王都公爵邸編 その3 お食事会・・・食前

 王都のお屋敷では思ったよりも豪華なお部屋を用意してもらえた。てか調度品とかベッドとかどう見ても客間なんだけど・・・。

 俺、ただのお嬢様の使用人なんだけど?お客様扱いとかされると少し困惑しちゃうんだけど?

 まあいいや、そろそろ晩ご飯だし。・・・うん、またまた問題発生。

 俺ってどこで食べればいいんだろうか?流石に知らない人ばかりのメイドさんの寮に入っていったら事案発生だよね?それ以前に寮が有るかどうかもし不明なんだよなぁ。


 うう、何コレ、軽いイジメ?北都ではこんな事なかったのに・・・。なんだかんだで(メイドさん)みんな優しいもん。たまにティン○ロス猟犬の様な瞳で見つめられるけど。

 はたしてあのワンコに目があったかどうかは定かでないけれども。

 あ、Aさん、ご飯何処で食べるの?今から向かうからご一緒に?もちろんご一緒しますとも!

 機嫌よくAさんとお喋りしながら食堂へと向かう途中に現れた黒い影・・・いや、フィオーラ嬢なんだけどさ。


「ハリス、何をしてるのかしら?お父様もお帰りになりましたしそろそろお食事の時間よ?」

「ええ、ですので食堂に向かおうかと」

「ならどうして反対方向に向かってるのよ・・・」


「えっ?」

「ん?」


「メイドさんとご飯ですよね?」

「家族と晩餐に決まってるでしょう?」


 いやいやいや、何で公爵家の家族の晩餐に俺が引き込まれてるんだよ!俺はどう考えてもそっち側では無いだろ!

 家族の晩餐が最後の晩餐になるとか願い下げだよ!スプーン落としただけで滝のような汗が流れそうな環境で飯とか食いたくないわ!

 ・・・どんな料理が出るのかは興味あるけど。


「いや、でも」

「行くわよ」


 Aさんとフィオーラ嬢の間でキョロキョロと視線を漂わせる俺に自然に腕を絡めるの止めてもらっていいですかね?

 公爵閣下が既にご帰宅とか伺いましたが見られたらどうするんですか?

 シーナちゃん以外の人間の体温をこんな間近で感じるのは久しぶりでドキドキするんですけど?いや、そもそも日本でもこんな経験無かったけれども・・・。


 肘に、肘に胸が!・・・当たってる?当たってない?微妙なニュアンスだなこれ。

 胸なのかそれとも胸筋なのかもしかしたら脇肉かもしれないし。バラにロースにサーロイン。

 あ、たん塩にネギは要らないです、裏表焼きたいのでネギが落ちちゃうんで。後乗せで。後乗せでお願いします!

 なんて考えてるうちに公爵家の食堂に到着、扉を両側に控えているメイドさんが開いてくれる。腕を組んでるので新郎新婦ご入場みたいになっちゃってるんですけど?


 大貴族様の食卓と言えばなんかこう細長い部屋に横にずらっと並んで向かい合わせに100人くらい座れそうな、グルメレポーターが『食卓が満員電車や―』とか言っちゃいそうな配置のながーく並べたテーブルってイメージしてるかもしれないけどそこまではトチ狂っていない。まぁ一般人から見ればほぼ違いはないけど。

 そもそもパーティは大広間で開かれるモノだし、晩餐を共にするお相手なんて多くても30人くらいだ。いや、十二分に多いけどな30人で御飯。

 そこそこ仲の良かったクラスの同窓会でもそんなにあつまらなさそうだもん。


 なので普通のテーブルの三倍くらいの大きさのテーブルがでんと3つ、普段はクソでかい10人掛けのテーブルを三台並べて先頭の卓を10人で使う、人数が多ければ椅子を増やして最大50人くらいは行けるよ!みたいな?伝わってるのかこの例え。さっきも言ったけど長椅子タイプの電車の真ん中にテーブルが置かれてる感じ。

 まぁでっかい机に広々と座って食べると思ってもらえれば間違いないか?そして座席の間隔の詰め方は友好度の高さ。いきなりナイフとか出して飛びかかられても困るからね?


 さて、そんなどうでもいい話は置いておくとして食堂、そしてテーブルである。

 今日はご家族でのお食事だから卓に着く順番などそんなに気にしなくてもいいのだが・・・少なくとも俺が最後というのは非常に気まずい。

 繰り返しになるが他人だからね?俺。

 既に食卓に着いている公爵家の方々の総勢・・・男性が三名と女性が二名、フィオーラ嬢と俺を足せば総勢七名になる。これが多いのか少ないのかはわからない。


 そしてその中で出来ているグループはおおまかに4つ。


 まずは第一のグループ、いや、グループって言っても一人なんだけどね?

 おそらくは上座にあたる机の先端(電車だと運転席だな)、所謂『お誕生日席』に腰掛ける初老の男性、大きな絵――竜退治をする騎士の絵――の前にでんと腰を下ろすのはどう見てもコ○ン・ザ・グレート。探偵小僧の方じゃなく野蛮人の方のコ○ンだな。

 うん、フィオーラ父さん、お屋敷の主、キーファー公爵閣下ご本人である。

 第一印象は『ものすごい眼力(めぢから)』。挨拶したくらいじゃそれしか印象に残らなそう。とりあえず目が合ったので黙礼しておく。目礼じゃなく黙礼な。


 そして第二グループ、公爵閣下から見て右側に一人で座る男性と言うか青年。27、28歳くらいだろうか?30歳は超えて無さそう。おそらくご長男、名前は知らない。

 父親が武闘派の組長ならこちらはインテリな若頭。金庫番って感じの切れ者の男前。目は笑ってないけどこちらに微笑んで目礼してくれたのでこちらも笑顔で黙礼。


 右側、ご長男から少し間をあけて座るのは我が麗しの女神・・・ではなくフィオーラママ、オースティア様。

 隣に二人分のカトラリーが用意されてるのでおそらくあそこに俺が座らないといけないのだろう。ここが第三グループ。

 てかさ、カトラリーってカラトリーって言い間違えがちじゃない?そんなことない?

 シミュレーションをシュミレーションって言っちゃうみたいなさ。


 最後になるが公爵閣下から見て左側、ご長男やオースティア様が(たぶん俺とフィオーラ嬢が)座る向かい側、女性が一人と男性が一人。

 女性はオースティア様よりそこそこ年上に見える。隣の男性は20歳前後か?ふたりとも完全にこちらを見下している目だなあれは・・・。

 いや、公爵家の方々の正しい下民に対する接し方なんだけどね?俺は特に含む所も何も無いのでこちらにも満面の笑顔で黙礼。人、それを威嚇という。


 フィオーラ嬢に促されながら空いていた席――予想通りオースティア様の隣に俺、そして俺の隣にフィオーラ嬢と着席する。

 あれ?どうして挟んじゃったのかな?両手に花?むしろむっちゃ離れた場所に一人で直立していたかったよ・・・。

 そして静かに始まる晩餐会・・・と言う名の生き地獄。無言で知らない人と飯食うとか結構なストレスだよ?

 ちなみに食事はコース料理の様に食べ終われば次みたいな順番に出てくるわけではなく目の前にどんどんとお皿が並べられて行く。


 さて、何から手を付けるのが正解か・・・コース料理って食べる順番があるんだよね?

 ジョシュアじーちゃんに礼儀作法は習ってるけどフォーク、ナイフの使いかたくらいで晩餐会の料理なんて出てきたこと無いし・・・。

 日本でも親戚のおじさんに何回かお上品なリストランテに連れて行ってもらった事があるからちょっとは分かるけど・・・ここ、異世界だからなぁ。

 とりあえず様子見で隣を・・・みんなでこっち見てるよ・・・。

 まぁいいや、よくよく考えればただの使用人風情にテーブルマナーとか求めないだろう。さすがに手づかみは不味いだろうけどお嬢のメンツを潰さない程度に俺が出来る範囲で上品に食べる!これだな。

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