孤児院編 その13 二人は友達だから

「ほら、私って公爵令嬢で聖女様じゃない?」

「お、おう、自分でソレ言っちゃうのはそこそこのツラのカワだと思いますが」


 その二つがなくとも超美少女で性格も良いとか神様の依怙贔屓も極まれりって感じだけどね?

 椅子から立ち上がり俺の前に屈むとこちらを覗き込むように見つめるフィオーラ嬢。

 やめろ、その攻撃(真っ直ぐな視線)は惚れてしまう危険性が有る。


「ちょっと浄化(ターンアンデット)されちゃいそうなんであんまりこっち見ないでもらっていいですかね?」

「あなたはゾンビか何かなのかしら・・・」

「死にぞこないって意味では似たようなモンじゃないですかね」


 取り憑いちゃってる(?)んだからむしろもっと凶悪な何かのような気もするけど。

 ・・・マジで心優しい幼女が居なかったら現在のハリス君ではなく暗黒ハリス君になってたかもしれないからな。


 そしてこっち見ないでって言ってるのになぜ眼力強くするのさこの子。美人のジト目ってほんっとに攻撃力高ぇなおい。


「このひと月でそこそこ仲良くなったじゃない?」

「そんな恐れ多い」

「そんな私に何か頼みたいことは無いのかしら?」

「そんな恐れ多い」

「ぶつわよ?」


 我々の業界ではソレをご褒美と呼ぶんだぜ?

 頼みたいことねぇ。あやかりたいとかかねかりたいとかそう言う?いや、別にここ(孤児院)出たら普通に稼げるしな俺。

 むしろ空前絶後の芸術家とか目指せるYO!金儲け以外には芸術にも美術にも何の興味もないけどさ。


 そして・・・特に仲良くなってはいないんだよなぁ。どちらかと言えばそれなりの距離を置いてる・・・はず。

 たまたま奇妙な遊び道具と言うか奇怪な生物を見つけた貴族のお嬢様の暇つぶしに付き合ってるだけ。


 だと思わないと・・・マジ惚れしちゃいそうになるくらいには良い子なんだよなぁフィオーラ嬢。

 あ、でも俺が好きなのは女騎士ちゃんだからね?安心してね!と目で合図を送ったら睨み返された・・・解せね。


 アレだな、リリアナ嬢に横恋慕したハリス君の事笑ってられないな。

 だってさ、暇つぶしとは言え超美少女が日を置かずに来てくれるんだよ?勘違いしても仕方ないじゃないか、DTだもの。


 ん?前世(前異世界)で娼館とか行かなかったのかって?

 勇者がそんなトコ行ける訳無いじゃん・・・そんな事誰も気にしてないのに見られてるって思い込む程度には自意識過剰気味だったしさ・・・。

 完全に黒歴史以外の何物でもないからね?前世。特に・・・悪い方向で。


「どう?思い当たることはないかしら?」

「んー・・・特にコレと言って思いつかないですけど」

「何故思い当たらないのか理解に苦しむわね・・・ほら、あなたのその淀んだ目に映ってるのは聖女様よ?」

「金貨一千、あ・・・ほっへはをうまうのはやめへくらひゃい、ちみにいらいれす」


 お客様!いけませんお客様!体に触れるのは禁止されております!YESロリータ!NOタッチ!でございます!

 俺ロリータじゃねぇしそろそろショタも卒業だけどね。

 うん、そこまで聖女様全面に推し出されたら言いたいことは猿でも分かるだろうけどさ。


 でも・・・それをあなたに、知り合ったばかりの親切な少女を利用するように頼むのは違うと思うんだ。


「どうしたのよ、何でそんな困ったような顔をするのよ・・・」

「えっと、何と言うかですね」


 頭の中を少しだけ整理してから口に出す。


「この怪我って自業自得の結果だと思うんですよね。言うなれば『賭け事でこしらえた借金』みたいな。それをお金持ちの友達が出来たからこれ幸いと『お金貸してくれない?』って言うのは少々図々しすぎると思いませんか?」

「特に思わないわね。利用できるものは死体でも利用するのが貴族だもの。でもあなたが想像していたよりも面倒くさい性格だとは思ったわ」

「自覚はあります」

「自覚があるなら直しなさいよ・・・」


 ハリス君の能天気さに侵食されてこれでもずいぶんマシになってるんだよなぁ・・・。

 そして貴族って恐ぇなぁ・・・。

 などと考えていると


「ふふっ、ハリスは私のことを友人だと思ってたのね」


「そんな恐れ多い」って言おうと思ったけど・・・はにかんだような、今まででも一番自然な笑顔をこちらに向けてくるフィオーラ嬢に何も言えるわけもなく――てか声が出せなくなる様な笑顔ってどれだけの破壊力なんだよ・・・。

 ホント浄化されちゃうからやめて!あと恥ずかしいから!!


「それで話は戻るんだけど」

「あ、戻っちゃうんすね・・・」


 さすが上級貴族、押しが強い・・・。


 ・・・

 ・・・

 ・・・


 その後少しすったもんだがありまして(NOTおっぱい)・・・。


「じゃあこうしましょう、俺がお姫様(おひぃさま)から個人的に金貨を一千枚借り入れするって事で」

「何がじゃあなのかまったく理解はしていないけれどあなたがそれで納得出来るのならもうソレでいいわよ・・・」


 司祭様に羊皮紙と筆記用具(羽ペンにインクとか言うクッソ使い難いヤツ)を用意してもらい金貨一千枚の借用書を用意する。

 友人だからこそこう言う証文は大事。まぁそれ以前に友人から借金するのがどうなのかとも・・・堂々巡りになっちゃうので一端置いておくが。


 てかさ、金貨一千枚、この世界の一般労働者や農家なら普通に働いても数十年掛かって、むしろ死ぬまで働いても返せるかどうかの金額をまともに就労すらしてもいない未成年者が借り入れとかトチ狂ってるとしか言いようがない。

 まぁフィオーラ嬢は貸したとは思ってないかも知れないけど・・・。


 借りたものはちゃんと利子を付けて返す!もちろん恩も仇もな!!

 それがこの厳しいけど優しくもある異世界で『やりなおし』させてもらってる俺のジャスティスなのだ。

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