王都公爵邸編 その2 ネッシー

「メルティスも変わりなかったかしら?あら、そちらの稚児さんはどなたかしら?」

「お父様にはお手紙で知らせてあるのですが何もお聞きになってませんか?」


 いやいや、もう既に稚児さんって言う年齢じゃ無いんだけどね?まさか『お稚児さん』の方の意味じゃないよね?絶対に違うからね。生粋の女好きだからね?

 それはそれで年頃の娘さんの側に置くには大問題だと思うけど。


「そう言えばふた月ほど前に一時期荒れていたことはあったけれど・・・その子が原因なのかしら?ふふっ、いい歳になった娘にやっと春が来るかも知れないというのにこまったお父様ね」

「お母様、私はまったくいい歳ではありません。まだまだ若輩者ですから、ほら、この肌と髪を見ていただければおわかりになるでしょう?ええ、ええ、お母様とは違いまだまだお尻に殻のついた雛のようなものですもの」

「まぁまぁフィオーラさんったら、それじゃまるで母が年老いたようではないですか。私も未だに社交界の華、言い寄ってくる殿方も・・・フィオーラさん、ちょっとこちらに。この髪は・・・サラサラとしていい匂い・・・肌も前より張りと艶が・・・」


 なんだろうこれ、感動の再会だったはずがいつの間にか不穏な空気に。所謂『風雲急を告げる』状態なんだけど。

 ほら、メルちゃんもいつの間にか少し離れて気配を消してるしさ。てかあんたそんな特技あったのかよ!


「まぁこれも私を愛する殿方の力なのですけどね?ねぇあなた」


 おい、誰があなただ誰が。そして厄介そうな話題をこっちに振るんじゃない!!・・・っていつもなら怒るところだけどさ。

 物凄い美人さんの前に跪いてしっかりと目を見つめながら挨拶する。


「お初にお目にかかります美しい方。私、そちらのお嬢様に拾っていただいたハリスと申します。お嬢様のお姉様・・・失礼、お母様ですよね・・・いえ、そうして並ばれているとどう拝見させていただいても仲睦まじい美人ご姉妹にしか見えなくて・・・」

「まぁ、お上手な方ね。フィオーラの母のオースティアです。よろしくおねがいしますわね」


 オースティアさんか・・・なんて素敵なお名前・・・そっと差し出された手を右手で優しく包み、ゆっくりと唇を手の甲に


「ハリスっ!そこまででいいですから!と言うかあなた、私に初めて挨拶した時と感じが違いませんか?少なくとも手にキスなんてしようとしませんでしたよね!?」

「えっ?だって・・・」


 だって、すごく、好みのタイプ、なのだもの。

 そっと握っていた俺の手と公爵夫人の手を引き剥がす公爵令嬢。

 鬼、悪魔、お嬢様っ!!


「ああ・・・」

「どうしてそんなに残念そうにするんですか!?見た目は若作りですけど普通におばさんですよ!?」

「フィオーラさん、母のことを言うに事欠いて若作りのおばさんとは何事ですか?いいでしょう、久しぶりにゆっくりと教育して差し上げましょう」

「あら、私も成長はしていますのよ?いつまでも言いなりの娘だとは思わないでいただきたいですね」


 やめてっ!私の為に争わないでっ!!

 被害が、被害が無辜の民に広がっちゃうから!!


「ハリス、戦の支度を!」

「あら、ハリスくんは私の陣営ではないのかしら?」

「はい、奥様」

「裏切られた!?」


 仕方ないんや、清楚な(清楚とは言っていない)お姉さんとか大好物なんや!!

 だいたい(中の人の)年齢的にはお母さんの方がしっくり来るからね?


「まぁ冗談はこれくらいにして」


「「冗談で戦は出来ませんわよ?」」


「あんたら息ピッタリだな実は仲いいだろ」



 てことで挨拶も終わり(?)お嬢様のお部屋に戻った(??)フィオーラ様と愉快な仲間たち一行。

 最初はちょっと拗ねていたが何故か『そうよね、小さい頃に家族を亡くしたのだものね、母親が恋しくても仕方がないわね』と良くわからない納得をされ微笑まれてしまった。

 フィオーラ嬢、もしかしたら思い込みの激しいタイプなのかも知れない。


 特に母が恋しいわけでもないですし元家族は貴族街の片隅の端っこでまだ生きてるはずでございます。

 少し落ち着けば旅の埃を落としたくなるもの、お嬢様たちはお風呂に――入ろうとしたらお湯が入っておらず(王都の)メイドさん達が大騒ぎ。

 集団で泣きながら石の床に頭を叩きつけての謝罪である。


 ヒクワー公爵家ヒクワー・・・。


 まぁ俺が直ぐに魔法でお湯を入れて事なきを得たけどね?

 ふふっ、(王都の)メイドさんたちの感謝の視線が熱い!あ、付いてきたAさん、どうして俺の手を握り感謝するメイドさんを散らしてしまうのか。

『これは我々北都の者の財産』とか意味不明の供述をするCさん、世紀末に殴り合いを始めそうな集団に巻き込むのは止めて下さい。

 お嬢様達が入る前に石鹸、シャンプー、リンス、タオルにバスタオルとお風呂セットもご用意。


 ・・・あれ?これって俺は入れないよね?お風呂は?俺の大きなお風呂は?

 まぁ借りたお部屋にちっさい湯船(猫の足のような四本の支えが着いた浴槽、通称猫○ス)出すか・・・。

 広い風呂でプカプカ浮かびながら「ネッシー」とか叫びてぇなぁ!ネッシーって何だって?もちろんナ二だよ言わせんな恥ずかしい。

 本当に恥ずかしい。人間として恥ずかしい。

 まず部屋を借りれるかどうかから不明だけどさすがにフィオーラ嬢と同室って事はないだろうし。


「ハリス、暇なら中庭で稽古をしないか?」

「ん?ああ、いいですよ。行きましょう」


 渡り廊下の柱にもたれて腰を降ろし庭を見つめながら黄昏れていたら(ボーッと風呂のこと考えてただけなんだけどね)いきなり中島・・・じゃなく石鹸の匂いをさせたメルちゃんに野球・・・じゃなくて剣の稽古に誘われたのでその後は夕食前まで思いっきりせっ・・・せんをした。

 お風呂入ってきたなら汗が出ること態々しなくてもと思ったけどもう一度入ればいいだけだしね。

 てかどうして『今日は体には打ち込んで来ないんだな』って少し寂しそうなんだよ。

 えっ?叩かれたい感じなの?むしろ叩かれて感じるの?やっぱり女騎士の業からは誰も逃れられないのだろうか?



 メルティスとハリスが剣の稽古をしていた時間のフィオーラの私室。

 風呂上がりの美しい母娘が二人で悪巧・・・語り合っていた。


「それでフィオーラ、あの子は手紙に書いてあった様に精霊様が視えるの?」

「ええ、間違いなく。視えるだけではなく精霊様がお一人で彼の部屋を訪れるほどに気に入られています」

「そんなこと・・・それじゃあまるで初代様みたいじゃない」

「むしろ初代様以上かも知れません。精霊様の声を聞くことが出来るようなので」


「にわかには信じられないわね・・・いえ、信じられないのは次の手紙の内容の方だけれど。何なのよあの『全属性の魔水晶を作成可能』って。そもそも魔水晶を創るなんて初めて聞いたわよ?」

「それでも本当のことです。私の目の前で創って、正確には使い終わった魔水晶の破片からの再構築をするところを見せてもらいましたから。もちろんその後属性を付与する所も」

「そんな・・・そんな事が出来るなら国中の貴族が、いえ、他国も含めて大騒ぎになるわよ?どうにかして自分の手中に収めようと」

「もちろん自粛するようには伝えてるのですが・・・イマイチ重要性が伝わっていないようで・・・」


「そして最後に『転移魔法と時空庫』だったわね。こんなの二つともおとぎ話とか伝説の魔法じゃないの」

「それでも事実ですよ?時空庫は何もない所からモノを出すのも見ましたし、今も大量の錬金術などの材料をしまってますから。転移魔法は・・・その、おトイレ」

「トイレ?お手洗い?ご不浄?」

「はい、トイレの椅子の部分に転移魔法が仕込まれています」


「・・・旅の疲れでも出たのかしら?」

「違います!お母様も使ってみればわかります!あの座り心地にあの紙の柔らかさ、そして水で流せるのでにおいも気にならないのですよ!?」

「え、ええ、わかりました、わかりましたので座りなさい、とても気持ち悪いです」

「なぜ!?」

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