王都公爵邸編 その20 招いてもいないのに来る人達

 時は流れて・・・王都の公爵邸に来てから早ひと月。

 前半半月の慌ただしさを考えると後半半月の無風感に少し気が抜けてきている今日此頃。

 まぁそれなりに働いてはいるんだけどね?


 まず、なぜだか俺に会見の申込みがそこそこあった事。


 最初に来たのは上の兄。剣の得意な方の兄だな。

 どうやら今は騎士団で務めているらしく、俺の決闘の噂と名前を聞いてまさかとは思ったが会いに来たらしい。

 相変わらず昔通りの少々暑苦しい人間だったが個人的には嫌いじゃない人だ。

 てか俺がいつの間に剣術を使えるようになったのかと物凄く驚いていた。

 まぁ決闘では素手だったので殴り倒しただけだって訂正したら微妙な顔になったが・・・。

 火傷痕も治り元気そうで何よりだと我が事のように喜んでくれた。



 次に来たのは元婚約者の子爵とその娘さん。

 正直どう対応すればいいのかわからない相手筆頭みたいな人たちだな。

 やたらと美辞麗句を並べて俺を褒め称え娘が俺を如何に愛していたかを朗々と語る。

 いや、お宅の娘さんと顔を合わせるの今回がほぼ初めてなんですが・・・。


 どうしようかと悩んでいるとフィオーラ嬢が部屋に来て


「あら、そちら様はどなた様なのかしら?へぇ・・・貴方の元婚約者様とそのご家族様?貴方が北都で苦労している時にはなんの連絡も無かったのにすこし貴方の名前が王都で聞こえるようになると会いに来たと?それでどう言ったご用件で・・・改めてそちらの娘さんと家のハリスの婚約ですか?ふふふっ、面白い御冗談ですわね?このあいだの決闘のお話はお聞きでは無いのかしら?ハリスはこの公爵令嬢である私の為にその身も顧みずに第三王子と事を構えたのですよ?それが今更そちらの娘さんと婚約?少しそちら様の寄り親の方・・・どなたかは存じませんが、その方とお話し合いが必要かもしれませんね?・・・あら、もうお帰りなのですか?ではご機嫌よう」


 追い返してくれた。ちなみに今の話を意訳すると


『今更どういう了見で親子揃って顔出しに来てんだああん?改めて家の若いのが欲しい?舐めとんのかワレ、公爵家に喧嘩売っとんならいつでもこうちゃるぞ!おおん?話にならんからお前とこの親父連れて出直してこいや!おい、誰か玄関に塩まいとけ塩!!』


 となる。

 効果は『可愛そうな父娘が真っ青な顔で帰って行く』だな。



 そして・・・真打ち登場、元実家、ポウム家のおばさんと次期当主である。

 てかもとハリス君のお母さん・・・むっちゃ人相が変わってるんだけど?

 何?別人?3年しか経ってないのに20年分くらい老けた?

 そして一緒に来た次期当主。あれ?兄ちゃん最初に来てたじゃん?残念ながら来たのはもう一人の方なんだ。

 上の兄は家業を継ぐより騎士の方が向いてると辞退したので家を継ぐのは次の兄になったんだな。

 どう考えてもデスクワークとか向いてなさそうだもんね、上の兄貴。


 まぁあの人らしいって言えばあの人らしいけどさ。

 腐っても準男爵家の跡取りだと思っていたのにいきなり騎士(位的にはまだまだ見習い)になってしまった兄、俺と同じ様に婚約も破棄されて未だ独身。

 まぁまだ21歳だしそんな気にするほどでもないけどね?


 うん、他のこと考えようと目の前の人達が消えるわけもなく


「ハリス・・・立派になって、お母さん嬉しいわ!やっぱりあの時教会にお預けして本当に良かった・・・」


 いや、預けたんじゃなくて捨てたよね?何があっても今後一切責任は負いませんって念書があったぞ?


「ほんとにな、まさかその歳で子爵様とは・・・兄としても鼻が高いぞ?」


 上の兄と違いこの人は人間が変わったなぁ・・・。

 てか身内と言えども爵位が上(むしろ兄はまだ家督も継いで無いから嫡子って言ってもほぼ一般人だよ?)の相手と話をしているって自覚もないのか?

 別にへりくだれとまでは言わないけどさ、貴族の常識が無いとこの先苦労するよ?

 ・・・頭がいいバカとかホントに扱いづらいというかなんというか。


「はぁ、それで何か御用でしょうか?確かそちらからは私に絶縁状が出ていたと記憶していますが?」

「そ、それは・・・いや、もちろんお前には申し訳ない事をしたと思っている、しかしあの時の我が家の状況を考えるとな?」

「いえ、別に(俺は)これと言って何とも思っていませんが(他人だし)」

「ほう、家族の想いに答えるその優しさ。さすがその若さで公爵閣下に認められただけはあるな!」


 褒め方が雑すぎだろ。元婚約者親子の方がそのへんは上手かったぞ?

 あと面倒だから要件をさっさと言えとは思ってるけど想いに答えようなどとは一切思ってなどいないからね?


「その、な、今度俺に子供が出来ることになってな」

「それはそれは、おめでとうございます?」

「しかしお前も知っての通り少々蓄えの方がな」


 俺の記憶では蓄えどころか借金しかなかったと思うけどな。

 火傷の時の慰謝料的なアレで一度チャラになったはずなのにまた借金を繰り返してるのかよ。


「ああ、お金の話ですか?貸してほしいのですか?それともストレートに欲しいのですか?」

「あ、あなた仮にも兄に向かって何ですかその口の聞き方は!?」

「むしろおばさん、仮にも子爵様に向かって何ですかその口の聞き方は?」

「あ、あ、あ、あなたは母親に向かってなんと言う・・・」


 血圧の高そうなおばさんだなぁ・・・頭の血管切れてそのうち倒れるぞ?

 そこから始まる罵詈雑言の数々。いや、もうホントに何しに来たんだよこいつら。

 そしてここがどこなのか分かってるのか?そこらの飲み屋だとでも思ってるの?

 めんどくせぇなーと思いながらも聞き続けていたら


「ハリスちゃん、どうかしたの?なんだか廊下まで騒がしい声が聞こえてたけど?」

「これは、リリアナ様。いえ、まぁ少し面倒事がございまして。本日は何か御用でも?お呼び出しいただければこちらからお伺いいたしますのに」


 リリアナ嬢が(たぶん特別な用件はなくただ遊びに)やって来た。


 部屋の中にいる俺とおばさんと次期准男爵を視界に捉えたかと思うとすっと目を細め


「そちらの女性の方が大声を出していた方なのかしら?特に面識もございませんし公爵家の方とは思えない貧相なお召し物で・・・あら、ハリスちゃんの元ご家族?ああ、私は『リリアナ・マルケス・バーム・フリューネ』と申します。確かポウム家と言えば『我が家の遠い遠い遠い寄り子』の方でしたかしら?それで、とおの昔に絶縁された元ご家族が何かご用でも・・・えっ?特に用は無い?あなたたち、特にご用も無いのに公爵家で子爵様を相手に大声を出していたと言うのですか?失礼ですがそちらの某さん?あなたには最低でも王族の方の後ろ盾でもあるのかしら?・・・無いの?ただの准男爵家の跡取り風情が公爵家で子爵様に対して大きなお声を出していたと?家族なので少し羽目を外してしまった?絶縁しているのですからすでにただの他人でしょう?寄り親に迷惑が掛かるなどと考えなかったのですか?もしかしてフィリューネ侯爵家に何か思うところでもおありですか?ああ、なるほど、ハリスとの絶縁と言うだけでは足りなかったのですね?それならそうとおっしゃってくださればいいのに。帰りましたら父と相談いたしまして早速我が家の派閥に廻状を回して全員から絶縁させていただきますわね?さて、これ以上のお話し合いは特に不要と存じますので速やかにお引取りを」


 いつもはおっとりと話すリリアナ嬢が少し早口でいっぱい喋った・・・。

 そして今回も話を意訳すると


『お前ら誰や?ん?ああ、家の組の下っ端(寄り子)か、で、何の用や?別に用はない?おどれら用も無いのに他所様の家でデカイ声で騒いどったんか?そないに親(寄り親)に恥かかせたいんか?はぁ・・・、わかった、オヤジ(侯爵)に言うて破門じゃこら、二度とうちの敷居またげると思うなよ?ぶち殺される前にいね!!』


 である。

 効果は『土気色になって動かない元家族2人がお屋敷の衛士さんに抱えられて外に放り出される』だった。



 教訓:どうやらフィオーラ嬢よりもリリアナ嬢の方が怒らせると恐いらしい。

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