姜に似た形をしていた。


「少し勉強させていただいて合計で金貨35枚になります」


 ・・・もちろん胡椒が金貨と同じ重さなんてことはあるわけも無いがお高いよね香辛料・・・ああ、砂糖もそれなりの斤量買ったからか。

 こちらももちろん公爵家にお届けしてもらう事に。何故かお会計が金貨30枚に下がった。

 砂糖に関しては量も欲しいし一度自家生産を試すべきだな。


 お財布・・・軽い・・・。お賃金、公爵からお駄賃、ご長男からお小遣いとそこそこの小金持ちだったのに・・・夕方にはもうチャリンチャリンで少々寂しい。

『俺たちの買い物はここまでだ!!』エンドを迎えそうな俺。でも後一軒だけ行きたい所が。


「・・・そなたは服屋ではなく生地屋で何か買うものでもあるのか?」


 と、不思議そうな顔の王女様。もっともなご質問。

 普通の大貴族様は自分で仕立てなんてしない、と言うよりも服が欲しいなら仕立て屋を屋敷に呼び出すものだ。

 もちろん俺の目的は自分の予備の服や下着その他諸々を作ることなんだよ?

 だって現状仕事着はフィオーラ嬢に仕立ててもらった一着しか無いので着たきり雀だしさ。

 普段着は古着を買ってきて設計スキルで布から作り直したものを着ている。

 でも手動(足動?)のミシンも無い手縫いだけの世界。仕立て代がお高いので古着でもバカにならない値段になってしまうのだ。

 それなら最初から生地、いや、むしろ糸を買うほうがかなりお安く付く。・・・はず。


 てか俺、スキルで糸自体の紡ぎ直しも出来るから『元の素材(麻、綿、絹などなど)の質』さえ良ければ熟練の糸紡ぎ職人(そんな職人さんが居るのかどうかは不明だが)が紡ぎ出した最高の糸でまったくムラのない、織り機で織りだした最高の生地をちょっと厨二病がかった俺のデザインで仕立て上げると言う『一人産業革命』が出来るわけである。

 織物スキル&裁縫スキル万歳!そして設計スキル様様である。


 てなわけで麻糸、木綿糸、絹糸と資金の許す限り・・・あ、なめし皮もあるんだ?そちらも少し欲しいな。毛皮はまた今度にします・・・購入。

 おおっと、忘れるところだった、糸を染める染料も置いてます?ある?よし、そちらも・・・香辛料に負けず劣らずお高いなおい、くやしい・・・でも買っちゃう・・・。

 なぜか「やはり私には赤だろう」と赤い染料も買わされたけどいい買い物が出来た・・・はず。

 はい、送り先は公爵邸で。


「しかし・・・服ではなく生地でもなく糸か」


 うん、買い物した素材を見て意味深に呟くの止めよう?それでなくとも王女様は強キャラムーブ満載だからさ。

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